迷彩表紙

□ラスボスは誰だ!?
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「佐助が好きだ!この幸村だけのものになってくれ!」


長い時間を掛けて、胸の内に育てて来た想いを告げた日。
佐助は二つ返事で、恋心を受け止めてくれた。
死ぬまで旦那についていくよ、という夢のような言葉まで添えて。

興奮を抑えきれない幸村は、天高く拳を突き上げる。

「や、やりましたぞー!おやかたさ・・ぶぁ」
「待て!」

雄たけびを上げそうになる主の口を抑え、忍びは冷静に言った。

「皆には内緒だからね。特に忍隊には!」
「ど、どうしてだ。俺はこの歓びを皆にも・・」
「才蔵には隠しだて出来ないだろうけど。他には駄目」
「むう、けちんぼめ。少しくらい良いではないか!」
「あんねぇ。忍隊の中には旦那に懸想している奴もいるわけ。そりゃ恐れ多いから黙ってるしかないんだけど」
「俺に懸想だと?そんなもの好きがどこに」
「モノ好きもいるの。忍ぶ恋ってやつだから、嫉妬もハンパないんだよ。俺様が仕事やりづらくなっちゃうでしょ」

愛しい忍びに上目遣いに柔く睨みつけられれば、初心な幸村には一溜まりもなく・・。

納得しないながらも、彼のお願いを受け入れるしかなかった。









それから暫く経った、ある日の午後。
幸村は恋仲の忍びを呼ぶ為、天井に視線を向ける。「佐助」と優しく声を掛けた。

執務も終わったので、縁側で共に一服しようと考えたのだ。

だが、返事を返したのは、件の忍びではなく、副長の方だった。

先程までは確かにいた筈なのに、と怪訝に思った幸村は率直に訊ねてみる。

「・・あやつ。今日は一日中城に居ると聞いておったのだが。佐助は何処にいるのだ?」

才蔵は涼しげな目をちらりと動かし、答えた。

「長ならば・・忍隊の鍛錬に付き合っております。場所は草屋敷の庭ですが」
「ほう、ここで鍛錬とは珍しいな。してどのような鍛錬なのだ」

普段の幸村ならば、内容までは聞いてこないのだが・・。

才蔵は、己の主の野性的な勘の良さに舌を巻いた。
聞いた後の事がそら恐ろしい。

「はい、鍛錬とは・・」

恐ろしいが。隠しだてをするつもりはさらさらなかった。
佐助程ではないが、彼も給料を大切にする男なのだ。

「・・いうなれば、勝ち抜き戦型の実習です」
「勝ち抜きで、技を競い合うのか」
「はい。すご技口吸い選手権といいまして、各々舌や唇の技を駆使して相手を篭絡します。最後のラスボスを倒せば、忍隊一の称号を得る事が出来ます」

幸村の顔が曇った。
いやな予感がしたのである。

「・・ちなみにラスボスとは、誰だ」
「午前の部は私、霧隠才蔵が務めました」
「・・では、午後は誰だ。驚かぬから申してみよ」
「・・午後の部は、我らが忍隊長、猿飛佐助でございます」
「ぬわああああああ!なんとっ!」

驚かぬと言った、舌の根も乾かぬ内の咆吼である。

「鎌之助など、今日の為に唇を腫らすまで練習したと・・あ、幸村様?」

瞬刻の後には、縁側には影も形も無い。

「ふむ。とうとう遁術までも習得されたか」

才蔵は面白気に口笛を吹いた。

後は野となれ山となれだ。
だが、折角の見世物。
ちゃかさぬ手もあるものかと、才蔵も煙の向こうに消えた。




勝ち抜き戦は下馬評通り、鎌之助が残っていた。
周りには、快楽に腰を抜かした忍び達が転がっている。

佐助と鎌之助は、忍びで出来た円の中心に立つ。

「ほーら鎌ちゃん。早くこっちへ来いよ」

余裕の表情で、鎌之助の腕を引き寄せる佐助。

「俺様、本気だすぜ。惚れんなよ」
「・・・長。私も負けませんよ」

そして、唇を合せようとした瞬間、悲鳴があがった。
焦げくさい匂いがする。
二人の唇が薄らと炎に包まれたのだ。

「うわあ、あちい、あちい!なんだよ、これ!」
「だ、誰か、はやく水!」

ばしゃんと頭から水を掛けられて、茫然自失の佐助の前に現れたのは幸村だ。
幸村は怒りで瞳にも炎を散らし、肩で息をしている。

「・・・佐助。鍛錬の時間は終わりだ」
「へ、でもこれで最後で・・。ラスボスは俺様の大切なお仕事なんだぜ」
「らすぼすとやらは、もう一度才蔵にして貰うがよかろう!」
「む、無理ちゃいうなよ、旦那ぁ」
「・・無茶かどうか、知ったことか。・・兎に角今すぐ俺の部屋に来い・・!」

喉から搾り出される声は、地獄の業火のように燻っている。
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