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尚雪と夏樹は、自分たちが所属する放送部にも内緒で付き合っている。
二人共に真面目で謹直な性格であるため、疑われにくいということも大きかった。
ちなみに健全なお付き合いである。
「なぁ、ナツ」
「なんだよ、ユキ」
「…キス、しようぜ」
「…お前が嬉しいなら…」
夏樹が照れた顔をそむけようとしたところを、尚之は強引に顎を捕まえて口づける。
幸せそうな――否、幸せそのものと言っていい光景。
それを見ている者がいると知らず、二人は抱き合って口づけを交わした。
*
翌日。
部員がそれなりにいる放送部は、今日は珍しくたった二人で活動していた。
夏樹と、先輩である保だ。
夏樹はパソコンに編集する映像を入れていて、保は携帯を弄っている。
気にすることなく作業を続ける夏樹に、保の低い声がかけられた。
「夏樹、ちょっといいか?」
「なんですか、保先輩?」
パソコンから目を離そうとせずに尋ねる夏樹に、保はゆっくりと近づいて携帯の画面を見せた。
――夏樹と尚雪が抱き合ってキスしている写真を。
「!?」
「これを優羽くんに見せたらどうなるか…分かってるよな?」
優羽――放送部の現部長。
そして、放送部には“部内恋愛禁止”という創部以来のルールがある。
そのルールを全力で肯定している優羽が保の示した写真を見たら―待っているのは、恐らく私刑とい名の死刑。
つまり、今彼自身と彼の愛する尚雪の生殺与奪権は保が握っていることになる。
「…これぐらい、頭のいい夏樹なら分かるよな?」
「…何が目的ですか先輩」
夏樹はキッと保を睨み付けるが、当の本人は気にせずニヤリと笑う。
たった一言の答えと共に。
「俺にヤられろ」
その言葉が終わるや否や、保は己の体でもって夏樹を押し倒した。
夏樹が座っていた椅子が倒れ、机にぶつかって騒々しい音を奏でる。
揺れた机から備品のカメラと夏樹の筆箱が落下して床に仲良く落ちる。
筆箱から転がった赤いカッターナイフが、保の手に収まる。
「では、ご開帳〜」
小気味良い音をたてたカッターが夏樹の制服を切り裂く。新雪のように真っ白で未開発の体が保を興奮させる。
カッターを放り捨てた保は夏樹の秘所に触れようと手を伸ばそうと――
「ちわ〜」
―した、最悪のタイミング。尚雪が、部活にやってきたのだ。
「あ…」
夏樹から漏れた、怯えたような声。
他人の男を寝とるのが趣味な保としては嬉しいサプライズだ。
案の定、部室に入ってきた尚雪は呆然として夏樹と保を交互に見た。
そして、怒気――否、殺気を含んだ声を漏らした。
「…どういうつもりだ」
保のそれよりなお低い声。
しかし保は悠然とそれを迎え撃った。
「夏樹はもう俺のモノだ、お前のモノじゃないよ、尚雪」
焚き付けるように、あるいはからかうように、保は嘲笑う。
尚雪の瞳に宿った狂気に気付かずに。
「…他人の手にわたる位なら、俺が壊すよ」
呟いた言葉は、狂気そのもの。
尚雪は自然な動作でポケットに手を入れ、何かをつかみ出す。
取り出したのは、黒々と輝きを吸い込む、大振りの裁ち鋏。
それを見た瞬間、保は夏樹の上から退いていた。
「…ユキ、ごめん」
白い体を惜しげもなく晒す夏樹に、尚雪はそっと抱きつく。
「…気にするな、だから…」
その顔に狂気を、
その手に凶器を携えて、尚之は笑った。
「一緒に逝こう」
「うん」
躊躇いなく頷く夏樹に満足したのか、尚雪は鋏の切っ先を夏樹の心臓の上に置く。
代わりというように夏樹は、さっき保が放り捨てたカッターの刃を出して、尚雪の首筋に当てた。
「じゃあな、ナツ」
「バイバイ、ユキ」
二人は同時に凶器を動かし、狂気を満たした。
BADEND...