ShortU

□好きだったのに。
1ページ/2ページ

「智哉」
名前を呼ばれる。


既に弱々しい力で声の主の方を向くが、ただ睨むことしかできない弱い自分。


――どうして、こうなったんだっけ。


「いいね、その無様な格好。そそるよ」

さも嬉しそうに、愉快そうに笑うそいつの、長い脚が、俺の腹に飛んでくる。

「っぐ、ぅ…!げほ、」

容赦ない蹴りに、思わず咳き込む。
無様な自分に、悲しみや怒りを通り越して笑いがこみ上げてきた。



「何、笑ってんの。智哉ってば実はドM?」

俺は目一杯の皮肉な笑みを浮かべて、

「…俺は愛に寛容なだけ、だぜ?優しい、って言ってくれよ…兄貴」

若干過呼吸になりながらも、そう言った。


すると、どうやら名前で呼ばなかったのが気に喰わなかったらしく、むっとした表情になると、手が後ろ手で縛られているため、がら空きの俺の脇腹を踏み付けた。

「あ、ぐ…っう、」
「ねえ、俺が智哉って呼んでるんだから、俺のこともちゃんと奈央斗、って呼んでよ」

「は、残念だったな…俺はセックスするときしか、兄貴のことは名前で呼ばなっぁあっあ!?」


一瞬目の前が真っ白になって、ビクリと全身が痙攣したような感覚が、駆け抜ける。

「おかしいなぁ、
結構強く踏んだ筈なんだけど」
兄貴は、俺のそれをさらに強く踏み続ける。
俺の口からは、嬌声というか、悲鳴にも似た声がもれる。
兄貴はそれを見て満足気に笑えば、もう一度俺を蹴飛ばして、咳き込む俺の髪を鷲掴みにし持ち上げる。

「い゛、いた…っ」
「どうしようか、このまま犯しちゃおうかな?」


冗談じゃない。今まで散々暴行を加えといて、挙げ句犯そう、なんて。
俺の身体が、もたない。

「優しい?嘘言わないでよ」
「っ!!」


不意に掴んでいた手を離したため、どさりという音と共に俺の体が地面に落ちる。

「智哉は十分俺を傷つけた」

兄貴の表情が、一瞬、悲しげなものになった。

「俺はお前を、信じてたのに」



嗚呼、パズルのピースが全てはまった気がした。


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ