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□その言葉を聞くために
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飛鳥は壁にかかったカレンダーを見た。
今日は自分の誕生日。
早生まれの自分がやっと保と同じ年になれる日だった。
保は誕生日が早いから、同じ年でいられるのは数えるほどしかないが、その数日間が嬉しかった。


自分が生まれてきた意味。
それは”考える”ということを許された人類にとって最大の難問の一つだと思う。
誕生日だからか学校へ向かいながらそんなことを考える。
人によって異なる思想はやっかいで、難問が解けた人間に答えを教えてもらってもそれを無意味にしてしまう。
結局は自分が生まれた意味なんて、自分で考えて自分を納得させるしかないのだ。

「おはようございますー」
部室のドアを開けると、先に来ていた部員達から祝福の言葉がかけられる。
それに応えようとした瞬間、後ろから誰かに抱きつかれた。

「飛鳥君おめでとー!」
声でわかった。保だ。
「俺頑張ってケーキ焼いたんだぁ。食べて!」
体を離され、袋に入ったケーキを押し付けられる。
飛鳥は不意に空白だった欄に答えを書きこんだような気分になった。
ケーキから漂ってくる甘いにおいと一緒に、自分の中に保の存在も一緒にしみ込んでくるような、不思議な感覚がした。

「飛鳥君?」
普段のような高いテンションでの反応が返ってこないことを疑問に感じたのか、保が顔を覗き込んできた。
自分よりずっと大きな体を抱きしめた。
こんなとき自分の背が低いのが悔しくなる。
自分の方が背が高ければ、保の全身を自分で包んでしまえるのに。

「保くん、ありがとう」

人類最大の難問が、自分は今日解けてしまった。

”飛鳥”という人間が生まれた意味は、”保”という人間に出会うため、それだけで十分だ。

それに気づけたことも、保に出会えたこともとても幸せなことだった。
そしてそのことを幸せだと思えること自体が幸せなのだと感じた。

「保くんに会えてよかった」
腕に込める力を強くしながら呟くと、保の腕も自分にまわされる。
「俺も飛鳥君に会えて幸せだよ」
そして、耳元で続けられた言葉に、飛鳥は言葉にできないほどに喜びを感じた。


「生まれてきてくれてありがとう、飛鳥くん」


きっと、その言葉が聞くために自分は今日という日を迎えたのだとさえ思った。

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