03/09の日記
23:21
一月遅れのバースデーカレー 追記あり
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※キャラ設定お借りしております!
くるまのタクさん
現実に疲れた人が迷い込む世界、迷界。
霧で包まれたその森の中にくるまのタクさんは住んでいました。
くるまのタクさんは、文字通りの車です。
普段は地獄のタクシーという名前でお客さんをホテルに運んだりするお仕事をしています。
くるまのタクさんは燃費がとても悪く、いつもお腹を空かせていました。そんな時によくご飯を食べさせてくれるのはお友達である真実の鏡、ミラーマンです。
ミラーマンはいつもタクさんにご飯を食べさせてくれたり、美味しいりんごをくれます。
くるまのタクさんはりんごが大好き。いつもタクさんの大好物のりんごをくれるミラーマンの事も、もちろん大好きです。
そんなある日、タクさんはふと「いつもミラーマンに食べさせてもらっているからなにか恩返しをしたいなぁ」と思いました。そして、いつも食べ物をくれるミラーマンに今度は自分が美味しいものをご馳走してあげたい!と決意したのです。
でも問題が一つ。
タクさんは味が分からないのです。
りんごだけは美味しいと思うのですがそれ以外の食べ物はみんな同じ。味が分かりません。
これではどうやって美味しいご馳走を用意すればいいのでしょう。
困ったタクさんは従兄弟のテルに相談しました。
従兄弟である公衆電話のテルは、普段はみんなからパブリックフォンと呼ばれている電話詐欺師でしたが、タクさんには優しい従兄弟です。
「いきなりやって来て『料理がしたい』だなんて…あいかわらず突然だな〜」
呆れたように笑いますがテルはちゃんと一緒に考えてくれました。ほらね、優しい従兄弟でしょう?
「それならカレーにしたらどうだ?あれならルーを入れれば味はみんな一緒だしな。初心者でもほとんど失敗しないだろ」
「そうなのか、ありがとう!」
タクさんは早速準備を始めました。
森の中に用意した大きな鍋の中に書いてもらったメモ通りの具材を入れて、ぐつぐつぐつぐつ煮込んでいきます。いっぱいあるのでこれならタクさんだけで食べ尽くしてしまう事もないはず。
『ミラーへ 美味しいご馳走を用意したのでお腹を空かせて来てください。』
お手紙もばっちり。
椅子がわりの丸太の上にふかふかの毛布を敷いてソファーを作り、通路となる姿見も木に立てかけて、さあ、あとはルーを入れれば完成…という所で、タクさんはカレールーが足らない事に気がつきました。
テルにもらったルーは4人用。でも目の前には絵本で魔女が薬を作っている時に使うような大きな大きな鍋にいっぱいの野菜が煮込まれています。
ためしにカレールーを全部入れてみましたが、ほとんど変化はありませんでした。カレールーの箱に載っている写真のカレーと目の前のカレーは全く色が違います。
「困った、これじゃあ足らないなぁ」
仕方なくお鍋に蓋をしてカレールーを買いにいく事にしました。タクさんはカレールーの箱を眺めます。よくあるカレールーです。これならホテルの購買でも売っていることでしょう。
「えーと、ルーの名前は…りんごと蜂蜜!これりんご入ってるのか!?」
箱に書いてあるのはカレールーに入っている隠し味です。りんごが入っているなんて素敵な料理です。これで味が分かればいいのですが、ためしに齧ってみたルーはやっぱり味が分かりませんでした。
ちょっぴり残念ですが、りんごが入ってるならきっと美味しいに違いありません。ミラーマンも喜んでくれることでしょう。
「りんごと蜂蜜。りんごと蜂蜜。りんごと…」
忘れないように繰り返し唱えながらホテルの購買に向かったタクさん。でもそれだけだと忘れそうです。そこでタクさんはいい事を思いつきました。
「りんご、りんご、りんごとはちみつ♪甘くておいしいりんご、りんご、りんご♪」
忘れないように歌いながら歩けばいいのです。
タクさんは上機嫌でホテルへと向かいました。
「りんご、りんご♪りんご…あれっ、タイヤ?」
ようやくたどり着いたホテルの購買にはタクさんの仕事の相棒であるタイヤのレイがいました。
「オレはチョコレート買いに来たんですけど、アンタも買物ですか?」
「そう。りんごと…あと………りんご?」
歌を作っているうちにりんごで頭がいっぱいになって、いつのまにか蜂蜜のことはすっかり忘れてしまったタクさん。カレールーのことはもう頭から消え去っていました。
懸命に思い出そうとしますが、思い出せません。
「お使いもできないんですかアンタ…まぁ、どうせアンタが用があるのはりんごだけでしょう」
そう言ってレイはかごにどっさりと入ったりんごをタクさんに渡してくれました。
たくさん持てるようにとしっかり編まれたかごを作ってくれたのはレイの能力です。なんだかんだ言っても優しい子でした。
タクさんはありがとうとお礼を言って沢山のりんごを購買で買いました。
両手で抱えきれない量のりんごを手に、自分の愛車の方へと歩き出します。
なんだか、なにか忘れているような。
そんな時、前方の森の中から妙な香りがしてきて、タクさんはようやく思い出しました。
「あっ、どうしよう!お鍋に火をつけっぱなしで来ちまった!」
大変です。お買い物の間にも鍋はぐつぐつ、ぐつぐつ…きっとこの匂いは焦げてしまったに違いありません!
タクさんが急いで鍋の元へと走ると、そこでは誰かがタクさんのお鍋をぐるぐるかき回していました。
ローブを被ったその人はタクさんに気がつくと、被っていたフードを脱ぎました。
「おいタクシー、料理の途中で火のついた鍋をそのまま放り出してどこかに行くんじゃない!火事になったらどうするんだ」
「あれっ!なんでミラーが…」
まだお手紙を渡していないから、ミラーはカレーの事を知らないはずなのに…。
お鍋を置いて買物に行ってしまった事を謝ると、ミラーマンはすぐ近くに置いてあった鏡を指さしました。
「森の中に何故か鏡が運ばれて、映っているのはタクシーの車と誰もそばにいない大鍋…これは何が起こってるのかと思って様子を見に来たんだ」
「そうだったのか、ありがとうミラー!」
タクさんがお礼を言うとミラーマンは笑って許してくれました。
「それで?なんで森の中でカレーを作ってたんだ?というかこれはカレーでいいんだよな?ルーが入ってなかったみたいだが」
「あっ!」
タクさんはすっかりカレールーを買うことを忘れてしまっていたのだと、ようやく思い出しました。
カレールーが無ければカレーは作れません。ミラーにご馳走を食べてもらう計画はしっぱいです。
タクさんは落ち込みました。
肩を落としてしょぼんとするタクさんに、理由を知らないミラーマンは慌てました。
「まさか違ったのか?悪い。カレールーの箱が置いてあったからカレーだと思ってルーを足しちまった」
そう言ったミラーマンの手にはりんごと蜂蜜のパッケージ。タクさんが驚いて鍋の中を見れば、そこには美味しそうなカレーがぐつぐつと煮えていました。
「うわぁ!ちゃんとカレーができてる!ありがとうミラー」
「別に、ルーを足すだけだったからほぼお前が作ったようなもんだろう」
「ちがうんだ、いつもお前にたくさんご馳走してもらってるから。俺がお前にもご馳走を作ってやりたかったんだよ。だからさ、一緒に食べよう」
きょとんとするミラーマンにタクさんはかごの中からりんごを一つ差し出しました。
テルに教えてもらって、ミラーがルーを入れてくれたカレー。デザートにはレイが持たせてくれた大量のりんご。このご馳走は絶対に美味しいはずです。
「そうか、それなら頂こう。」
「うん。いっぱい食べてくれ!」
ミラーが笑ってくれたのでタクさんは幸せな気分でカレーをお皿によそいました。
その後ろ、ミラーマンがそういえばと声をかけます。
「このカレー、ライスはどうしたんだ」
「あ」
ぽかんと口を開けて頭を抱えたタクさんにミラーマンが苦笑してご飯を用意してくれたのは、その1時間後の話でした。
たとえタクさんには味が分からなくても、二人で作ったカレーはとても楽しくて、美味しいご馳走になりました。
おしまい
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1ヶ月遅刻とか許されないよ…_(:3 」∠)_
何故かよくわからない絵本調です。
お許しください碧様…!
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