りたーんず

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正式に住人として認めてくれ、と僕が言った直後…一瞬呆気にとられていたグレゴリーは大きな笑い声をあげた。

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!…失礼いたしました。…あまりにも予想外でございましたので…これはこれはどういう風の吹き回しですかな?あれ程までも逃げたがったこのホテルの住人にしてくれとは!?」

よほど愉快なのか、老主人は未だに肩を揺らして小さく笑っている。

「…状況が変わったんです。で、どうですか?認めてくれますか?」




「それは勿論。お客様がそのつもりでしたら、私が意見する事など出来ません…喜んで、お客様方を当ホテルの住人として認めさせていただきますよ…ヒヒヒヒヒッ…」

大仰な身振りにあわせて、手に持った蝋燭が揺れる。…以前も思ったのだが、よく火事が起きないものだなと妙に感心してしまった…。

「…それで、お客様方はどのようにお戻りになられたのか…お話いただけますかな?」

グレゴリーは条件を飲んだ。…次は僕の番だ。

「…僕たちが戻って来たのは、死神さんのウッカリのせいです」
「…はい?」

グレゴリーが訝し気な表情になる。

「…グレゴリーさんは、死神さんとお会いした事がありますよね?」
「…えぇ、過去に幾度か。…最後に会ったのは、ジェームスの大掛かりな罠にかかった時ですかねぇ…」

…それは…違う会い方だと思う。主に…臨死体験とかの。…という絶好のツッコミ所をスルーして、話を進める。

「僕たちは死神さんにかりそめの体を貰い、死神さんの代わりにさ迷う魂を集めました…ここまではグレゴリーさんも知ってますよね…?」

グレゴリーが頷く。

「…あの件で私は散々ママのお怒りを受けましたからねぇ…よ〜く覚えておりますよ…」

ジットリとした恨めしげな視線が僕の顔に突き刺さる。

「うッ…まぁそれは置いときまして…とにかく、僕等の魂は現実世界に帰りました。でも…『かりそめの体』の方はどうなったのかは知りませんでした。この世界に現実の体が入ってこれないように、現実に『かりそめの体』は入ってこれません。…これが死神さんのやらかしたウッカリです」

それで合点がいったという風にグレゴリーはああ、と相槌を打った。

「あの愚かな死神は…かりそめの体の後始末をド忘れしたのですね…」

僕は頷いた。

「死神さんが言うには…『解放した魂の処理でバタバタしてたら、ウッカリ忘れてもーた!急いで回収しに行った時にはもう現実と冥界の狭間から消えとって、跡を辿ってったらグレゴリーハウスに着いたみたいやったし、まぁ後はホテルのご主人に任してもええかな〜と!』…らしいです。」
「…その場に居なくても怒りが込み上げてまいりますな…次に会った時には殴っておきましょう」

もっともなグレゴリーの意見に、苦笑する。

「そうですね…でも正直な話、僕にはあまりよく分からないんです。…グレゴリーハウスが冥界と人間の心の間を絶えず移動しながら存在してるって事は聞いたんですが、なんで僕たちの『かりそめの体』は勝手に動き出してグレゴリーハウスに向かったんですかね?魂も無しに…」

僕の問いに、グレゴリーは嫌そうな顔をして呟いた。

「…大方、引き寄せられたのでございましょう…あの時、貴方々から切り離れた『欲望』に…」

「…引き寄せられた?」

「…基本的な所から、ご説明いたしましょうかね…」

話の途中でグレゴリーが僕に背を向け、部屋のドアノブを捻った。

「きゃあ!」

扉が開くと同時に、ガールが倒れるようになだれ込んできた。

「…よろしければ、中で一緒にお聞きになりますか?」
「…あ、ははは…はい。」

ガールが苦笑しながらグレゴリーの手に捕まり、立ち上がる。…どうやら覗いていたらしい。

「入ってくればよかったのに…」
「いやー…入ってくるタイミングが掴めなかったもので…」

ガールの目が泳いでいる。たぶん…説明が面倒で入って来なかったんだろうな…。

グレゴリーが咳ばらいをし、よろしいですかな?と説明を始めた。

…単純にまとめるとこうだ。
僕たちから切り離された欲望はあの後グレゴリーさんを通して、グレゴリーハウスの世界に取り込まれ、溶け込んだらしい。
恐らく、その欲望…魂のカケラのようなものに、かりそめの体が引き寄せられて、グレゴリーハウスに辿りついたのではないかという。

そして、今の僕たちはかりそめの体を手に入れた魂のカケラが、今度は眠っている最中の意識を呼び出しているだけに過ぎず、体と魂自体は現実にあるらしい。(…ここで小さく舌打ちが聞こえた気がする…)

「…というわけですので、貴方達のかりそめの体は現実世界とグレゴリーハウスを繋ぐいわば『ゲート』となったのです…もっとも行き来できるのは貴方達の意識だけですが…。お分かりになられましたかな?」

グレゴリーがため息をつきながら老眼鏡を外す。

「はーい!よく分かりません!」
「…〜ですから!この図の通りでございます!!」

ガールの明るい返事に、グレゴリーが壁をバンバンと叩く。黒板がわりになった僕の部屋の壁はもう、これでもかというほどの細かな図式がビッシリと書いてあった。

「はい!図がよく分かりません!」
「なんですと…!?この話は三回目ですよ!?」

グレゴリーとガールのやり取りを見て、僕は不意に学生時代を思い出した。…具体的にいうと、数学の居残り補習を。
…ガールに説明を任せていなくて本当によかった…気がする。

「オーノゥ…ええい、まだ分からないのかッ!?」
「…先せ…グレゴリーさん、ありがとうございました。後は僕から伝えますんで…」

ぜいぜいと肩で息をするグレゴリーさんを宥めて落ち着かせながら僕は礼を述べた。…一瞬間違えそうになったが。

「…ああ…ありがとうございます…まさかここまでとは…。私、めまいがして参りました…」

グッタリとするグレゴリーさんに肩を貸して部屋を出る。ロビーに向かおうとする僕をグレゴリーさんが止めた。

「…恐れ入りますが…私、キャサリンに薬を貰ってから帰りますので…」

突然、老主人の口から出たキャサリンの名前に、背筋が凍り付く。

ゆらりと僕から離れたグレゴリーが、僕の腕を軽く持ち上げる。…その腕には、鳥肌が立っていた。

「私が住人と認めましても…他の住人達はどうでしょうか…?ホラーショーは、まだまだ続いておりますよ…お客様。ヒヒヒヒヒッ…」

そういって館の老主人は、長い廊下の闇の中を消えて行った。
…僕の心に確かな恐怖を残して…。


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説明ようやく終わったー!なげーよこの説明!グレゴリーでなくとも疲れるわ!!
しかもこの説明…穴だらけな上に、分かりにくいよ!!これじゃあガールじゃなくても分かりませんよね…

とりあえず次回からは、ボーイとガールが住人になるため(≒ホラーショー回避のため)の仲直り大作戦に、奔走します。こっからがリターンズの本編とも言えます。

果たして二人は無事に住人になれるのか!?…頑張って書きます。




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