ShortU
□好きだったのに。
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「智哉」
名前を呼ばれる。
既に弱々しい力で声の主の方を向くが、ただ睨むことしかできない弱い自分。
――どうして、こうなったんだっけ。
「いいね、その無様な格好。そそるよ」
さも嬉しそうに、愉快そうに笑うそいつの、長い脚が、俺の腹に飛んでくる。
「っぐ、ぅ…!げほ、」
容赦ない蹴りに、思わず咳き込む。
無様な自分に、悲しみや怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。
「何、笑ってんの。智哉ってば実はドM?」
俺は目一杯の皮肉な笑みを浮かべて、
「…俺は愛に寛容なだけ、だぜ?優しい、って言ってくれよ…兄貴」
若干過呼吸になりながらも、そう言った。
すると、どうやら名前で呼ばなかったのが気に喰わなかったらしく、むっとした表情になると、手が後ろ手で縛られているため、がら空きの俺の脇腹を踏み付けた。
「あ、ぐ…っう、」
「ねえ、俺が智哉って呼んでるんだから、俺のこともちゃんと奈央斗、って呼んでよ」
「は、残念だったな…俺はセックスするときしか、兄貴のことは名前で呼ばなっぁあっあ!?」
一瞬目の前が真っ白になって、ビクリと全身が痙攣したような感覚が、駆け抜ける。
「おかしいなぁ、
結構強く踏んだ筈なんだけど」
兄貴は、俺のそれをさらに強く踏み続ける。
俺の口からは、嬌声というか、悲鳴にも似た声がもれる。
兄貴はそれを見て満足気に笑えば、もう一度俺を蹴飛ばして、咳き込む俺の髪を鷲掴みにし持ち上げる。
「い゛、いた…っ」
「どうしようか、このまま犯しちゃおうかな?」
冗談じゃない。今まで散々暴行を加えといて、挙げ句犯そう、なんて。
俺の身体が、もたない。
「優しい?嘘言わないでよ」
「っ!!」
不意に掴んでいた手を離したため、どさりという音と共に俺の体が地面に落ちる。
「智哉は十分俺を傷つけた」
兄貴の表情が、一瞬、悲しげなものになった。
「俺はお前を、信じてたのに」
嗚呼、パズルのピースが全てはまった気がした。
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