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□俺とアイツと怪談と
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「これは、俺が中学の時に聞いた話なんだけど…」
頼りなく揺れる蝋燭の炎を目の前にして、どうしてこうなったのかと智哉は自問した。
「…ウチの中学で、何年か前に本当にあったんだって」
きっかけは本当に些細なことだったと思う。
「二人…仮にA君とB君としておくけど、その二人は親友同士だったんだ」
お泊まり会の定番と言えばコイバナと怪談。
しかし、部員の恋愛事情は大体把握しているからという訳で怪談になったのだ。
「けど、二人は全く同じ相手を好きになってな?A君とB君は口論になって…結局、A君はB君を三階から突き落とした」
誰かが鋭く息を吸い込む音が妙に部屋に響く。
それだけでも智哉の背筋には寒気に似た何かが走ってしまう。
「A君が何も言わなかったから、B君のことは事故として処理されて…A君は卒業した」
そもそも、智哉は怪談と名がつくものは大の苦手なのだ。
その上、今語っているのは語りの巧さに定評のある飛鳥だ。
「で、A君は地元に就職して、同僚と結婚して、順調な生活を送ってきた」
冷や汗に似た何かが智哉の頬を伝う。
温もりを求めて、手が自然と隣の奈央斗に伸びる。
「男の子も産まれて、本当に幸せだった…A君と妻の間に産まれた男の子が、A君の母校に進学するまでは」
手汗で濡れた手を、奈央斗の温かい手が包むのを感じで僅かに安心する。
しかし、飛鳥の口調にそんなものはすっ飛んでいった。
「A君の母校では親がしっかり来れるように日曜日を使って授業参観をやってて、A君も勿論子供の勇姿を見に行った」
体感温度が数度下がった、気がした。
「授業参観が終わった後…二人は廊下を歩いていた。そして気がついたら、二人きりだったんだ。A君がB君を突き落とした場所で」
恐いのに、嫌いなのに引き込まれてしまう。
「ふと双方口を閉じて…A君の息子が、言った」
肩に、誰かの温かさと重みがして、囁かれた。
「「今度は、落とさないでね」」
悲鳴さえ、出なかった。
体に力が入らない。
「閣下!?顔真っ青だよ!?」
妙に高い、悲鳴じみた声のせいで視線が集まるのを感じて、智哉は強張った口を開いた。
「腰が…抜けた」
空気はすぐに和らいだ。
「閣下、意外とカワイイところあるんだね」
腰を抜かせた元凶…もとい、囁いてきた奈央斗に向け、智哉は軽く拳を見舞った。
俺とアイツと怪談と
(「ふぅん…閣下怪談苦手なのか…」)(「次回はお化け屋敷ですね〜」)(「…飛鳥先輩?のんたん?」)