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□とおくてちかい
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弦が指先を弾いた。まるで拒絶されるような感覚。薄くなった皮を眺めた。

本来ギターはピックを使用して奏でる。そうしなければ弾き手の指を傷つけ、皮が剥けてしまう。

それを知っていても自らの指で弦を弾いてしまう。
「いた…」

ボロボロの指。自分で見ても痛々しい。
包み込むように手を握りしめた。

「…タクト?」
自分の名前を呼ぶ声に振り向けば、眉を寄せた見慣れた顔。

「シンゴ…?」
「手、どうした?」

シンゴはタクトに近づくと右腕を半ば無理矢理取った。

「…ボロボロじゃん!何やってんの!?」

あー、とかもう、とか呟きながら、シンゴは絆創膏を取り出して張り付けた。

「はい。あんまり無理しちゃ駄目だよー、大事な指なんだから」

人懐っこい笑みを浮かべて指を撫でるシンゴに、なぜか涙が出そうになった。

「…うるさいな、お前には関係無いだろ」
「まぁ、それはそうなんだけどね」

「…シンゴ」
「ん?」
「あとどれくらい痛い思いしたら上手くなる?」

伏せていた顔を上げれば、呆気にとられたシンゴの顔。

「努力しただけ、痛い思いしただけ上手くなるんだろ。俺は…あとどれだけ頑張れば上手くなれる?」
「俺タクトは
十分上手いと思うけどなぁ」

その言葉さえも嫌味に聞こえてしまう。

「俺はっ…」

手を握りしめて叫ぶように言った。

「お前に追いつきたいんだ!」「…は?」

「俺にはお前が遠すぎるんだよ。ギターも上手くて、俺をいつも置いてくだろ。嫌なんだよそれが!悔しくて悔しくて…。…お前なんか…」

今まで堪えてきた思いが洪水のように押し寄せてきて、上手く言葉にできない。

「タクト」

シンゴが困ったような顔で呼んだ。

「タクトは俺が嫌い?」

「…嫌いじゃ…」
「じゃあ何?」

腕を取られ、引き寄せられた。
「俺はタクトが毎日ギター練習してること知ってる。凄いとも思ってる、大好きだよ。だから、そういうこと言われると、…悲しいよ」

目の前のシンゴは本当に悲しそうな顔をしていた。
いつも笑顔のシンゴに自分がこんな表情をさせているのだと思うと、余計に泣きたくなった。

「俺は、ただ…」
「ただ?」

「お前に認めて欲しいだけなんだ…。お前と同じくらい上手くなって、隣を誰にも渡したくないんだ…」

ずっと思ってきたことだった。
素直に言えず、いつの間にかシンゴのことをライバルのように思ってしまっていた。

「え…、違
ったの?」

シンゴの戸惑った声が頭に降ってきた。

「俺の隣なんて、ずっと前からタクトだけだよ」

そう言って抱き締められた。
ふざけてよく後ろから抱きつかれるが、それとは全く違う。
こうして正面から抱きしめられるのは初めてだった。

「シンゴ…」
「だから、タクトは今のままでいいんだよ。俺は今のままのタクトが大好きなんだから」

シンゴの大きな手がタクトの傷だらけの手を包み込んだ。



とおくてちかい

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