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□St.Valentine's Day
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「生チョコくれてやるー!」

全員が揃った部室に、いつも通りに明るい望の声が響く。

「…あ、今日バレンタインか」

訳も分からずきょとんとしていた部員達の間に響いた、智哉の声。
それに納得した面々が、不恰好な包み紙に手を伸ばす。


「智哉」

一番に手を伸ばした智哉の耳元で囁くのは、もちろん奈央斗。

「今夜、うちに来てよ。とびっきりのホワイトチョコをあげる」
「ホントか!?いくいく!!」

子供のようにはしゃぎながら当然のように応じた智哉は、言葉の裏に隠された意図を読み取っているのか。


「…優羽先輩」
「なに、夏樹くん?」

他の部員からは見えない角度から、そっと袋が夏樹から優羽に差し出された。
僅かに透けて見える中身は、どうやらガトーショコラのようだ。

「〜〜〜ありがとうっ!」
「わあっ!?」

不意に抱きつかれた夏樹が大きな声を上げるのを、他の部員はニヤニヤ眺めていた。



「ごめんなさい蓮先輩、忘れちゃいました」

潔く頭を下げる謙太に、蓮は手にとった生チョコをポケットにしまいながら首を振った。

「いいって、俺も忘れたし…」

ふわりと笑んで、蓮は言葉を繋げた。

「その分、ちゃんと作ってくれるんだろ?」

僅かに顔を赤くした謙太が、それでもはっきり頷いた。


「あ、じゃあ俺のも」

飛鳥が短めのチュロスが入った袋が生チョコの横に置いた瞬間、別の手がそれを取り上げた。

「飛鳥くんのチョコを食べていいのは俺だけなの!」

そう、子供じみた主張をするのは保。

「…つっても、俺が作った訳じゃないけど…」
「そ・れ・で・も!!」

苦笑する飛鳥に、ずいと顔を近付けて保は告げる。

「…飛鳥くんが持ってきた物を他の人に食べてほしくない」

そっぽを向いた顔が赤いのを、飛鳥は苦笑交じりに眺めた。


「んー…美味しいじゃん」

そう言いながら颯が食べているのは生チョコ…ではなく。

「お前に喜んでもらえてよかったよ」

若が作ったケーキである。

「颯のためだけに、昨日頑張ったんだから」

そう言って笑う若の表情は、とても晴れやかで。

「…お返し、奮発するから」

思わず照れてしまった颯は、その答えを返すので精一杯だった。



「…独り身は辛いねぇ」

カメラのシャッターを切りながら望がぼやいたのは余談である。


St.Valentine's Day


(「あれ、尚雪はー?」)(「生チョコ持って帰りましたー」)(「尚雪最近帰り早いよな…」)(「男だろ」)(「…だな」)

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