りたーんず
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僕達は、何のために争うのか…。
手にいれるためか、守るためか…。
それは…自分の全てを賭けるほど、大切なものなのか…。
決闘の日、正午ー…
ボーイは荒野の部屋の土を踏みしめて立っていた。
目の前には縛られたガールを捕まえているカクタスガールと、不敵に笑う荒野の男。
「…時間通り、来たよ。カクタスガンマン。…ガールを解放してくれないかな?」
「悪いがアミーゴ、それは出来ない相談だ。ここは荒野の部屋…セニョリータが欲しければ正々堂々、このオレから奪い取ってみせろ!」
カクタスガンマンがボーイに銃口を向けた。ガールの顔が緊張に歪む。
だが、悲鳴をあげるような良識の持ち主はー…ネコゾンビは部屋を出たところをグレゴリーに見つかって牢屋に強制送還されてしまったので…ここには居ない。
向けられた銃口に怯むことなく、ボーイは眉をひそめた。
「正々堂々ね…待ち伏せで誘拐したくせに」
「それは…まぁ、そうだが!取り戻すためのチャンスは与えたぜ?」
「そのチャンスが決闘とはね…まぁいいや。とにかく始めようか」
赤いスカーフにゴーグル。ガンマンに倣ってポンチョを着込み…それなりに決闘に相応しい格好をしては来ているものの、ボーイはいつものようにため息をついた。
その目に、どこか剣呑な暗い光を宿して…。
「決闘のまえに…最初にガンマンの銃を見せて貰っても?」
「そりゃ、構わないが…そう言うお前さん、自分の銃はどうした?」
カクタスガンマンは審判が引きずってきた幅広の樽の上に銃を置いた。しかし、ボーイは見たところ銃を持っているようにみえない。いわゆる…丸腰だった。
「心配しなくていい。僕の分は『これから作る』よ」
「何ぃ?」
テーブル代わりの樽の上で、ボーイの指が見る間にガンマンの銃をバラバラにした。
「成る程…こういう構造なんだね…」
「おい、人の銃に何を…!?」
分解されてしまった銃に狼狽するガンマンを無視して、ボーイは無言で足元に転がる小石を拾い上げて握りしめた。
バラバラ、と雨粒のように樽の上に落ちて広がったのはガンマンの銃と同じ部品。
「こっちは初心者なんでね…。どこに当たるか分からないんだ。だから、ルールを少し変えさせて貰う」
呆気にとられていると、いつのまにか樽の上にはちょうど同じ部品が同じ数だけ整然と並べられていた。
「銃の組み立て競争といこうじゃないか。使う銃弾は一発だけ。バラバラになってる部品を組み立てて、先に銃を作ることが出来たほうが勝ちだ。ガールを手にいれる」
「おいおいアミーゴ、それじゃあ決闘じゃないぜ?銃は撃つものだ!」
ガンマンが文句を言うと同時に、ボーイの指が最後のパーツ…銃弾を生み出す。樽の上に置かれた、コトリ、という音がやけに大きく響いた。
「言っただろう?銃弾は一発…組み立てた後は撃っても撃たなくても構わない。決闘らしく、本当の…お互いの全てを賭けようじゃないか」
「ボーイ!?」
「心配しないでガール。僕は絶対に負けないから」
微笑んで口にした台詞はいつかの逆だった。そう言われると文句も言えなくなってしまい、ガールが黙る。
「お前さん、面白い奴だな…いいだろうアミーゴ!乗ったぜ!さぁ決闘だ!!」
「コインが落ちた時が合図だよ!さぁ!天下分け目のジャッジメント!!」
気の抜けそうな審判の説明の後、始まりを告げるコインが落ちた。
床を跳ねる高い音が消え去る前に、男達はそれぞれの銃を手にした。互いへと向ける…銃口を作り上げるために。
「ふー…いきなり撃ち合いじゃなくてよかったわ。あれならボーイが勝てば誰も怪我しなくてすむかも」
「兄ちゃんが負けるもんか!銃の腕前はイマイチだけど…手入れは毎日やってるんだ…組み立て競争なら絶対負けない!!」
「ホント、いきなり撃ち合いにならなくてよかったわよねー…」
カクタスガールの上着のポケットからちらりと見える包帯。今回の決闘に、自分と同じ…いや、それ以上にハラハラしていた人物にガールは笑みを浮かべた。
「貴女って優しい子ね?」
「い、いきなり何よッ!?」
「別に〜?ほら、始まりそうよ?」
コインが閃いた。
「なんで…そうまでして決闘をするの?心配なんでしょう?」
「…兄ちゃんが言ってた。『銃は心を浮き彫りにする。大切なものを教えてくれる。決闘は魂との対話なんだ!』って」
「………ごめんなさい。もうちょっと分かりやすくお願いします…」
「ア、アタシにも全部はよく分からないのよ!ただ…兄ちゃんはカクタスガンマンなんだ!銃と共に生きる荒野の男だ!銃士として生きるためには闘い続けるしかない。アタシは女だから…こうして見守ることしかできないけど」
無力さに拳をぎゅうと握りしめ、それでも少女は決意に満ちた顔を上げた。
「いつか…兄ちゃんが本当に大切なものを手にいれるためなら、アタシはそれを手伝いたいんだ!」
だけどアンタがそうだってワケじゃないんだからね!勘違いするな!と怒鳴るカクタスガール。
「大好きなのね、ガンマン…お兄さんのことが」
「そうよ。当たり前だ!アタシの一番大切な…たったひとりの家族なんだ!」
激昂するカクタスガールを静かに眺めてガールは、貴女はいい妹さんね〜、と微笑んだ。
「貴女のこと…ちょっぴり羨ましいわ」
「なに?」
怒りの衝動に任せて真意を問いつめようとしたカクタスガールは、それでも口をつぐんでしまった。
ガールの浮かべたその微笑みが、どこか悔いているような…とても寂しげな表情に見えたために。
「私はねー…私の大切な人を、大事にしてあげられなかった。私の大好きだった人は、私を愛してなかった…」
ふい、と顔をそらし自分のために争う男達へと遠い目を向けて…ガールは苦い言葉を吐き出した。
「一度も、抱きしめられなかったわ」
『…ダキシメテ…』
「…え?」
耳に届いた微かな声に、カクタスガールは目を見開いた。こちらを振り返ったガールも首を傾げている。
「今の…貴女にも聞こえた?言っておくけど、私じゃあないわよ」
「…でも、ここには二人しか」
勝負の行方すら忘れて青ざめる二人は気がつかなかった。二人の背後を、緑の蔓が這い回っていたことを。
『ワタシヲ…ダキシメテェエエエッッッ!』
一際高く聞こえた絶叫に振り返った二人の目に写ったのは、視界を覆い尽くすほどに成長した茨の蔓。そして、誰にも受けとめられず…置き忘れられ、愛に飢えた一輪の美しい薔薇だった。
薔薇の蔓が鎌首を持ち上げる。
二人を抱きしめるために…。
「「きゃあああああーーーッッッ!!」」
銃弾の入ったシリンダーが押し込まれる。ガチリと撃鉄を引き下げて、勝者は微笑んだ。
「僕の…勝ちだ…」
一瞬早く組み立てあげたボーイの握る銃口がガンマンに向いた。引き金にかかる指先に、力をこめる。
これからカクタスガンマンの命を奪おうとしている男が、冷酷な笑みを浮かべた。
「さよなら、ガンマン?」
「クソッ…!」
今から狙いを定めるのでは命中しないのは確実だ。それでもガンマンは引き金に指をかけた。たった一発の…このクイックドローに命を賭けるために。
その時、銃声が響く前に、二人分の悲鳴があがった。
「いやー!なによこのお化け花!」
「助けて兄ちゃぁああん!!」
ボーイが悲鳴のあがった方を向いた。決闘中に余所見など隙だらけもいいところだが…聞き覚えのある声のその悲鳴にカクタスガンマンもそちらを向かずにはいられなかった。
「ガール!?」
「おいおい…なんだこりゃあ!?」
振り返った先には、無数に伸びた緑の腕によって宙吊りにされ締め上げられている二人の少女がいた。腕の繋がる茨の蔓が作り上げた城壁のような幹の上に一際鮮やかな赤が咲き誇っている。
「あれはまさか…オレがセニョリータのために育てたバラかッ!くそッ育ちすぎてやがる!愛情を込めすぎたんだ!!」
「何リットル注いだんだいガンマン!まるで生物兵器じゃないか!ゲームが違うよ!」
ガンマンと審判が妙な慌てかたをしていると、茨の腕が少女達を抱きしめる腕に力を込めた。
「苦し…絞まってるッ!」
「痛い…トゲが…」
胴体を絞められ、二人がいよいよ危険な状況になってきた。
「一時休戦だよガンマン!」
ボーイが手にした銃をポンチョにつっこみ、何かの瓶と二本のスピードプラスに変化させた。
「二人は僕達で助け出す…審判はグレゴリーさんを呼んできて!!」
「わかった!」
「オレ達で…助ける!?正気かアミーゴ!?」
早くもビビりはじめているガンマンにスピードプラスを使うと、ボーイは瓶をバラめがけて投げつけた。
城壁にぶつかって割れた瓶に、茨の腕がざわめき、バラの意識がこちらに向いたのが分かる。
「僕が花の注意を引き付ける…その間に、君があの子達を助け出すんだ。頼んだよガンマン」
そう言うとボーイは自分にもスピードプラスを使い、樽の影から飛び出した。バラの腕がボーイの後を一斉に追い始める。花の間近に捕らえられているガールとカクタスガールの周りが文字通り手薄になった。
「しようがねぇ…やるなら今か!」
雄叫びをあげながら、ガンマンはボーイとは反対側に飛び出した。
バラの腕を避けながら、一直線にその懐へと飛び込んで行く。
ボーイが引き付けたバラの腕が本体を守るべく戻ってくる前に、ガンマンは銃を構えた。
「撃つんだガンマン!!」
「撃って!ガンマン…!!」
ボーイとガールが叫ぶ。
カクタスガールはぐったりとうなだれていた。
カクタスガンマンの顔に、冷や汗が伝う。
銃弾は一発。
二人は別々の蔓で宙吊りにされている。
愛する女と、愛する妹。
「オレは…どっちを、狙えばいいんだ…?」
手にいれるためか、守るためか。
…決断の時は突然にやってくる。
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お待たせしました36!
ボーイがおっかないよ!良心すらいないよ!そしてなにより最後の方…ゲームが違うよ!
バイオハザード発生でガンマン涙目。
決闘どこいった。
次回!
「本当の勝者」
ご期待ください。