ShortV

□無意識の犯行
1ページ/1ページ


無意識の犯行


「あ、美味そー」
「尚雪先輩食べます?」
「いーの?ありがと」
「はい、あーん」

暑苦しい放送室で不思議と暑苦しさを感じない二人。
爽やかと言うか、幼いと言う方が正しいのか。
尚雪は差し出されたアイスを頬張って、ありがとーと笑った。
無論、その笑顔の先は彼の後輩。
無防備で可愛い可愛い笑顔。

「尚雪、パソコン危ないから。」

無意識の内に飛び出した、尖んがった声に辟易とした。

「あ、すみません。」

東海林の棘に気付かない風でふにゃと笑い、首筋の汗を拭った。
きゅっと反した手首が細い。
血管の浮いた腕が遊ぶように揺らされた。
尚雪のそれを、なぞるように眺めていた。
これもどれも無意識の内。
その、酷く冷たい熱量を孕んだ視線を感じた後輩が、別の一年のもとへ移動した。
後輩のビー玉みたいな瞳に映る尚雪を見る時間が、最近多い。
澄んだ球に映る彼が綺麗、と思うのは真実の半面。
もう半面では生徒に嫉妬する幼さを苦笑交じりに噛み殺している。
東海林が、アイスを食べ終えた恋人をぼうっと眺める。
見ている間にころころと変わる表情に目が奪われる。
あ、また笑った。
ちょっと下向いて、俯きがちに笑うのが可愛い。
どうやら俺は、尚雪を見ているなら飽ることはないようだ。
なんて阿呆な考えが沸いて来たから、かぶりを振って目の前のパソコンを睨んだ。

「先生、仕事しないんすか」

いつの間にか背後に歩いてきた尚雪が笑う。
一向に進まない書類を画面の上からつつき、学園祭楽しみなんですからねと注意した彼は笑みを含んだ声をしていた。
暑いと捗らないよねなんて言い訳をしてみて、黒っぽいデスクトップに反射して覗く愛しの横顔を見つめた。
画面越しの、彼を眺める。
近くにいるのに真っ正面から見つめられないなんて高校生でも無いよなと心の内で苦笑い。
恥ずかしいっつーか、なんつーか。

「せんせ、」

肩に腕が乗り、一度逡巡した後にまた温かい彼の腕が触れた。

「なに、?」

久々の柔らかさにどきりと緊張する。

「見てました、よね」

悪戯っ子が告白するみたいに耳元で、ちっちゃく話す。

「え、なに?」
「俺、ずっとせんせ見てるから分かるんすよ」

楽しそうに笑うのを堪えて、細められた目がさらに細くなる。

「…っ」
「もう照れちゃいますよー」

静かに耐えるのはもう無理、とあははっと噴き出した。

(心中に落とされた爆弾)
(その破壊力に、呼吸困難)
(これは、無意識の犯行?)

「全く天然たらしってやつは…」

はあ、と溜息を
後ろを振り向きざまに、キスを仕掛けた。
尚雪が可愛いかったのと、その他飛び出しかけた嫉妬を飲み込むために。
久しぶりの尚雪の唇はちょっとだけ熱かった。

「…たらしって、先生のことですか?」

唇を塞いでる間はおとなしく可愛い。
反抗してみせるのも、可愛いんだけどね。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ