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□保健室情事-後編-
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―深山くん、熱があるみたいね。5限目はここで寝てなさい。

 先生出張なんだけど、ここで大人しくして、5限が終わったら、帰りなさいね―


「はぁい…。」

保健室の真っ白で柔らかいベッドにもぐり込みながら、僕は小さく返事をした。

僕が上を向いて横になると、先生は額に冷たく冷えたゼリー状のシートを貼ってくれた。
その気持ちよさにうっとりと目が細まる。

「職員室の先生には、時々様子見に来てもらうように言っておくからね。
 勉強のしすぎかな。ちょっとゆっくりしなさい。」

先生はついたてやカーテンで個室をつくり、隙間から小さく手を振ってくれた。
その後少しして、荷物を持って出て行ったのが小さな物音からわかった。
部屋全体がしいんと静かになる。

頭がぼんやりとしたまま、僕はごろりと寝返りをうち、風でふわふわとゆれるカーテンを眺める。
その心地よさに目を細めながら、さっきまでの出来事を思い出す。

自分の前に立ちはだかった迫力ある美人。

『…男だった…よね?』

身長は先輩と同じくらいで、180cmはあるだろう。
僕と同じ紺色のズボンを履いて、あれはどう考えてもズボンで
胸は無かったし、ドアを開けた腕はがっしりとしていて、血管が浮いてて…
外国人みたいな整った顔からは、やっぱり低い声が出てた。

『…やっぱり…男…。』

さっき見たキスがふと脳裏によぎる。
僕は枕に頭を強く押し付けた。
身体が疼くぐらい、激しいキス。
思えばさっきの先輩は、自分にキスしたの時よりも、もっと…激しいキスをしていたように思う。

『なんか…あんまりいい気分じゃない』

そう思った瞬間、心にさっと黒い影がよぎった気がして、
僕は思わず手を握りしめて、胸にぎゅっと押し付けた。

『当たり前だよ。男同士のキスを見て…気分いいわけないだろ。』

言い聞かせるけれど、いとも簡単に滑り込んだそれはもぞもぞと動く。
そして小さな熱のようなものを胸の奥に灯した。
僕はそれが何なのかよくわからなかった。


キーンコーンカーンコーン…


高らかな鐘の音が白い天井に響き渡る。
5限目のチャイムが鳴る。

『熱上がりそう…。』

僕は目が覚めたら、
全部忘れている事を願って、そっと瞼を閉じた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


人生初のサボりを経験するために、俺はチャイムの鳴り響く廊下を歩く。

深山くんが走って逃げた後を追いかけて1年の教室棟まで行ってみたが、
入学して半年の、まだ初々しさが残るひよっ子達が目を丸くして俺を見ただけで、深山くんは教室には帰っていなかった。
 

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