08/28の日記

21:27
Mon Rouge(幸村)
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窓の外を見れば、ここと同じくらい高いビルが立ち並んでいる。


ところは丸の内、BASARAバンクの本社ビル。

小さい頃から俺を知る人達は、体育会系の幸村が何故銀行などに・・と驚いていた。
確かに銀行は、几帳面な人間が働いているイメージだ。自分でもそう思う。数字なんて一も十も百も大差ない、どんぶり勘定を是とするタイプだと知っているし。

だが、俺のいるチームは存外に体力勝負。
まだまだ未熟者ゆえ大きな金額は動かせなくとも、偶に相場の読みが当たって大きく勝った日には、だれかに褒めて貰いたくもなるのだ。


・・・よくがんばったね、って。





「そっちも終わったかい?お疲れ、幸村ー!」

同期の前田慶次殿が席にやってきた。
彼は金融法人相手のチームにいるのだが、レートを握ってやったりと、俺の仕事とも少なからず関わりがある。
そんなこんなで、同期の中でも特に親しい方だった。

「今日はどうだった?勝った?」
「まあまあでござるな」
「ディーラーは大変だね。いつも時間に追われてさあ」
「某だけではござらぬよ。少なからず、どこも大変そうに見受けられまする。慶次殿も・・徳川殿も、石田殿、政宗殿然り」
「そりゃまそうだね。で、どうする?今晩」

慶次殿は、グラスをくいと持ち上げる格好をした。

「無論、食べて帰りまする!」

俺達は同じ独身寮に暮らしている。
夕飯はあるにはあるが、何せ仕事が不規則で、帰る時間がまちまちだったりするのだ。
今日の夕飯も、取り敢えずは無しにしてもらっていた。

「じゃあさ、俺に付き合ってくれないかい?ちょいと気になる店を見つけたんだよ」
「勿論構いませぬが。どのような店でござろうか」
「カジュアルな感じのフレンチ!デートの時の為に下見しておきたいんだ」

幸村は渋い日本料理の方が似合いそうだけどね、と微笑んでいる。

相も変わらず、恋だ愛だとお目出度い御仁だ。
だがまあ、飯が旨ければ店の雰囲気などたいして問題にはならぬ。
あまりに煩い時は、破廉恥でござると叫べばよいだけの話だ。

「ならば、某も良く見ておこう」

そんなこんなで、俺はありがたくデートの下見とやらに同行させて貰う事にしたのだ。




会社を出て、皇居の方面に向かう。
その店は確かに肩肘張らない雰囲気で、道に面した席には沢山客が座っていた。
黒板に白墨で書かれている品書きを、素早く吟味。

腹がへっているゆえ、ガッツリ系の料理がいいだろう。1ポンドのステークアッシュとは如何な料理であろうか・・などとぼんやり考えて。

そして、店に足を一歩踏み入れる。



「いらっしゃいませ」

トクンと胸が高く跳ねた。
迎えてくれた店員の顔を見た瞬間だ。

照明の下、鮮やかな朱色の髪に、はっとするほど白い肌。
長めの前掛けがとてもよく似合う。
だが、心臓が煩いのは、見た目の綺麗さのせいだけでは無い。


たとえば季節の変わり目の香り。
かつて繰り返し聴いていた音楽。
橙に優しく染まる日。

そういうものがふと通り過ぎた瞬間の・・・なんとも言えない感覚というのだろうか。
懐かしく甘く、胸が締め付けられる程に幸せな渦。

何の記憶が自分をそうさせたのか。思い出そうとしても、判らないけれど、要するにとても特別な瞬間が甦ったのだ。
瞳がぼやけるのもおかしな話だった。

俺は、脚をほとんど縺れさせながら、席に倒れこむ。

「どうしたんだい、幸村。大丈夫?」
「な・・なんでも!!」

なんでもないといいながら、視線は自然あの店員の方に向いてしまう。
まるで吸い寄せられるように。
どうしようもない、不可抗力だ。なんだこれは、何なのだ。

「・・?へえ、すごく感じのいいソムリエさんだねえ」

とうとう視線の先に気付いたらしい。
慶次殿は店員を見た後、からかうように俺の目を覗きこんだ。

「彼目当てのお客さんもいっぱいいるみたいだよ」
「言われなくても判っておりまする。一番端のテーブルに居る髪の長いおなごに、入口側の、ピンクの服を着たおなご、それから・・」
「なに、幸村、全部チェックしてんの?」

声を出して笑われた。

「や、止めてくだされ、慶次殿」
「だって。ゆっきー・・春だよなあ」
「ちちちち違いまする。破廉恥でござるぞ!」

ああ、もう頼むから止めてくれ。
あの店員の男が、ニコニコ笑いながらこちらに向かって来ている。
飲み物の注文をとりにくるのかもしれないが、変な客だと思われたらどうするのだ!

「ご注文はお決まりになりましたか?」
「ななななな何が何だか、自分でも自分がよくわかりませぬ!」

慶次殿にからかわれた所為か、酷く緊張してしまう。

「え?ワイン判らないの?」

急に親密に、砕けた調子になった。
なんだ、これは。
首を傾げる仕草がやけに可愛くて、大の男に可愛いと感じる俺は単なる変態ではないか。

「じゃあね、好きなタイプを教えてください。白とか、赤とか、甘いのとか、渋いのとか」

慶次殿に助けを求めるが、傍観を決め込んでいるらしく、ニヤリとされただけだ。

俺はしょっぱなから追い詰められ、喉を振り絞り叫んだ。

「そ、某が好きなのは!朱色の髪で色白、細っそりした、笑顔の可愛いタイプでござる!!」

慶次殿はとうとう机に突っ伏してしまわれた。
なんだ、なんなのだこれは!


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21:18
サラリーマン幸佐 はじめに
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サラリーマン幸佐の設定です。


真田幸村:
BASARAバンクの新入行員。熱い為替ディーラーを目指す。

猿飛佐助:
Mon Rougeの店長兼ソムリエ。幸村より少し年上。常連の女性客と何やら親密そうな・・少しミステリアスな人。

前田慶次:
幸村の同期。恋の相談相手。自分の恋については一切が謎。




以下はサラリーマン家三と同設定です。



石田三成:
BASARA銀行の新入行員。戦略的部署にいる。生真面目すぎる為に少し浮いた存在。

徳川家康:
同じくBASARA銀行の新入行員。営業。
同期の鶴田姫乃と付き合い始めたばかり。

伊達政宗:
新入行員。海外事業部で得意の英語を炸裂させたいと思っている。TOEICの点数はナゼか秘密にされている。

長宗我部元親:
家康の先輩。三成が気に掛る。

鶴田姫乃:
短大卒で、恋人の家康よりは年下。

豊臣秀吉:
BASARA銀行の頭取。三成の恩人であり、あこがれの人。

竹中半兵衛:
副頭取。秀吉と個人的に仲がいいらしい。


小早川金吾、かすが:
三成達の同期。


ざっとこんな感じで設定していますが、気ままに少しずつ増やしていこうと思います。

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