ShortV

□コギト=エルゴ=スム
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カリカリカリ…

ペラッ

カリカリ…

「「…………」」

奈央斗の部屋、奈央斗と智哉の二人きりとくれば、常ならば何かしらの物音や声(主に喘ぎ声)が絶えない。
しかし今はシャーペンと、教科書のページをめくる音が無機質に響くばかりである。
それもそのはず、現在吉陽高校はテスト期間の真っ只中で、二人は来るべき決戦に向け必死に勉強中なのである。
学校は午前中で終わり、部活も無いため奈央斗の部屋で勉強会というわけだ。

カリカリカリカリカ…

「………っ」

ふいに、真剣な顔で倫理のワークブックを埋めていた智哉の手が止まる。

そして次の瞬間――

「っだああああわかんねえよ!!」

ワークブックが宙を舞った。

限界にきていた智哉の集中力が、わからない問題にあたったことでぷっつりと切れたようである。
もともと勉強があまり得意でない智哉にすれば頑張った方だが、無言での勉強は彼に甚大なストレスをもたらしたようだ。

「倫理とか勉強して何になるんだよ何だよコギト=エルゴ=スムって日本語使えよここは日本だぞ大体デカルト一人で何個用語作ってんだよ混乱するだろ!!」

「智哉、気持ちはわかるけど落ち着いて!」

さすがに奈央斗も手を止めざるをえなかった。
何とか智哉を落ち着かせようと一瞬考え、取りあえず疑問を解決してやろうと教科書をめくる。

「えっと…コギト=エルゴ=スムって何だっけ?…あ、あった。【われ思う、ゆえにわれあり】だってさ」

「何それ?」

智哉の目は若干据わっていた。

「簡単に言うと、全ての物事の存在を疑ってみても、その疑ってる自分の存在だけは否定できないから、それが自分の証明になるみたいな…?」

果たしてこれは簡単に言えているのだろうかと奈央斗は冷や汗をかいたが、どうやら智哉は納得してくれたらしい。

「あー何か聞いたことあるかも…」

と、興奮が醒めて脱力した様子で答えた。
奈央斗がホッと息を吐き出すと、

「やば…何か眠く…ふぁ」

力が抜けたら眠くなったのか、あくび混じりにそう呟いた。

そんな智哉も可愛いな、と奈央斗は何だか暖かい気持ちになった。
そして自分でも驚くほどするりと、素直な気持ちをこぼしていた。

「俺だったら…世界中の何を疑っても、智哉が好きって気持ちは疑えないかな」

「………へ?」

うとうとしていた智哉が目を見開く。

「好きだよ智哉。きみを想うことが、俺の存在証明」

「………馬鹿。反則」

真っ赤な顔を隠すために突っ伏した智哉が、小さな声で俺も、と呟いたのを奈央斗が聞き逃すはずもなかった。



コギト=エルゴ=スム
(きみ想う、ゆえにわれあり)


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