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□センセ、愛してる!2
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学校を休んで、片桐はバイトをしていた。
夜の店を営んでいる叔父、隆一の店で
夕方から明け方までバイトをして、小遣いとまかないをもらう。
学校を休むまでは頼まれた時だけのバイトだったが、
片桐が学校をずっと休んでいると知った叔父は、
暇ならバイトの来いと言った。
学校での事に関しては放任主義の叔父は、こんな時ありがたかった。
もちろん、これから寝て、
夕方に起きたら今晩もバイトだ。
「お…そうだ。
さっき予約頼まれたの言っとかないとな…。」
片桐はめんどくさそうに携帯の電源を入れる。
朝はほとんど客を送ってから帰宅し、日中は寝ている。
家にいる間は電話も、インターホンも無視する生活を送っていた片桐は
携帯すら、自分が必要な時以外は電源を切っていた。
「…しばらく充電してねーな。」
暗い画面がパッと明るくなり、起動が始まる。
その眩しさに、自然と目が細くなる。
だがすぐさま携帯はバイブし、
切り替わった画面は、着信相手の名前を表示した。
『xxx-xxxx-xxxx 聡 』
「げっ…」
片桐は、一瞬その画面を表示した携帯から、顔から引き離した。
生徒会長は今、丁度休み時間なのだろうか。
ずっとコールが鳴りやまない。
しばらく、能天気な音楽が静かな部屋に鳴り響く。
「さとしー…。」
片桐は今の気分にそぐわない、
明るい音楽を奏でる携帯を眺め、
観念して受話器ボタンを押した。
そしておそるおそる携帯を耳にくっつける。
『……−泰隆か?』
いつもの通りの冷静な声が、雑踏の中から聴こえた。
西畑は教室からかけているようだ。
「……おぅ…。久しぶり。」
ぼそりと聞き取れないような声でつぶやく。
だが、携帯電話はちゃんとその言葉を西畑に伝える。
『久しぶりだな。…生きていて何よりだ。』
親友は淡々とした口調で答えた。
だが、これでも心配しているのだという事は、長年の付き合いでわかっている。
「…死ぬか。ばーか。」
冗談めかして言った言葉に、西畑は笑って息を漏らしたのがわかる。
そしてしばらく沈黙した後、
『ちゃんと食ってるのか?』
と聞いてきた。
その言葉に片桐は目を丸くする。
西畑がこんな事を聞くのは珍しく、少し笑えてしまうのを我慢して答える。
「隆一の所で食ってるから。…大丈夫。」