りたーんず

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見渡せば燃え盛る炎、粉砕されて四方に飛び散る元・僕達。しかも欠片が足元に飛んできた…。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図、またはとんでもない悪夢としか言いようがなかった。

「あ、飛んじゃった?ゴメンねボーイ!」

唯一ケロリとしているのは、己の屍(まやかしではあるが)を踏み越えた張本人であるガールだけだった。ネコゾンビの元までたどり着いた彼女は、まるでソースか何かが跳ねたかのような口振りでゴメンゴメンと笑っている。

「ジャマだったから壊しちゃった!」
「思いきりが良すぎだよ!?」

仮にも自分と同じ姿のものを躊躇なく粉砕したガールは、男前な笑みを浮かべた。

「だってこうでもしないと、届かないんだもの。仕方がないわ!さてと…ネコゾンビみーっけ!…さぁ約束よねボンサイさん!ネコゾンビを見つけたら夢から目覚めさせてくれるんでしょう?」
「なッ…!しかし…わしは『見つけたら目覚めさせてやる』などとは一言も言っておらんぞ!!目覚めさせたいのならば、お主らで自らその猫を説得して起こすのじゃ!」
「なによそれ!ひどいわ騙したのね!?」

ガールが憤慨して抗議するが、ボンサイカブキは聞く耳を持たない。

その間に、僕も己の屍を踏み越えて彼女達の側に立った。
ネコゾンビは怯えた目をさ迷わせて、後ずさった。

「来ないでくれニャ…君まで燃えちゃうのニャ。…もう、もう何も見たくないニャァ…」

縫いつけられた瞳を涙で濡らして怯えている彼に、ガールまで泣き出しそうな顔をした。

「ネコゾンビ…」
「ネコゾンビ」

僕はネコゾンビの頭に両腕を回して、子供にするように彼の背中を軽く叩いた。

「ネコゾンビ、もういいんだ。もうこれ以上、君が悲しい夢をみる必要はない。大丈夫、僕達は君を残して燃えたりしないよ」

ほら、燃えたりしないだろう?と笑ってみせると、徐々に震えが治まっていくのがわかった。

「君のおかげで僕達は現実に戻れたんだ。まだ僕達は死ぬわけにはいかない。一緒には燃えてあげられないけど…だから今度こそ、一緒に帰ろう。ここじゃない場所に。…あのグレゴリーハウスに。…大丈夫。今度だって僕達は誰にも負けやしないよ。だって僕達には、大切な友達がいるんだ」

ゆるゆると顔をあげたネコゾンビの瞳が、まっすぐに僕を見つける。
その瞳に映る自分達の姿に嬉しくなり、僕は彼を抱き締めた。まるで迷子のように、長い長い間を夢の中でさ迷った彼をようやく見つけた気がした。

「僕達を待っててくれて、ありがとう。ネコゾンビ」
「…ボーイ?本…物の…?」


閉じられた唇から零れた言葉に、ざあッと一迅の強い風が吹き抜けて炎が吹き消されていく。それと同時に、石畳の部屋が舞台へと姿を変えていく。

「これで逆転ね?ボンサイさん」

ネコゾンビを守るように立ったガールが、ボンサイカブキをまっすぐに見つめた。

「ぐッ…何故邪魔立てするのじゃ…せっかく幸せな夢を見せてやったというのに…!」
「その夢より幸せになれないんなら、そんな夢見させられたって大きなお世話よ!」

ガールが正論をぶつけたが、ボンサイカブキはなおも扇を振りかぶった。

「ええい、分からぬ奴らめ!ならば次はお主らの番じゃ…望んだ夢見た妄想を覗いて晒して浮かべてやろうぞ!」
「ガール!目を閉じるニャ!第三の目を見ちゃダメニャ!」

僕に肩を借りるようにして立ち上がったネコゾンビが叫ぶ。
しかし、ガールは怯まずにボンサイカブキの顔をまっすぐに見つめた。不意にボンサイカブキが後ろに飛び退く。

ガールは、初めて見せるような…冷たい顔で笑って言った。

「…どうしたのよ…私の妄想を覗いたんでしょ?具現化なんかしないでいいのよ。私が自分で叶えられるもの…ねぇ、今『何発殴られた』?100発?200発?でも、そんなんじゃ全然足らないわよね…私の大切な友達を傷つけたんだもの」

いつの間に打ったのか…床に緑のアンプルを投げ捨て、ガールが微笑む。
けれど、怒りに満ちた声で、彼女は断罪の言葉を吐いた。

「あなたは私を怒らせたの」

「…これは…お主まさかッ…待て!わしが悪かったッ!待て待て待たれい」
「嫌。…さぁ、今度は…私のホラーショーのはじまりよ!!」

ガールがそういった瞬間、ボンサイカブキの体が宙を舞った。
スピードプラスで強化されたこともあり、ガールの拳は速すぎてもはや肉眼では見えなかったが、おそらくは強烈なアッパーの連続。
言い訳なんて無駄無駄ァ!とばかりの猛ラッシュ。激しい打撃音と共に拳を受けたボンサイカブキの体は空中で舞い続ける。

僕は先程とは違う意味合いでネコゾンビにしがみついて震えてしまった。ネコゾンビも呆気にとられたような顔で少しずつ青ざめていた。

「「…いつものガールじゃない…!!」」

一際高らかに無駄ァ!と叫んでガールが拳を振り抜いた。ボロボロになったボンサイカブキがドアの側までぶっ飛ぶ。すっきりした様子のガールが首を傾げた。

「…やっぱりオラオラって言った方がよかったかしら?」
「そういう問題じゃないと思うよ…」


僕達がガールへのツッコミに気をとられているうちに、ボンサイカブキが逃げ出そうとドアノブに手を伸ばした…その時、ドアが外側から開かれる。

「ぐぉお…お?」
「あらあら、大丈夫〜?ボロボロじゃない…素敵な幹が台無しねぇボンサイさん。」

開いたドアの側に、見慣れた人影が立っていた。その手に愛用の注射器を持って微笑む彼女の名前を僕らはよく知っていた。


「「「キャサリン!」」」

「ここ最近の夜泣きはアンタのせいだったのねぇ〜…夜更かしはお肌の大敵なのに…せっかくアタシが珍しくプライバシーを尊重してあげたのに…そうそう、ボーイちゃんにも偉そうなこと言われちゃったんだったわ…でもそれもこれも全〜部…アンタのせいだったのねぇ…」

ボンサイカブキが腰を抜かしたまま後ずさる。キャサリンが優しく微笑んで…注射器を振り上げた。

「さぁ、採血の時間よォ?」
「ひッ…ぎゃあああああーーーーーーーッ!!!」


悲鳴と吸入音をBGMにしながら、ネコゾンビが苦しげな顔で、ゴメンなさいニャ…と頭を下げてきた。

「…ボクは…本当は君達と…」
「ネコゾンビ。私達そんな言葉よりももっと聞きたいことがあるのよ!」
「そうだよネコゾンビ。僕達まだ君に言ってない言葉があるんだ。聞いてほしいな」

僕達は声を揃えて言った。ネコゾンビは一瞬、呆気にとられたような顔をしてから笑って答えてくれた。
ガールが飛びついてきて、僕達は一斉に床に倒れた。

石畳に体をぶつけながらも、僕達は笑顔で顔を見合わせて…キャサリンの採血が終わる前に、いつのまにか眠りに落ちてしまった。

長い長い一日の終わりに、僕達はようやく幸せな夢を見れた気がする。




「「ただいま、ネコゾンビ!!」」
「おかえりなさいニャ」



――――――――――――
えせシリアスのネコゾンビ編がようやく終わりました!
ようやく三人目の仲直りが出来たね!

ガールの無駄無駄ラッシュは大分前から決まってました。ボンサイカブキはぼこぼこにされてなんぼやと思います!

さて次回は…ミイラ親子編のラスト。そして●●●●●●編の始まり?です。



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