02/11の日記

21:53
【某様お誕生祝い】顔【フォンミラフォン?】
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「鏡よ鏡よ鏡さァん。世界で一番キレイなのは〜…貴女よ!ミラ代ちゃん!いいわ〜お前今スッゲー輝いてるわ〜…鏡だけに!!!!!!」
「率直にうぜぇ!!」

病院におけるパブリックフォンの部屋…といっても以前入院した時の部屋を『空いているから』という理由で奴が勝手に私物化しているだけだが…その部屋でミラーマンはパブリックフォンに良いように弄ばれていた。

自分で言って自分で爆笑しているパブリックフォンからは酒の匂いがする。軽く見ても泥酔状態だ。
一方のミラーマンは両手を縛られてベッドの上に転がされ、自分でも眉が寄っているのが分かる程にムカついていた。


病院の頭痛薬を買う気で鏡から出ようとした瞬間バナナの皮を踏んづけて転び、気づいたらこの詐欺師に捕まっていたのだ。今日はなんてツイてないんだろうか…。

「あ、そーいやお前!エンジェルに化粧の事でなんかゆったろ?スゲー怒ってたぞ」
「あぁ…原因はそれか…」

一瞬で不幸の理由が分かった。
深いため息をつくミラーマンに首を傾げてみせながらパブリックフォンが笑う。

「?まぁお前は真実の姿が見えちまうから『化粧自体が嫌い』ってのは知ってるけどよぉ。女が化粧してるのくらい大目に見てやれよー?」

その言葉がさらにミラーマンをイラつかせる。彼は今にも噛みつきそうな勢いで叫んだ。

「女の化粧は確かに煩わしいがこの際どうだっていい!いいか…オレもお前も男だろうが!いや何よりもまず…オレに!化粧を!するな!!」
「やーだよ!勿体ない。造詣美っての?お前、性格は歪みまくりだけど顔は彫刻みたいでさー。前からメイクしてみたかったんだよなー」

メイクブラシを手に、ミラーマンに向けて画家がパースを取るようなポーズをするパブリックフォン。変装の達人でなおかつ妙なところで凝り性の彼はこうしてよく変装に近いクオリティの化粧をしてはミラーマンの目の前に現れる。いつもは悪戯半分嫌がらせ半分だったが、今日は完璧に『化粧の練習にいいマネキンを手にいれた』という表情をしている。

彼の指摘通り、ただでさえ真実の姿が見えるミラーマンには化粧ですら『姿を偽る』行為の一部に入る。
右目には素顔が、左目には化粧を施された顔が映る。両目で見ると姿が重なって見えてしまい、酷い場合はギャップに耐えられない。パブリックフォンはそれが分かってて別人に見える程の化粧をして現れる。能力的には弱い彼が出来るお手軽な意地悪として。

「心配すんなよぉ。終わったらちゃんとクレンジングオイル渡してやるから」

仕方なく目を瞑っているとパブリックフォンの操るブラシが優しく頬を撫でていく。本当にミラーマンの顔に化粧をするためだけに捕まえたようだった。

「お前、何故そんな格好をしている」

その言葉にパブリックフォンが手を止めた。ようやく思い出したように自分が『今変装している人物の姿』を眺めてなんでもない事のように笑う。

「あー…そういやお前も会ったんだっけ?昨日のゲスト。スゲーよなぁ結婚詐欺で10人殺したんだっけ?」
「…同じ詐欺師同士、あの女が気に入ったのか?」

睨み付けてやろうと瞼を開くとパブリックフォンはほんの一瞬、寂しそうな顔で笑って肩をすくめた。

「だったら魂になっちまうのを止めてるさ。ただなぁ、お前、あの女に整形前の顔を見せたろ」
「それがどうした」
「『鏡なんて大嫌い』だってさ。それとお前に『ありがとう』って言ってたぜ。そんで消えた」

自分の意思に反して思わずミラーマンはその目を大きく開く。

「お前が看取ったのか」
「ただの気まぐれさ。まぁ、同情ってゆーか同類あい哀れむってゆーかさ…」

パブリックフォンがアイシャドウのチップを手に取る。反射的に瞼を伏せたミラーマンにはその表情は見えない。
だけど、何故か塞ぎこんでいることだけは分かった。

「お前には一生分からないだろうな。普通は化粧の下なんて気にしない。他人も自分も偽り続けて最後は骨になるんだ。普通の奴等は」

消えた女の気持ちを思っているのか、それとも彼自身の独白なのか、パブリックフォンは淡々と言葉を紡ぐ。

「一度だけでも『綺麗だ』と言われたかったんだ。そうして段々化粧が厚くなってその下の骨や肉もぐちゃぐちゃに作り替えて戻せなくなるのさ。心まで歪めて。自分でも本当の顔を忘れちまうんだ」

ほんの一瞬だけ言葉を探した。
だが、真実の鏡は何も偽らずにその口を開いた。

「オレには分からない」
「…そう。お前には分からない。それでいい。じゃないとオレ達みたいな奴は救われないから。…ほら出来た」

唇に紅を指され、頬に添えられた手が離れていく。目を開くとパブリックフォンが満足そうに微笑んでいた。

「綺麗だ」

その言葉に、目の前にいる消えたはずの女に、ようやくミラーマンは思い至った。

何故あの女が「綺麗だ」と言われる度に恋人を殺したのか。
何故パブリックフォンがミラーマンに化粧をしたのか。

これはパブリックフォンに出来る唯一の礼であり、敵討ちなのだ。

普段あれだけ顔を合わせていた相手から今まで受けた事のない賛辞を、化粧をした姿に贈られる。
同じ穴の狢の壮絶な自虐だ。

刺し違えるようなその行為は、パブリックフォンの胸を抉ると同じくらい深く、確かにミラーマンのプライドに傷をつけた。

唇を噛んでミラーマンは目の前の嘘つきを睨みつける。

「………気がすんだのならこれを外せ。化粧を落としたい」
「せっかく上手く出来たのにもう落としちまうのか?まぁいいや。ほら。クレンジング」

報復を警戒してか両手を繋ぐ縄はそのままにしてパブリックフォンは化粧落としの入った瓶をミラーマンへと手渡した。

「…お前の目に映るオレは一生醜いままなんだろうな」

ポツリと呟いて、それきり押し黙る。
その瞳にはミラーマンの真実の姿ではない…醜く美しいモノが映っていた。
自分が作り出したその美しい顔が急速に自分に近づいてきたことで、パブリックフォンは大きく目を見開く。

ガヅン、と音がしてパブリックフォンは涙目で痛む額を押さえた。バランスを崩した体勢に再び衝撃がぶつかる。
ミラーマンの体当たりを受けてベッドに仰向けに落ちたパブリックフォン。その胴体にミラーマンがのしかかってくる。馬乗りになったミラーマンはクレンジングオイルのキャップをはずし、中身を全部パブリックフォンの顔にぶちまけた。

頭突きと体当たり、のしかかってからの顔面への攻撃。流れるような四連コンボを喰らったパブリックフォンがいつものように罵声を響かせる。

「痛ぇ!何すんだてめぇ!わぶッ!」

その顔を力任せに擦って変装用のマスクを剥ぎ取ると、ミラーマンはパブリックフォンの倍の声量で怒鳴りつけた。

「黙れ!真実の鏡を舐めるな…!お前がいくら嘘を纏おうと、オレはお前の真実の姿を見続けてやる。目の前に本当のお前を突きつけてやる。お前はあの女とは違う。オレの目を、この真実の鏡を視るがいい。オレがお前を消えさせない。偽り続けて消えてしまうその前に、血が出るまで化けの皮を剥がしてやる!!」
「ミラーマ…」

目を丸くしたパブリックフォンが何か口にするより先に、その顔を再びミラーマンが力任せに擦りはじめた。
自前の皮膚ごと持っていかれそうな力にパブリックフォンが悲鳴をあげる。

「うわ!やめろよ!オイルが垂れる!服が汚れる!イテテテ馬鹿野郎そんな強く擦るなよっ!!」
「大人しく観念しやがれ!!」

その時、突然部屋の扉が開いた。戸口に立っているのはマスターキーを持ったフリッツだ。その肩を怒りに震わせて、彼は院内で騒ぐ不届き者達を睨みつける。

「…空き部屋に勝手に泊まっていくのはいいとして…壁の薄さを考えるで…しゅ…!!」

そしてフリッツは目の前の光景に固まった。
涙とクレンジングオイルで化粧がぐちゃぐちゃになったパブリックフォンと、パブリックフォンに馬乗りになっている、縄で両手を縛られたミラーマン。

あわあわと視線を逸らしてフリッツがさらにヒステリックに叫ぶ。

「そ、そそういうのはそういうホテルでやるでしミラーマン!」
「違う!誤解だ!!」
「わ、わかってるでしゅ。ただ、たとえ同性間でも感染症予防は大切ー…」
「何にも分かってねぇーーー!!」


フリッツの誤解を解くのにそれから三時間かかった。なんとか縄を解いてもらい、ミラーマンは痛む頭を押さえて部屋に帰り…忌々しい化粧を落としてベッドに横になって…ようやくそこで頭痛薬を買えなかった事を思い出した。


「…化粧なんて…大嫌いだ…!!」


彼はまだ知らない。
泥酔状態だったパブリックフォンの記憶が翌日、綺麗さっぱり無くなり…その記憶を手にいれた小型フィッシュによって『化粧された己の姿を迷界中に放送される』ことになるとは…彼はまだ知るよしもない。

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某様お誕生祝いのフォンミラフォンのような何かです。雰囲気だけなのでどっちかといえばかけ算でなく足し算になりました。


お話が少し物騒な雰囲気なのは仕様です。本当はパブリックフォンが〇〇だけになったり〇〇〇〇になったりするとこだったのですがお祝い事と情勢に配慮して出来るだけグロ要素薄めてみまし…たんですが、まだ殺伐かもしれません。ごめんなさいました。

なんかもう本当…すいませんです…


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