りたーんず

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引き金を引くのは一回きり。
そこに乗せられるものは、たったひとつ。
…決断のための時間は、あまりにも少ない。



「撃て!撃つんだ…カクタスガンマン!!」

ガールとカクタスガールの間で視線をさ迷わせていたカクタスガンマンは、一瞬の瞬巡ののちに引き金を引いた。

銃声が響き、弾けとんだのは…カクタスガールを締め上げていたツル。

「すまねぇ、セニョリータ…!」
「兄ちゃん…どうして…!」

驚愕に目を見開いたカクタスガールを守るように抱きしめるカクタスガンマンに、無数の茨が襲いかかる。

「何言ってるのよ、ガンマン!」

その熱い抱擁は、鋏を握りしめたガールの拳によって切り裂かれた。

「もし私を選んでたら嫌いになってたわ。貴方のこと…ちょっと見直したわよ!」
「ほ、本当かセニョリータ!?」
「ええ!でも今は逃げるわよ!」

三人は走った。襲いかかる蔦をかわし、薔薇の振るう魔手から遠ざかる。
樽の影に逃げ込んだ三人が床に伏せた時、ガールが叫んだ。

「今よ!ボーイ!」
「了解!」

三人が避難すると同時に反対の場所からボーイが飛び出した。新たな犠牲者を抱きしめるために、薔薇が蔓を伸ばす。

「ワタシヲ…ダキシメテェエエエーーーッッッ!!」
「ごめんよ」

眼前へ迫る蔓に顔色ひとつ変えず、ボーイは手にしたヘアスプレーを構える。

「僕にはもうそんな資格ないんだ」

ギリギリまで引き付けたあと、ボーイは左手に隠し持った『ライター』に火をつけた。

「技を借りるよ…ガール!!」

ライターの小さな火に引火したヘアスプレーは一筋の炎となり薔薇の腕を焼く。炎の勢いを利用し、襲いくる蔓を焼きながらボーイは駆け出した。

茨の城壁の中心部…そこに咲く薔薇の花を…その足元に広がる…薔薇の注意をひくために彼が投げた瓶が割れ、作られた人為的な水溜まり。
…強烈に香る…テキーラ目掛けて。

「さよならだ」

テキーラに燃え移った炎が、薔薇を焼いてゆく。絶叫をあげて無数の腕がのたうつ。炎を叩き消そうと動かした蔦は反対に自らに火を移してしまっていた。

「!ボーイ危ないッ!」
「ぐ…ッ!!」

炎に包まれたまま振り回されていたはずの一本の腕が、最期に…まるで爪痕を残すようにボーイの胸を深く突き刺した。

抉るような衝突に吹き飛ばされたボーイの体は、一直線に背後の樽の山へと突っ込んだ。敵を討った緑色の腕が灰となり、燃え落ちる。

炎は徐々に激しさを増して真っ赤な花弁をより赤く染めていく。断末魔さえ飲み込んで薔薇が燃えている。
それはさながら、炎が誰にも受け取られなかった薔薇を抱き締めているかのようだった…。


「ボーイ!」

ぱちぱちと音を立てて燻る灰が完全に動かなくなったのを確認したガール達は、倒れているボーイへと駆け寄った。
当のボーイはというと呻き声を漏らしつつも、散乱した樽の中から自らの力で身を起こしている。

「ボーイ、大丈夫なの!?」
「ああ、大丈夫だよ」
「大丈夫って…アミーゴ、アンタさっきザックリやられてたじゃねぇか!」

「本当に大丈夫だよ。コレのおかげでね」

そういってボーイは着ていたポンチョを捲った。胸に穴が開いたポンチョのその下には…重厚な紺色のジャケット。

「ボーイ…なにコレ?」
「これはね、アラミド繊維製のジャケットだよ!アラミド繊維は代表的な製品であるケブラーとの名称でも呼ばれていて、その主な特徴としては弾性率、耐切創性、耐熱性に優れた有機繊維の」
「「「一言で」」」
「…ようは防弾防刃ベストさ」
「はあ!?」

あまりにも平然とした表情でしれっと答えるボーイに全員がなにも言えず、唖然としたままボーイによる『種明かし』を聞いていた。

「カクタスガールの言う通り、僕は臆病な卑怯者だからね。何の対策もなく、決闘なんか怖くって出来ないさ。まぁこれでも公平な勝負になるように審判も交えて色々と考えたんだよ?」

誰も死なずに決闘を終わらせるにはどうするべきか。元よりこちらの目的は仲直りなのだ。誰かが傷つくことは避けたい。
だからボーイは防弾ベストの代わりに、自分の銃に『ガンマンの命を守るための小細工』をすることにしたのだ。

「…僕が作ったのは『絶対に撃てない銃』なんだ。この能力で作れるのは、構造の分かっているモノだけ。いくつかのパーツを作れたとしても僕は銃の内部構造なんか知らない。知らないものは作れないさ」

だからこそボーイは目の前でパーツを作って見せたのだ。全員に『二組のパーツ』が全く同じパーツだと思い込ませるために。

「つまりあれは…よくできたレプリカだってのか…!?それならなんであんなに正確に銃が出来上がったんだ!?」
「別に内部構造がデタラメでもよかったんだ。組み立てながら、銃に見えるように作り直せばよかったんだからね。まぁパーツが上手くコピー出来たから、能力は使わずにすんだけど」

嘘はついてないことは、後で審判にでも聞いてもらって構わないよ。とあっさりと言ってのけるボーイにガンマンはがっくりと肩の力が抜けてしまった。
道理であの時、バラを撃たずにすぐに銃をテキーラへと変えてしまったわけだ。撃たないのではなく撃てないのならばああする外ない。

「銃弾を撃てるのは組み立て勝負に勝った方だけ。でも、どんなに早く作っても、撃てなければそれまでだ。あの決闘方法なら組み立て勝負でさえ負けなければ必ずガールを助けられるからね…」

ガンマンはため息をついて苦笑した。

「なるほどな…アミーゴ!アンタは大したヤツだ。そんなに堂々とした卑怯者は滅多にいねぇぜ!」
「どれだけ卑怯な手でも使うさ。ただ、僕はガールのために決闘は出来ても命までは賭けられない。ガールだってそんなの望んじゃいないだろうしね」

しかし薔薇のお化けが出てきた時はどうしようかと思ったよ!ガンマンがいて助かったねガール!と笑うボーイに、ガールが微笑んで拳を握った。


「そうね。ねぇボーイ…私の言いたいこと、わかるわよね?」
「…できたら優しく頼むよ?」

にっこりと微笑んだまま、ガールの拳がボーイの頬を打ち付けた。軽く脳が揺れかけた衝撃によろけるボーイの体をガールが抱き締める。
その表情は今にも泣き出しそうだった。

「心配させないでよ…ッ!ボーイのバカァーーーッッッ!!」
「うん、ごめんよ。ガール」
「私のために決闘なんて、二度としないでよねッ!」
「…うん、ごめんよ」

うつむいて涙声で震えているガールの頭を撫でながら、ボーイは静かに告げた。

「ガール、僕は君のために命は賭けられない」
「うん」
「それでも、君は僕の大切な一人だ」
「…うん」
「…君が無事でよかった…」

しんみりとした空気が流れる中、突然、そうか!とガンマンが叫んだ。

「オレは今気づいてしまった…ボーイ、そしてセニョリータ…お前達も兄妹だったんだな!?」
「え!?ほんとう!?」

二人は数秒程考え込んだ後、見当違いな勘違いに頷いた。

「…うん」
「…似たようなもんかな…」

「やっぱりそうか!道理でなんとなく似てるわけだな!」
「すごい!兄ちゃんがまた当てた!」
「止せよ妹よ!あんまり誉めると照れるじゃねぇか!」

勘違いをさらに妙な勘違いで上塗りする形となったが、どうやらこれでボーイがカクタス兄妹に狙われる心配はなくなったようだ。

「ところで…僕は試合に勝って勝負には負けちゃったわけだけど…僕が先に組み立てたんだから、ガンマンの申し出を受けるかはガールが自由に決められるんだよね?」
「そうだな!家族からの許しも出たみたいだから、あとはセニョリータの気持ち次第だ!」

家族でもないし、許しもしていないんだけど…と思いつつ傍観していると、ガールはあっさりと頷いた。

「…いいわよガンマン。申し込んで…」
「本当か!?」

喜色満面のガンマンに、ガールは微笑んで拳を握った。

「ええ…、私が倒せたらね!」

だいたい、私と付き合うのにはボーイじゃなく私を倒してからじゃないと!と楽しげに拳を鳴らすガールに、青ざめたカクタスガールが兄を止めるより早く…突っ込んでいったガンマンが宙を舞った。

「ああ…やっぱりこうなったか…」
「兄ちゃーーーん!」



ちなみに決闘の勝敗は…ようやくグレゴリーさんを連れて戻って来た審判が慌ててゴングを鳴らしたため1ラウンド連続27コンボでガールのKO勝ちで終わった。



―――――――――――
お待たせしました!決闘とバイオハザードとガンマン終了のお知らせです!
とりあえず良い子も悪い子も室内でキャンプファイアしちゃいけないよ!
グレゴリーさんとのお約束だ!

ボーイは平然と卑怯者です。
ボーイは平然と卑怯者です(大事な事なので以下略)

次回はカクタス兄妹編のまとめです。男の世界と女の子の気持ち。
そして尺が余ったらアイツが再登場。
お楽しみに!


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