FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第10章


午前4:00
作戦は開始された。
どうやって侵入してきたのか、一体どこに隠れていたのか、街のあちらこちらからからガルバディアの制服に身を包み、手に武器を携帯した兵士達が音も無く姿を現した。
かなりの訓練を積んだ手馴れの者が多いのか、その動きは機敏で無駄が無い。
夜明け前のまだ暗いこの時間、いつもなら大勢の人間で溢れているこの小さなアジトは、今はシンと静まり返っていた。
一番奥の部屋の、高い位置にある明かり取りの窓から様子を伺っていたスコールは呟いた。
「…始まったな」
昨日突然流れた妙な噂。今日の早朝、ガルバディアの一斉攻撃が始まる…
噂はあくまでも噂でしかなく、確実に実行されるかどうか真偽は疑わしかった。
しかもこんなに時間が無い切羽詰った状態で、どれだけの兵士が押し寄せるのかどれだけの規模の攻撃力があるのか詳しい状況を知るための時間は無かった。
人づてに流れた情報は正確さに欠ける。
ましてや、短い時間で大勢の人間を介して入った情報がどこまで正確なものなのかなど分かるはずも無く、この小さなアジトの中に齎された情報も、人によってバラバラだった。
スコールのところにも、いくつもの情報が流れた。
どれが本当でどこまで正確かは、正直判別できるものではなかった。
しかし、そんな中でも一際気になる情報があった。
“ガルバディア軍がSeeDを要請した”
というもの。
この時代、SeeD=バラムガーデンという考えが一般的になっていた。
ガルバディアやトラビアにも当然SeeDと呼ばれる人間はいるが、復興に忙しいトラビアや卒業生の多くが軍に入隊してしまうガルバディアとは違い、その派遣業務を一手に引き受けるのはバラムだけだったのだ。
すぐにでもバラムガーデンに連絡を入れ、事の真偽を確認したいところだったがそんな余裕は無かった。

ふいに遠くで銃声が鳴り響く。
そしてそれは次第に数を増してゆく。
それと共に大勢の人間の声や足音も聞こえ始めた。今回の作戦の兵士達はよほどの実力を持つ優秀な兵ばかりなのだろう。
このアジトからも、レジスタンスのメンバーが大勢戦いに参加している。
人の出入りも激しくなっていく。
辺りのざわめきが騒然となってゆく。
ビリビリと張り詰めた緊迫感はリノアにも伝わっているのか、スコールの側を離れようとしない。
外の様子を伺っていた小さな窓に、どこからか飛んできた1発の銃弾が小さな穴を開けた。
備え付けられた小さなスツールに置かれたグラスがそれと同時に派手に飛び散った。
微かな悲鳴を上げてしがみついたリノアに声を掛ける。
「窓から離れるんだ」
次第に明るさを増してゆく街の中は気の休まるところなど無い、激しい戦場だ。
アジトの中が急にざわつき始めた。この場所がガルバディア軍に知られたのだ。
…当然だ。
今回の作戦の中にはバラムガーデンのSeeDが参入している。
これまで多くのSeeDがこの場所に足を踏み入れているのだ。
時間の問題なのは明白だった。
アジトの内部のざわめきが喧騒に変わる。
怒号と銃声と悲鳴が入り混じる。
「…侵入されたようだな」
ここに近付いている足音を聞きながら、部屋の中で自らの武器を構える。
部屋の入口に無造作に掛けられたカーテンが引き裂かれ、幾人もの足音が雪崩れ込んできた。
互いの顔を見て、はっとする。

「久しぶりね、ナイト」
「まさか、あんたが動いてたとはな…」
「トゥリープ教官!」
「気を付けて!彼は一筋縄ではいかないわよ!」
キスティスと共に走りこんできたガルバディアの兵士数名は、スコールによって声も上げられぬまま倒された。
「…私達の目的は、分かってるわね」
「…だからといって渡すと思うのか?」
「…でしょうね」
スコールの目が、変わってゆくのを見つめていた。
ランスは、またあの時の目を思い出す。
獣のような、夜叉のような鋭い眼光を放つ恐ろしい目を。
“敵”に対しては容赦など全く無い彼の性格は、先日の任務で思い知ったはずだった。
それでも、今彼と対峙している、今自分の前に立つ人物への敵意など出るわけが無いと、どこか気の緩みが表れていたのかもしれない。
今の彼の目がそうではないと、言葉も無く物語っている。
目に見えない何かが彼から発せられているような、自分に向かってまるで風でも流れているような、大きな気配のようなものを感じていた。
突然それがフッと消える。
部屋の更に奥から誰かが現れた。
「…スコール?」
「出てくるな!!」
思わず自分達から目を逸らし、その人物を怒鳴りつけた。
「今よ!!」
瞬間を見逃さなかったのはキスティスだ。
手にした長い鞭でその人物を絡めると同時に引き寄せ、もう片方の手をスコールに翳す。
「ブリザラ!」
怯んだスコールが目を開くと、頭上に振り下ろされる剣先が光った。
咄嗟に反応した腕が、自らの武器でそれを受け止める。
「ジョシュ!」
ランスが叫ぶ。
「ファイラ!」
剣が離れると同時に襲い掛かる炎の塊。避けきれずに思わず空いた手で払いのけようとした。そこに更に魔法が襲い来る。
「スリプル!」
炎が消えたことを確認したスコールが自分の身を包んでいた別の魔法に気付いた時にはもう遅かった。
急激な眩暈の感覚に囚われる。立っていることができない。
フラフラと足元も覚束ず、思わず片膝をついてしまった。
3人のSeeDの向こう側に、リノアを拘束したキスティスが見えた。
「…くっ…リ、リノア…」
彼女も眠らされたのか、反応が無い。キスティスが何か言っているが、もう何も耳に入らなかった。
薄れ行く意識の中で、見覚えのある制服を着た4人がリノアを連れ去って行くのをただ見ていることしかできなかった。



街の中は、酷い有様だ。・・・この状態を街とまだ呼べるなら…
もう既に日は昇りきり、辺りはすっかり明るくなっていたのだろう。
しかし、目に入るのは白や黒の煙。そして血の色。
戦闘は小康状態となり、互いに動くものはほとんど見られない。
車の走る音、どこから聞こえるのかわからないラジオ放送、電波の悪い無線の雑音、切れた電線のスパーク、流れる水の音、そして悲鳴と鳴き声。
精鋭ばかりを集めたガルバディアの、圧倒的な制圧だった。
レジスタンスの姿はもう見えなかった。
そのほとんどが捕らえられ、また殺害され、一部は逃亡した。
仮に設えた町外れの基地には、作戦に参加した大勢の兵がぞろぞろと引き返してくる。
レジスタンスとの激しい戦闘を物語る負傷兵士の数を見れば、どれだけキツイ戦いだったのかがよく分かる。
カーウェイは待っていた。自分が雇った人物達を。
やがて、1台の車が目の前に停車した。降りて来た人物こそ、彼が待ち侘びていた当事者だ。
「任務完了しました」
敬礼と共に答える4人のSeeDが目の前に整列した。
車の荷台部分は観音開きのドアになっており、中にはカプセル状のケースに入れられた人物が乗せられていた。
「…リノア!!」
思わずカプセルに縋りつく。
「ご安心下さい、教官。眠っているだけです。…人形ですけど」
「!! …そ、そうだったな…すまない、つい…あまりに似ていたものでな」
「私も驚きました。まさかここまで精巧に作れるとは…」
「このカプセルは?」
「ガーデンで用意したものです。…いくら見た目がそっくりでも、触れられれば解りますから…。表向きはどうとでも理由を付けてくださって構いません。」
「………」
「…本人は無事ですよ。場所までは言えませんが、安全なところにいます。」
その一言で、カーウェイの顔に僅かに明るさが戻ったことにキスティスは気付いた。
「君たちには、辛い任務を与えてしまったな」
「…いえ、もっと辛い思いをしている人物を、我々は知っていますから」
「スマンな…」
「任務は終了しました。私達はこれで失礼します」
キスティスの敬礼に続き、3人のSeeDも同じ敬礼を捧げたのを見て、カーウェイはガルバディア式の敬礼を返した。


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