FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第9章


魔女が倒されてから、その任を降ろされ軍から半ば追放同然に追われたカーウェイは、今後の身の振り方をずっと思案していた。
『私と一緒に解放軍に入って欲しい』
そう娘に言われたときは、それまで抑え続けてきた苛立ちをつい爆発させ怒りのままに怒鳴りつけてしまった。
つい先日までその解放軍、レジスタンスと敵対する軍に身を置いていた自分をよりにもよって引き込もうとするなんて…!
一度は回復したかに見えた親子の情は、そこでまた切られてしまった。
その日を境に、娘は1度も顔を見せることは無くなった。
ティンバーでの彼女の噂を耳にすれば、密かに安堵した。
ガーデンからの誘いが有難かった。
また軍人を育てていることに変わりはないが、それでも以前のような心の無い兵士を育てるようなことは避けるべきだと考えた。
現在の大統領のように政界に足を踏み入れるものも多く、自分にも誘いの声が掛けられることが何度かあった。
…もし、政治の世界へ入りガルバディアを守護するべき立場になったら、敵対するティンバーを、娘がいるあの町を自分はどうしようとするだろう。
『どうして、お母さんの故郷を返してくれないの…?』
また、娘の悲しそうな声が聞こえてくる。
いつの間に、こんな顔をするようになってしまったのだろう?
出会ったばかりの頃のキミに、どんどん似てゆく娘が、同じ声で綴るそんな言葉に返事をすることもできないなんて…

大統領の言う通りに軍に戻れば、望む地位を手に入れられる。
しかし、それでもこの戦いは終わらないだろう。
ティンバーに独立の日が来ることは遠いことだろう。
どんな地位を手に入れたとしても、一番上に君臨するのは大統領に他ならないのだから。
上からの命令は絶対だ。逆らうことは許されない。
悪くすればリノアをこの手にかけることになってしまうかもしれない。
かと言って断ったとしても、このまま返答をしないでいたとしても、何らかの形で強攻策に出るだろう。
ボルドの政策はあくまでもかつてのデリング大統領と同じ国政なのだから…
「…所詮私は一介の教員でしかないのだから…」
…教員。
…教員…?
…教員…! ガーデンの!!
「そうだ!ガーデンだ!」
突然浮かんだ考えがよく纏まらないまま、カーウェイは慌ててどこかへ連絡を入れ始めた。

次の日、通常通りにガーデンへ勤務に向かったカーウェイに、朝一番で学園長から呼び出しが掛かった。
昨夜の嫌な気分を思い出し、それでも行かなければならない立場を恨んだ。
学園長室の扉をノックすると、歳若い学園長の返事が返ってきた。
断りの挨拶と共に開いた扉の先には、なぜか薄い笑みを浮かべて立つガルムがいた。
「朝一番に悪いんだが、ちょっと君にやってもらいたい任務が入ってね」
1枚の書類と共にカーウェイに差し出された言葉は、どんな意味を含んでいるのか答えを聞くまでも無い。
渡された指令書にざっと目を通す。
内容は、…魔女の拘束。
(やはり…)
指令書の最後には大統領のサイン。大統領からの直々の命令ということか。
「自分は、先日のお誘いを受けたわけではないのですが…」
「ここは、ガーデンだ。これはあくまでもガーデンに依頼された任務。…軍人としても、ガーデンの教官としても動けるってことさ。
 …あ、手段や人事は一任するそうだよ。期限は設けないけど、早めに頼むってさ」
書類に目を落としたまま何も答えないカーウェイの肩に手を乗せ、ガルムは静かに耳元で囁いた。
「…残念だな。ジュリアのファンだったのに」
「!!!」
小さく了承の意を伝えると、カーウェイは学園長室を後にした。

『キスティス・トゥリープです。カーウェイ教官』
通信機の向こうから聞こえてきた馴染みの声に安堵した。
「指令を受けた。準備が整い次第すぐに計画の実行に移りたい。そちらからは何人動かせる?」
『私が向かいます。他に正SeeDが3名です』
「助かるよ。では私も任務受諾の意を伝える。…本当にありがとう」
『まだそのお言葉は早いですわ、教官。
 こちらこそ、また共に仕事ができることを嬉しく思います。彼女は私達にとっても大切な存在ですもの』
かつて、同じ目的の為に互いに協力し合った経験を持つ彼らなら、その能力を生かしてきっと任務を遂行してくれる。
自分がボルドから受けた任務ではなく、自分自身がクライアントとなった任務を。
昨日の大統領からの誘いを受けた瞬間の気持ちは、まだ完全に払拭された訳ではない。この作戦が必ずしも成功するとは言えないのだ。
しかし、この期待に満ちた安堵感は何だろうか?
そしてそれと共に感じる高揚感。
こんな気持ちは久しぶりだ。
軍を辞めて新しい仕事に就いてからは、久しく味わったことが無かった。
これは、小さな依頼かもしれない。だが、結果によってはとんでもないことが起こり得る内容なのだ。
事によっては世界を巻き込む事件に発展してしまうかもしれない。
…成功させる。必ず!
祈るようにソファーに腰掛けたひざの上で両手を組んだ。

承諾の連絡は、学園長ではなく、指令を出した本人に直接自分の口から伝えたいと考えていた。
連絡した時間は丁度会議の最中で、短い時間だけ退席してもらっての通信だった。
「この度の指令、了承します」
『おぉ!やってくれるか!カーウェイ』
「…ですが、先日のお誘いの件は、申し訳ありませんがお断りさせていただきます」
『…そうか、残念だ。』
「その代わり、と言っては何ですが、この指令に関してはガーデンに身を置くものとして必ず成功させます」
『あぁ、良い報告を期待している』
「かしこまりました」
まだ会議の途中だと言うことが分かっていたカーウェイは、用件だけ短く告げるとすぐに通信を切った。
その後、何度かキスティスと連絡を取り合い、いよいよ計画実行の日がやってきた。

デリングシティに集められたガルバディア兵は予想を遥かに上回る人数だった。
各隊ごとに輸送トラックに乗り込み、準備が完了したとの報告と共にティンバーへ向けて出発した。
「私はガルバディアガーデン教官カーウェイだ。今回の作戦の指揮を執る。既に聞かされているとは思うが、今回の作戦は“魔女の拘束”である。
 実際に存在するのかどうか、はっきり言って確証は何も無い。聞かされた計画の通り、速やかに行動してもらいたい。
 潜入した密偵により、レジスタンス共のアジトはもう承知の上となっている。この機に一気に奴らを殲滅することも今回の作戦の大きな要因であることを忘れるな!
 作戦開始は翌朝0400時。現地に到着後、速やかにそれぞれの作戦の準備に取り掛かれ。検討を祈る!」
全ての輸送トラックに送られた通信は、全員の耳に届いた。
先頭を進む1台の軍用車の中で、通信用のマイクを元に戻したカーウェイは小さな溜息を落とした。
「…流石です、大佐」
「…よしてくれ。もうそんな地位ではないことは君も承知だろう」
「いえ、自分にとっては生涯変わることはありません。またこうして共に作戦に参加できる日が来るとは、光栄であります」
「…礼を言うのはわたしのほうだ。軍をやめた人間の下での作戦だというのに、よくこれだけの人員が集まってくれた。嬉しく思うよ」
「カーウェイ大佐のお人柄の賜物です。…それにしても、今回の作戦は少々無謀とも思えるのですが…」
「…そうだな。本当にいるかどうかも分からん人物を捕らえるなど…。上はよほど今回の対象人物を恐れているとみえる」
「大佐…。そのお言葉は…」
「私は、もう軍に身を置いているわけではない。本音が出ても聞こえなかったことにでもしてくれ…」


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