一人には慣れなくて



幸村は、煙の立ち込める焼け野原に一人立つ。
自分の走って来た道には屍の山、息をしているものは誰一人居ないであろう。

戦は圧勝だった。
初めは不安ばかりが先に立ったが、なんということもない。
背後に空洞があるのならば、前方の敵を総て燃やしつくせばよいだけの話である。

だが、戦が圧勝だったにも関わらず、こころの裡には虚しさが残る。

己の背中を護るべき、唯一の者が、ここにはもう居ないのだから・・・。

「幸村様。お手元の首級を検めますので、一度本陣まで戻られますように」

ずっと立ち止まったままの主に焦れたのだろう。忍び隊の副長が声を掛ける。
ああ・・。あの者が居なければ、別の者がきちんとその役割をこなすのだ。
それは判っているのだが。

「なあ、才蔵。いつもの調子で叱咤してくれぬ者がおらぬのは・・寂しいものだな」

幸村がぽつりとつぶやけば、副長は一瞬言葉を飲む。
絞り出した返事は、少しだけよそよそしいものだった。

「仕方がございません、ね・・」
「・・俺のせいなんだ。あやつは俺の所為で・・」
「判っております。幸村様が直接手を下されたとはいえ、長も望んでの事。後悔はしておりますまい」
「だが・・きっと・・痛く苦しい思いをしたのだろうと思えば、唯哀れで・・」

幸村は尚もつらつらと嘆き続ける。
いい加減、日も暮れて来そうだ。

「幸村様・・」
「なんだ」
「・・長に」

副長は再び出て喉元まで出て来た言葉を飲み込んだが、思い直し、今度は感じたままを口にした。
主でなければ、いい加減にしろと怒鳴りたい所であった。

「長に悪いと思われるならば、次からは手加減をしてやることですなッ!」
「わ、悪いのは俺だけではないのだぞ・・!あ、あやつが俺を上手くのせるものだから」
「戦前だというのに、腰が立たぬようになるほど、ガッついたのは貴方でしょうが」
「・・・う、矢張り俺が悪かったのだろうか・・すまぬ、佐助ぇ」

幸村は素直に反省を口にする。
だが、土台無理な話なのだ。なんといっても佐助が可愛いのがいけない。
次こそは、次こそは・・。
そう何度となく誓えども、戦前の昂ぶりを抑える事など出来よう筈が無いのだ。

まあとにかく天下分け目の大戦の時だけは気をつけてくださいね、と副長に釘を刺されれば、それくらいならばなんとかなる、と答えるしか無かった。





(end)


さすけとて、勝ちの難しい戦の時は絶対寝込んだりしません(^_^;)

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