FINAL FANTASY [

□〜The 2nd War〜
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第6章


子供たちの楽しそうな声が響いてくる。
新しく出来たトラビアの町はずれにある果樹園では、ガーデンの年少クラスの野外授業が行われていた。
大人の身長ほどの低い木には、握りこぶしほどの赤い実がびっしりとつき、枝はその重みでしなっている。
今日は収穫の日。先日セルフィが各地に商談に行ったここの特産品を町まで運ぶのだ。
「先生から問題。この果物の名前わかる人〜〜?」
「ハーイ!ハイ!」
「知ってるー!」
「…みんな知ってるやん」
「じゃあ、みんなで答え、言おうか!せーのー…」
「「「「メレスイーツ!」」」」
子供達が一斉に答える。
子供達が大好きなこのメレスイーツは、そのまま食べても加工しても、甘く香りの高い果物だ。冬の厳しい寒さがその甘みをぐっと上げる為、この地方のものは特に人気が高い。
「よーし、ほんなら先生と競争や!誰が一番採れるかな?」
子供たちは背中に背負わされた大きな籠をゆらゆらと揺らしながら思い思いの木に向かって走っていった。
しばらくすると、1台の小型トラックがやってきた。乗っているのはこの果樹園を管理している夫婦だ。
「セルフィ先生、ご苦労様です」
「子供たちはどう?」
「うん、すっごく楽しそうや。おじちゃん、おばちゃん、ありがとう!」
「何言うてんのや。他ならぬセルフィちゃんの頼みやで。どんと任せぇ」
「そうそう、それに、あの子たち見てみぃ。ほんまにええ顔しとる!」
「…うん!」
トラビアが攻撃を受けた時、セルフィの大事な友人も何人か犠性になった。この2人の子供もそんな中の1人だったのだ。
そのことを思い出すと、セルフィは胸が熱くなり、涙が溢れそうになる。
それを必死にこらえ、誤魔化すように子供たちに向かって大きな声を出した。
「みんな集合!ここの園長さんにご挨拶するんや!」
子供達がセルフィの元へ駆け寄ってくる。そして2人の方を向くと、敬礼して声を揃えて挨拶してくれた。
この日収穫された果物は、小型トラックに積みきれない程になり、町の倉庫の中は山積みになった。

「はい、ご苦労さん。今日はここまでや。明日また別のお手伝いをしてもらうから、今日はゆっくり休みや!」
「こちらこそ、子供らにええ体験させてもらって、よかったわ。んじゃ、また明日!」
セルフィと子供たちは2人に礼を言ってからガーデンに戻った。
教官室に入るとすぐに呼び出しが掛かり、急いで学園長室へ向かう。
「あれ、セフィどうしたの〜?」
「アーヴィンこそ!」
「なんだろうね〜?」
2人が顔を見合わせていると、学園長がやってきた。
2人は慌てて立ち上がり、敬礼する。
「まぁ、楽にしてええよ。実はちょっと頼まれてくれんかと思てな。」
「仕事ですか?」
アーヴァインは問いかける。
「うーん、まぁ、仕事っちゃ仕事なんやけど、生徒達に任せるより君らにやってもろた方がええと思てな」
「そんなに難しい仕事なんですか?」
「いや、ただの案内係りや」
「それでしたら候補生でもできるのでは…?」
「まぁ、お客はんがこの方々やし、判断は任せるわ」
学園長が見せた写真には、クレイマー夫妻が写っている。
「そういうことや…」
「!!やります!私らで案内します!」
もう1枚手渡した紙には、行程が表記されていたが、それがこの通りに実行できるとは思ってはいなかった。
「まぁ、臨機応変に頼むわ。明日の授業は他の先生に任す。それでええか?」
「はい!」

次の日、セルフィとアーヴァインは2人を迎えに行くべく町外れに向かって歩いていた。
「久しぶりだな〜」
「そうだね〜。僕も久しぶりだから嬉しいよ。」
町外れまで来ると、こちらに向かって歩いてくる何人かの人影が見えた。
「あ、あれじゃないかな〜?」
「あ、ホンマや。ママ先生〜!」
セルフィは飛び上がって喜んだ。2人に気が付いたのか、シドも大きく手を振っている。
「お久しぶりです。マスターシド。イデア学園長。」
2人は敬礼すると、シドとイデアも敬礼を返した。
一緒に来たガーデンの生徒達に何かを告げると、生徒達は引き返していった。
「ここまで護衛についてもらっただけです。それにしても、2人共元気そうで何よりです。」
「本当に。今日はよろしくね。セルフィ、アーヴァイン」
「お任せ下さい、学園長!」
「ママ先生でいいわよ。でもよかったわ。案内をお願いして来てくれたのがあなたたちで」
「私達も光栄です。行きましょうか?あ、荷物持ちますね。アーヴィン、行こ!」
「さあ、マスターもどうぞ」
「あ、これはこれはすみませんねぇ」
4人はゆっくりと町の中へ足を進めた。

セルフィとアーヴァインは張り切っていた。
新しく出来た町を自信を持って見せることができる。それも世話になった親とも呼べる2人に。
4人は大きな倉庫にやってきた。すると中からたくさんの子供達がセルフィへと駆け寄ってきた。
「セルフィ先生ー!キニアス先生ー!」
「先生、どうして今日はセルフィ先生が担当じゃないの?」
「ごめんな、先生らな、今日はすっごい大切な仕事なんよ」
「何のお仕事?」
「紹介するね。バラムガーデンのマスターシドさん、隣が学園長のイデアさん。2人は夫婦なんよ。先生な、昔すっごくお世話になった人やねん」
「キニアス先生も?」
「うん、そうだよ〜。僕やセルフィ先生のお父さん、お母さんみたいな人なんだ。」
子供たちは、それまで少々警戒していた様子から一変し、尊敬の眼差しで2人を見つめた。
「こんにちは!」
「こんにちは」
子供達が口々に挨拶をする。
「はい、こんにちは。みんな、今日は何をしているのですか?」
シドが訊ねると、子供たちは楽しそうに2人の手を引いて倉庫の中へ連れて行った。そこには、昨日収穫した果物が山のように積まれていた。
子供たちの今日の手伝いは、その果物を大きさごとに分けて箱に詰める仕事をしていたのだ。
「見て!これ、昨日僕がとったんだよ」
一際大きな果物を両手で抱え上げ、イデアに自慢気に話す子。
昨日は何をしていたのか全部話そうとする子。
隣の子に負けまいと必死に果物を運ぶ子。
どの顔もキラキラと輝いて見える。
「みんな、少し休憩しようか」
本日の担当教官が静かに口を挟んだ。
そこへ果樹園の園長夫妻が切り分けた果物を山積みにした皿をいくつも運んできた。
「ママ先生も、マスターも一緒に!」
「まぁ、いいのですか?」
「え、私もいいんですか?すいませんねぇ」
「嬉しいわ。ここへはこれを食べに来たみたいなものだから」
「本当ですね。まさか収穫したばかりのものを頂けるなんて思ってもみませんでしたから」
子供たちと別れ、倉庫を出るとセルフィとアーヴァインは2人をバスに乗せた。
新しく作られた観光地に行く為だ。
トラビアは山間地の為、地下水が豊富だ。山肌に面したところは水はけが良いので果樹栽培には向いており、地下に滲みこんだ水は麓で川となる。
その為、果樹園の麓にはたくさんの温泉が湧き出ているのである。ここが整備されたのもごく最近だ。
セルフィもアーヴァインも1度だけ訪れたことがあったが、実際に入るのは初めてなのだ。

「あなた達のガーデンに行ってみたいわ」
「そうですね。学園長にも挨拶したいですし」
2人の言葉に、セルフィとアーヴァインも賛同した。再びバスに乗ってガーデンを目指す。
外の景色を眺めるイデアの様子がおかしいことに気付いたのはシドだった。
「…イデア、どうかしましたか?」
「ママ先生?酔っちゃったの?」
「大丈夫〜?止めてもらおうか?」
イデアは、細い涙を一筋流していた。
「…ごめんなさい、何でもないの」
無理に笑顔を見せるイデアに、3人は何も言えなくなった。
10年前の襲撃事件のことは、当然3人もよくわかっていた。
そこに彼女自身がこうして訪れることができたのも、10年という長い月日がかかった。
実際トラビアの人々の中には、未だに許せないという者もいるのは確かだ。
イデアの心中はなんとなく分かる。本当の気持ちなんて全てを理解することはできなくても、感じていることと同じ気持ちを自分も持つことができる。
苦しい彼女の胸の内は、表に出さなければ誰にも知られることは無い。だからと言って無理に聞きだすこともできない。
3人はただ黙って、彼女の想いを想像するしかなかった。

「初めまして学園長。お会いできて光栄です。バラムガーデンマスター、シド・クレイマーです。」
「初めまして、学園長のイデア・クレイマーです」
イデアの名を聞いて、ピクリと反応したことに気付いたのはイデア本人だけだった。
「…失礼だが、イデアというと…あの時の…」
「学園長!!」
言葉を遮って声を発したのはセルフィだった。
「…わかってる。ちゃんとキミたちの報告も聞いてるし、第一こんなに穏やかな優しいお顔をしてはる。言われてもとても信じられん」
改めて3人は握手を交わした。
セルフィとアーヴァインは思わず安堵の溜息をついてしまった。
「それで、如何でしたかな?2人の案内は?」
「ええ、本当に楽しく過ごさせて頂きました」
その後、学園長と食事を共にするという2人に一時の別れを告げ、セルフィとアーヴァインは学園長室を後にしようと立ち上がった。
するとシドが2人を呼び止めた。
「すいません、すっかり忘れていました。キスティスからの預かり物です」
シドから受け取ったのは1通の封筒。
中には手紙と映像ディスクが入っていた。
教官寮に戻った2人は早速再生させてみることにした。
モニタに映し出されたのはアーヴァインそっくりな2人の男の子。バラムガーデンの制服をきっちり着込んで笑顔を見せている。
『パパ、ママ、元気〜?僕たちはとっても元気だよ〜!』
『ホープ兄さん、僕にも話しさせてよ!』
『なんだよウィッシュ、ちょっと待ってろよ』
「…またケンカしてる」
「仲がいい証拠だね〜」
子供たちはガーデンでの様子や教官たち、友達や勉強について、楽しそうに話し続けた。
最初は笑顔で見つめていたセルフィだったが、やがて耐え切れなくなったのかアーヴァインの胸に顔を埋めた。
小さな嗚咽を繰り返すセルフィを、アーヴァインはそっと抱きしめた。


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