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□硝子の棺で眠る王子
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「鏡よ鏡、アスカガミ。この世界で一番カッコイイのは誰だい?」
『そりゃあもちろん、保くん…もとい王様さっ!』
「あはは、やっぱりな!」


硝子の棺で眠る王子


冬の終わりのある日。
この王国に、最初で最後の王子が産まれた。
というのも、王子を産んだ后がそのまま死んでしまったからだ。
王子は后の最期の願いから“智哉”と名付けられ、すくすくと美しく成長していった。

肌は真雪の如く白く。
髪は黒炭の如く黒く。
唇は血潮の如く紅く。
魔性の魅力を存分に引き出す、よく似合った黒衣を常に纏う彼は国王を押し退けて“閣下”と信奉されるようになった。

王は―――保は、それでもいいと思っていた。
自分の息子だ。カッコイイのは自分譲り。
だから構わないと、そう思っていた、けれど。


「鏡よ鏡よ、アスカガミ。この世界で一番カッコイイのは誰だい?」
『そりゃあ、昔は保くんだったけど今じゃ閣下だよ』
「なぁ!?」

そんな訳で、智哉王子は父であり王である保に命を狙われて城からの脱出を企み、成功。
しかし、そんな彼を追う影がひとつ。

「かっ…閣下っ…待ってぇ…」
「こっち来んじゃねーよ!バーカ!」

国王お抱えの狩人、名を颯。ただし、閣下信奉者。

「話を聞いてくださいって…俺は閣下を殺すつもりなんてありませんからぁ…」
「……………は?」

いぶかしんで足を止める智哉に追い付き、乱れた息を整えながら颯が説明する。

「いや、確かに王様に閣下を殺して心臓と舌を持ってくるように言われましたけど、ぶっちゃけ閣下殺したくないんで」

そういって、彼は無邪気に微笑んだ。

「…分かった、俺はもう城(うち)に帰らないことにする」
「じゃあ俺は猪殺して王様に報告しますねー」

二人は背中合わせに別れる。

「…これでよかったんだよ…」

颯の僅かな呟きが届くことはなく。



さて、一方の智哉。
夜になってからようやく小さな小屋を見つけた。

「…ちょっと疲れたし、寝るか。なんかベッドあるし」

一人呟いて、すぐに布団を被って丸くなる。
すぐに寝息を立て始めた彼は気付かない。
その小屋が廃棄されているとしても、妙に綺麗だったことに。


「あ、僕のベッドで誰か寝てる…」
『マジでっ!?』
「…し、死んでる?」
「いや、情熱的に考えてまだ生きてるし」
「普通常識的にだろ…」
「気にしたら負けだと思うぞ」
「で…この人、どうする?」
『うーん………』

が、小人達がワイワイしていたのが聞こえたのか、布団の中で眠っていた彼が目を開いた。

「…ぐーてんもるげん?」
「いや、ぐーてんあーべんとだね」
「誰が分かるのさそれ!?」
「ちなみにこんばんはってことだよー」
「わっかんねーし!」

ワイワイと智哉を放って繰り広げられる雑談に、ついに彼は吹き出した。
そして彼は、なし崩し的にこの愉快な小人たちと暮らすことになった。




一方、智哉の実家…もとい、某国の城。

「ふざけるな!智哉が生きているだと!?」

そういえば、あの狩人は熱烈な閣下信奉者であったことを思い出す。

「…そうだな、俺が確実に殺さないと……」

歪んだ笑みで、彼は鍋に向かった。
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