りたーんず

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ガールを賭けて、カクタスガンマンとの決闘をしなければならない。
僕は、銃を手に取れるだろうか。彼女のために…。




「決闘かぁ…それはまずいね!」

ガールが連れ去られた直後…訓練をサボって様子見にやってきた審判小僧に、二人がさっきまでの事を説明すると珍しくその顔から笑顔が消えた。

「うーん…先に言っておくけど…この話、キャサリンとシェフには絶対しないほうがいいと思うよ?」
「どうして?」
「だってさー…ただの決闘ならまだしも、女の子を賭けて決闘するなんて…もしキャサリンに知られたら決闘する前に全員お仕置きされるに決まってるじゃないか!」

審判の説明の途中、全員の脳裏に怒りのオーラに包まれ…巨大な注射器を振りかざすキャサリンの姿が浮かんだ。まして、ガールはキャサリンに気に入られている。これはバレたら怖いことになりそうだ…。

「それとシェフに言うとほら…晩御飯のメニューが…」
「…それはイヤだなぁ」
「でしょー?だからガンマン、決闘する時はいつも皆に内緒でやるんだよー」
「…それでもまだ決闘しようとするのは逆に勇敢だニャ」

ネコゾンビは呆れつつも安堵のため息をついた。審判の言う通りなら、決闘が行われる明日の昼まで…カクタス兄妹にボーイ達二人の帰還を言いふらされる心配はないだろう…。


「それにしても審判…詳しいね?」
「ああ!ボクいつもガンマンが決闘する時は立会人でジャッジしてるから!前にグレゴリーに頼んだらひどい目にあったらしいよー」
「どうせ流れ弾が当たったグレゴリーに追い回されでもしたんだろうニャ…」

それは聞いたことないけど、と審判小僧が苦笑してつけ加えた。

「それに、ガンマンはボクにとっても友達だからさ…決闘までの間は相談相手くらいにはなるけど、今回はボクもボーイ達の味方は出来ないよ」

驚いたネコゾンビの横でボーイは微笑んで、構わないよ、と頷いた。

「友情もそうだけど『審判はどちらの味方にもなれない』…ってことだろう?」
「モチロン!ちゃんと公正なジャッジをさせてもらうよ!」
「それでいいよ。公平な立会人がいるってだけで十分さ…」

むしろ君が大人しく見守ってくれているだけですごく嬉しいよ…とどこか遠くを見ながらボーイがもらした呟きに、ネコゾンビは首を傾げた。
何かあったのかと尋ねようとしたその時、審判の何気ない『問いかけ』が…図らずもその場の空気の緊張を一気に最大まで高めた。

「ところで、ボーイは誰かと『決闘』したことがあるのかい?」
「いや。決闘どころか、生まれてこのかた本物の銃には触れたことすらないよ。せいぜい縁日の射的くらいで」
「そうなのニャ?…それはなんだか心配だけど…たぶん、ガンマンが相手なら大丈夫ニャ…そうだろうニャ審判?」

一瞬、不安気な表情を浮かべたネコゾンビが尋ねると、審判が間延びした声で笑いながら答えた。

「大丈夫大丈夫!相手はガンマンだから」
「…君達って一応、友達…なんだよね?」
「そうだよー?でも今までガンマンが撃って狙い通り当てたところ見たことないもん」
「そこはボクも保障するニャ…だけど、ボーイが銃を握るのが初めてなのは心配だニャ…」

カクタスガールもついているとはいえ、決闘の相手があのカクタスガンマンならば、ボーイが危険な目に合う事はないだろう。もっとも…ギャラリーの安全がどうなるかは分からない。

「なんとか決闘にならないでガールを助け出せれば一番いいんだけどニャ…」
「でもそれじゃあ仲直りはできないよね〜…それに、そもそもさ!ガールはガンマンのこと嫌いなのかな?」
「うーん…前の滞在の時は『私は現実に帰るから、貴方の気持ちには応えられないの!ごめんね!』って言ってたけど…今は違うしなぁ…」

じゃあさ!と審判はのんびりとした口調で…あまりにも衝撃的な提案をした。

「それなら決闘に行かなければいいんだよ!ガンマンとガールが付き合っちゃえばガールは二人に追われずに済むし!」

数秒の間をおいて、一斉に反対意見が二人の口から飛び出した。

「ええええええ…それは…どうなんだろうなぁ…。僕達が勝手に決めていいことじゃないし…ガールが可哀想だよ」
「そうニャ!何をバカなこと言ってるニャ審判!ガールの気持ちも少しは考えるニャッ!!それに、それじゃボーイはどうなるニャ!?」
「わわ!ごめんごめん言ってみただけだよ!しょうがないじゃないか!もしボーイが勝っても二人と仲直りはできないわけだしさ〜…」
「それは…そうだけどニャ…」

ネコゾンビが言葉をつまらせる。審判の意見は正論だった。

ボーイが勝てばガールは助かる。でも二人とガンマン達の間の溝は深まるだろう。かといって行かなければガールは追われなくなるだろうが、ガールのことを見捨ててしまうことになる。

必ず助けに行くと約束したのだ。そんなわけにはいかない!

「いったいどうすればいいのニャ…」

ネコゾンビは親指の爪をかじりながら頭を悩ませたが、どうにもよさそうなアイデアは思い浮かばなかった。

「大丈夫だよ、ネコゾンビ…不安だろうけど、ほんの少しの間でいい。僕を信じて欲しいんだ」

肩に置かれた手にいつの間にか俯いていた顔を上げると、ボーイが優しい笑顔を浮かべていた。

その目に、強い決意と覚悟をたたえて…。

「約束通り…ガールは僕が必ず助けてみせる」



同じ頃…荒野の部屋では縛られたままのガールがうんざりとした顔で真っ赤な花束を眺めていた。

「だ〜か〜ら〜!受け取れないわよ!」

ガールの言葉に花束を差し出していたカクタスガンマンが目に見えてしょんぼりする。

「そうか…バラもオレの気持ちも、セニョリータはまだ受け取ってくれないのか…」
「ひどいっ!ちゃんと受け取りなさいよ!アンタが戻ってくる日のために兄ちゃんが毎日丹精込めて育てたのよ!」
「いいんだ…妹よ。戦いに勝利すれば、きっとセニョリータもこのバラの花のようにその心を開いてくれるさ!」

縛られて手も足も出ない状態じゃどうしたって受け取れっこないわよ!という言葉をガールは必死で飲み込んだ。

逃げようと思えば簡単に逃げることもできたのだが…ミイラ親子達のようにカクタス兄妹とも仲直りするチャンスがあるかもしれない。せっかく捕まったのだから、きっかけくらいは見つけて帰ろうと思っていたのだが…彼女の予想以上にカクタスガールの監視が厳しかった。

「もういい加減ほどいてほしいなぁ…」
「逃げようとしても無駄よ!」
「逃げないわよー」

すぐそばに投げ縄の名人がいては、さすがに逃げられそうにない。なんとか隙を見つけて逃げ出すしかなさそうだ。

「言っておくけど!アタシはまだアンタが兄ちゃんにふさわしい女とは認めていないんだからねッ!それでも、明日の決闘で兄ちゃんがあの男に勝ったら…大人しく兄ちゃんと付き合え!」
「うーん…一応、考えておくわね!」

カクタスガールがまだ何か一生懸命言っていたが、深く考え込んでいたガールの耳には届かなかった。

「私を賭けてボーイが決闘ねぇ…」

はたして、彼は来るのだろうか。
共にホテルを脱出するための仲間だけれど、言いかえれば自分達はそれだけの間柄だ。現実で目が覚めれば、見知らぬ他人同士。

そんな私のために、ボーイがボーイの命を賭ける…?

頭を振ってもやもやした考えを振り払った。
いつの間にか、冷や汗をかいている。なんだかひどく落ち着かなかった。

「変なこと、考えてないといいけど…」



…決戦の時は、刻々と迫っていた。



――――――――
お待たせしました35夜!一人称が「ボク」の人(?)3人の会議。状況確認してみたら意外とにっちもさっちもいきそうにないよ!!

そして信頼の「だってガンマンだし」。あのネコゾンビですら決闘を「ちょっと心配」レベルにしてしまうミラクルな腕前の持ち主。

次回はとうとう決闘イベントが始まります。
ボーイはガールのために銃をとれるのか…?



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