ShortU

□死さえ二人を別てない
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奈央斗と智哉は双子だった。
外見は全く似ていないが、誰よりも仲がよく、小さい頃からずっと一緒だった。

それは成長した今でも変わらなかった。

「お前ら…いい加減にしろよ!!」
だから二人の兄である謙太がこう叫ぶのは日常茶飯事だった。

「謙太うるさい。奈央斗が起きちゃうだろ」
智哉が顔をしかめた。

仲が良いのはいいのだが、高校生になって一人部屋が与えられた今でもどちらかが片方のベッドの中へ潜りこんで眠っているのだ。

それを発見する度に謙太は溜め息をつく。いつまでもこんなことをしている弟たちが心配なのだ。
「お兄ちゃんたちは仲いいねー」
双子の下の弟、望はにこにこしているが、大学生の自分はそう呑気なことも言っていられない。
「お前ら高校生だよな!?男二人で寝てるのはおかしいだろ!」
「じゃあ俺が女だったらいいのかよ」
「それはそれで問題あるけど…」
謙太が口ごもった。
「俺は奈央斗とずっと一緒にいたいの!死ぬときだって二人一緒がいいんだよ」
「お前な…」
そこで智哉を抱き締めて眠っていた奈央斗が目を覚ました。
「智哉おはよ」
そして智哉の頬にキスをする。

「なっ…」
謙太は絶句した。
「うわ、朝から凄いねぇ」
望の笑みは深くなるが、こんな普通でないことがあっていいわけない。
「なにやってんだ奈央斗ー!!」
「何っておはようのキスだよ」
起きたばかりの奈央斗が当たり前のように言う。
「謙太にもやってあげようか?」
「いるか馬鹿!!ここは日本だそんな文化ねぇよ!!」


「まったく…」
朝食の用意をしながらぶつぶつと呟く。
「お前らお互いが好きすぎて結婚もしねーんじゃねーの」
呆れながら望が淹れたお茶に口をつける二人を見た。
「結婚か…。奈央斗の燕尾服姿、かっこいいんだろうなぁ」
うっとりとした表情で思いを馳せる智哉に肩を落とす。
「智哉も似合うと思うよ」
「本当か?」
何を言っても二言目には片割れのことばかり。育て方を間違えたのだろうかと本気で頭をかかえた。


その日もいつもの様に二人は揃って出掛けていった。
「また二人で遊びに行くのか」
「うん。智哉とデート〜」
「いいなぁ!俺も行きたい!」
「だーめ!!」
ついていこうとする望を押し退け、二人は仲良く出ていった。

「はぁ…」
「謙太兄ちゃんはなんで二人が仲いいのがそんなにやなのさー」
後ろに回り込んできた望の顔を見るため、座っていた椅子を後ろに少しだけ倒す。

「だって常識的に考えてあの仲のよさは異常だろ。お前は何も思わないわけ?」
「そうかなぁ」
望は首をこてんと横に傾げて、考えるような表情をする。
「仲がよければそれでいいと思うけどなあ」
「そういう訳にもいかなねーんだよな…」
謙太は体勢を戻すとテーブルの上に置いてあった本を手に取り、ぱらぱらとめくる。
「何読んでるの?」
「心理学書。論文に使えるかもしれないから…」
ページをめくる手がぴたりと止まった。
「これって…」



「奈央斗!次あっちの店行こうぜっ!」
「わかったからそんなに急がなくてもいいのに」
奈央斗道路の向こう側へ走っていく智哉を苦笑しながら追いかける。
「早くしろよー…」
振り向いた智哉の目に映ったのは、信号を無視して奈央斗に迫る大きなトラックだった。
「奈央斗ーーーー!!!!」
叫ぶ智哉の目の前で、奈央斗の姿はトラックに呑まれた。


『あるところに仲のいい姉妹がいた。
ある日二人が遊んでいると、妹が姉の目の前で事故にあい息を引き取った。
姉は傷一つなかったが、妹が亡くなってすぐに息を引き取ってしまった』


「なお…と?」
駆け寄っても返事はない。
いつも自分の声には必ず反応してくれたのに。
「おい…奈央斗…」
息をしていない。
心臓も動いていない。
それが示していることはただ一つ。
「あ…ああ…っ!!」
智哉の体が奈央斗に折り重なって倒れた。


「そんなことが起こるものなの?」
信じられないという顔をする望に静かに言う。
「これは実際の出来事を参考にまとめた資料だからな。『最愛の妹を失った姉の脳は、そのショックに耐えきれず機能を停止した』…」
「ふーん。脳ってすごいね」
仲がいい姉妹。
そのフレーズに二人の弟が浮かんだ。
嫌な予感がした。
「謙太兄ちゃん、病院から電話だって」
いつの間に着信があったのか、望が受話器をさしだしていた。



奈央斗が事故で息を引き取った。そして後を追うように智哉も。
死ぬ時も一緒なんて言っていたが、それがこんなに早く現実のものになるなんて、信じたくなかった。
泣きじゃくる望を連れて霊安室に入る。
最後に二人の顔を見ておこうと、顔を覆っていた布を外した瞬間、息を飲んだ。

医者の説明では奈央斗は事故に合い、それを目撃したショックで智哉は亡くなったと言っていた。
それなのに布を外した顔には、全く同じ個所に傷がついていた。
とっさに体にかかっている布もまくりあげ、足を見る。
そこにも同じ個所に同じ深さで傷が付いていた。
「なんだよ、これ…」
仮に同時に事故にあったとしても、ここまで同じように傷がつくものだろうか。
渡された書類を見ると、死亡時刻もまったく同じだった。
二人の顔をもう一度見ると、全く同じ頬笑みを浮かべていた。

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