ShortU

□カルピスソーダ
1ページ/1ページ

初めて先生の部屋に招かれた。
部活終わりに先生の車に乗らされた尚雪は、滅多に見られない運転中の彼氏にこっそりときめいていた。
月灯かりが照らす駐車場を抜けても、先生の持っている部屋の鍵は鈍く光ってる。
そのせいで、尚雪の目にはいつもよりその大人の指が艶っぽく映った。
それを自覚した途端な恥ずかしくなり目を伏せた。
先生に、こんなことを。
どきん、どきんと胸が痛い位に脈打っていた。
この地域特有の恐ろしい寒さのせいか、下を向いてる尚雪の頬が真っ赤なのに気付いた。
早く上がりなよ、と声を掛けると緊張している背中が揺れた。
「…えっと、お邪魔します」
「もー水くさい」
「でも、礼儀じゃないっすか」
少しはにかんでそう言い、肩に掛けてあった荷物を床に置いて靴を脱いだ。
制服の外から感じられる若々しい身体にどきりとするが、また今日もお預けを喰らうのだと心の中でため息をついた。
ズボンと靴下の間から、足首が見える。
白い、白くて細い、脚。
伏せて下を見遣る目、長い睫毛、
「…中、良いっすか?」
「、あぁ、どうぞ」
尚雪を暖かい部屋の中に案内し、頭の中にはびこるやましい考えを追いやる。
ソファーに浅く腰をかける彼を横目で見
、キッチンへ向かう。
「何飲む?」
「せんせいは、何すか?」
いつものように人を第一に考えるところが可愛い、と感じた。
そうして何度か押し問答をした結果、何故だか二人ともカルピスソーダで落ち着いた。
先生の部屋の中で尚雪は、落ち着かなそうに制服の裾から覗くセーターをいじっていた。
それとは反対にリラックスした様子で部屋着のポケットからタバコを取り出した。
「…あ、」
「タバコ、吸う?」
口にくわえたままそう誘うと、少し呆れたように、教師の癖に、と呟いた。
これがまた、可愛いものだから。
一瞬、くわえたタバコを右手に持ち直し、ぐいと上半身を向き合わせる。
…ちゅ。
「…せん、せ?」
いつも冷静な尚雪が真っ赤になった。
唐突にキスをしてやった生徒に妙な優越感を覚えた。
「タバコ、だめ?」
「…や、でも、制服に臭いつきます、し…」
「リセッシュ貸してあげるよ」
「そういうことじゃないんすよーあの、」
「ちゅーしてあげるよ」
大袈裟な位、尚雪の肩が跳ねた。
斜め下を向いてた顔が、先生の顔を見た。
「…あの、」
外より暖かく心地好い部屋なのに耳まで赤く染めていた。
「せんせいなら、良いです」

(せんせい、だから良いんです)

(せんせじゃなかったら、嫌っすよ)



カルピスソーダ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ