書庫

□センセ、愛してる!2
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西畑がドアの方を振り向くと、
入ってきた若々しい教師は二人を見るや、驚きの声を上げたのだった。

「相澤先生っ…!」

腕まくりをして書類を抱えている相澤は
目を丸くしたまま、そろそろと側にあった机の上に頼まれていたコピーの束を置く。

「深山ぁ…?」


その言葉を聞いて、西畑は慌てて深山に視線を戻す。
すると二人に注目された深山は、さっきより真っ赤になっていた。

もともと潤みがちな真っ黒な瞳も、うるうると揺れているように見える。
これで二人きりだったら、確実に襲ってしまっていたかも知れない…と、西畑は息を呑んだ。

「…西畑ぁ…お前…何したんだ…。」


いつも仲の良い兄弟のような二人が、こんな状況になっているので
相澤は困ったように笑いながら西畑に聞いた。

しかし深山は動揺したのか

「わっ…待ってくださいっ…!先輩は何もしてないですっ…!
 僕が…ちょっと驚いてしまってっ…そのっ…

 先輩っ!僕ちょっとトイレ行ってきます!」

と叫ぶやいなや、猛ダッシュで廊下を走って行ってしまった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


深山が開けていったドアから、
生徒会室に爽やかな風が舞い込む。

相澤はそのドアからひょっこりと顔をのぞかせ、
心配そうにトイレに走り去った後ろ姿を見送ると、ゆっくりとドアを閉めた。

スーツのズボンとさっぱりとしたシャツ。
センスの良い、少し青みがかかった黒いネクタイ。
高校生に混ざってもおかしくないような若い相澤は、
今年学校に赴任してきたばかりの先生だ。

性格は温厚。
しかし西畑からすれば、少々天然でイモっぽい所があるように思われた。

授業では西畑が選択している日本史のクラスを教えている。
教師としては、初めての正採用と言っていたが、
他校で何年か講師をしていた経験があるらしく、教え方はわかりやすくていい。
それゆえ、生徒からも好かれているようだ。


「西畑。…お前の事だから、心配はしてないけど、あんまり喧嘩とかすんなよー?
 せっかくお前ら仲いいんだから。」

相澤はさりげなく西畑の肩をポンポン叩き、持ってきたコピー置いた机に戻って行った。

生徒同士の些細なやりとりと感じてくれた相澤の様子に、
西畑は少し胸をなでおろす。

そして改めて声をかけた。


「…片桐は、大丈夫そうですよ。相澤先生。」


「え…。」


ピタリと用紙を分けていた相澤の手が止まる。



「携帯…通じたのか?」



背を向けているせいで、相澤がどんな表情をしているかはわからないが、
その声は、少し緊張を含んでいるように聞こえた。
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