ShortU

□可愛いは正義!
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ショーウインドーの前で黒い影を見かけた。
自分とよく似た顔にサングラス、学ラン。兄のケントだとすぐにわかった。

サングラス越しの目が釘付けになっているのは、

「…ぬいぐるみ?」
小さなウサギのぬいぐるみだった。

自分と同じで小さい物が好きな兄。しかし、自分と違い購入するために店にすら入れない兄。

悲しいような、寂しいような、胸の奥が切なくなるような思いが広がった。

「それ欲しいの?」
ついかけてしまった言葉にケントが振り向いた。

「お前…いつから…」
「いや、さっきだけど。欲しいの?」

ケントの隣に立って改めてぬいぐるみを見た。
小さくて、可愛くて、もこもことしたウサギ。

「可愛いな…」
思わず自分も顔が綻んでしまう愛らしさだ。

「そうだな…。俺には似合わねーけど」
ケントは呟いて、歩き出してしまった。



謙太は溜め息をついた。

「…何かっこつけてるんだか」

ケントのサングラスは、ぬいぐるみに向けられる視線を隠す役にまったく立っていなかった。





「ケント、入っていい?」
「謙太?」

その夜、謙太はケントの部屋のドアを叩いた。
少しだけ驚いた表情を浮かべるケントの前に立つと、頭上で抱えていたものをばらまいた。

「なっ…」
降り注がれたぬいぐるみが当たり、サングラスがずり落ちる。

「似合わないらしいぬいぐるみで埋めてみた」
「は…」

「意外といいと思うけど」
「……」
謙太の言葉にケントは落ちてきたぬいぐるみたちを抱き締める。


「欲しかったんだろ?」
「ああ…」
「…嬉しい?」
「…」

ケントは黙って頷いた。

「謙太、ありがとな」
そして、謙太の腕を引っ張って自分の方に引き倒した。

「…何がしたいのか分かんないんだけど!」
「意外と似合うらしい可愛いものを追加してみた」
「はぁ…?」

謙太の呆れた声も気にせず、ケントは抱き締め続ける。

「あー…落ち着く…」




可愛いは正義!



「このぬいぐるみどうしたんだ?」
「買った。あと作った」
「作った?」
「うん」
(やっぱ可愛い…)

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