りたーんず

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僕達は気づくことが出来なかった。
迫りくる危険にも、本当に恐ろしい『恐怖』にも。



ミイラパパの部屋を出たのはだいぶ夜がふけてからになってしまった。

修理完了の一歩手前でいくつかの部品が必要になり、部屋へと取りに戻ろうとしたところにミイラ坊やが眠そうな目を擦りながら戻って来た。そのため夜も遅いし、続きはまた明日、ということになったのだ。

僕は工具箱を手に足音を忍ばせて静かに廊下を歩いていた。眠気にくっついてしまいそうな瞼を懸命に見開き、誰にも会わないように気を配りながら自室を目指す。

とはいえ、時間は深夜。
…まず誰にも会わずに済むだろう。
それなのに自室の前の廊下に立つ人影を見つけ、僕は驚いて足を止めた。
気配に振り返った『彼』は、僕を見つけると被っていたソンブレロを親指でぐいと押し上げ、笑ってこう言った。

「へいアミーゴ!会いたかったぜ…本当に帰ってきたんだな?」
「カクタスガンマン!?なんでここに…」
「お前さん達が帰ってきたって、小さなアミーゴが教えにきてくれたのさ!父親とお前さん達にあげる薬をわけてくれってな」
「!ミイラ坊やか…」

友好的な話し方に、かえって緊張が高まる。

ポンチョの裾から見える腰にはガンベルトの中にきっちりと納められたピストルが確認できた。

カクタスガンマン。
前回、僕達は彼からもタマシイを奪った。

…しかし彼からタマシイを奪うことより厄介だったのは…彼がガールに惚れたことだった。しかも、何故だか知らないが彼の中で僕は『ガールの恋人』ということになっているらしい。

それ以来「セニョリータを賭けてオレと決闘しろーッ!」とピストル片手に追いかけ回されたのは本当に厄介だった。

…そんなガンマンが今、丸腰の僕の目の前にいます。
…今さらながらに、ミイラ坊やに口止めしていなかったことが悔やまれてならない…!なんで忘れてたんだ僕は!

「…それで、決闘しに来たのかい?こんな時間に発砲なんて近所迷惑なこと、止めておいたほうがいいんじゃないかな?」

カクタスガンマンから意識をそらさず、僕は会話をしたまま部屋との距離を計った。自室のドアは、向かい合った僕とガンマンのちょうど真ん中くらいの地点にある。
…なんとか隙をつければ、自室に逃げ込めるかもしれない。

しかし、カクタスガンマンの答は僕の予想だにしない言葉だった。

「おいおいアミーゴ…勘違いしてもらっちゃ困る!アンタとの決闘はまた後日におあずけだ!」
「…え?」
「運がよかったなアミーゴ…今日のオレはアンタじゃなく、愛しのセニョリータに逢いに来たのさ!!」

そう言ってカクタスガンマンが懐に手を突っ込むと、中から飛び出す絵本よろしく大量のバラが出てきた。…どうやってあのポンチョの中に入っていたんだろう。

きょとんとしてしまった僕の前で、カクタスガンマンは相好を崩して語る。

「自分の過ちを知り、戻ってきた女を許してやるのは西部の男なら当然のことだ…。オレの方から会いに来れば、彼女が『合わせる顔がない』と恥じる必要はない!待たせたなセニョリータ!さあドアを開けてくれ!!」

スポットライトを浴びながら、カクタスガンマンがガールの部屋のドアを叩く。
風も吹かない廊下に舞うバラの花びらに、僕は息を飲んだ。

「…なんて…迷惑なプラス思考なんだ!!」

迷惑行為防止条例なんて文字は辞書に載っていない西部の男の発想力に、ある意味感心してしまったがこれはかなり危険な状態だ。もしこれでガールが扉を開けてしまったら、ある意味ホラーショーが待っている。本当にトラウマになりかねない。

「開けちゃダメだガール!」
「…ふん…ムダさ!何故ならオレの愛の前ではこんな扉一枚、障害とは言えないからだ!男の生き様をよく見ておきなアミーゴ!」

そう言うとカクタスガンマンは扉から少し離れ…助走をつけて勢いよく突進した。

なんてこった…蹴破る気だ!

支配人のグレゴリーが見たら悲鳴をあげそうな行為をいともたやすく行おうとするカクタスガンマン。

その時、ガールの部屋の扉が開き…静かに怒りに満ちた声が落ちた。

「…うるさいわねぇ」

中から表れた女性が、長いピンクの髪をかきあげながら…注射針を突きだした。

「こっちは寝不足なのよ!!」
「「キャサリン!?」」

針はブスリ、と音を立ててカクタスガンマンの眉間に突き立った。ドアを蹴破ろうなんてしなければ逃げられただろうに…と思ったが、おそらく自業自得という言葉もないのだろう…西部の男はそのままシナシナに干からびて倒れてしまった。

「ああもう!せっかく今日は熟睡できると思ったのに〜ッ!」

採血してもなお機嫌を悪くしたままのキャサリンに、僕が今度こそ自分の部屋に逃げ込もうとした時、キャサリンの部屋の扉が開いてガールがひょっこりと顔を出した。

「あらボーイお帰りなさい。遅くまでおつかれさまー。ところで何かあったの?」
「ああ、ただいまガール…じゃなくて!なんでガールがキャサリンでキャサリンがガール!?」
「落ち着いてボーイ。ドイツ軍人とツッコミはうろたえちゃダメよ!」
「無茶苦茶だよ!?」

すっかり混乱してしまった僕がある程度落ち着いてから、怒りの収まったキャサリンから説明されたことによると、僕達は相当寝付きがよいらしく…一度眠ったら次に起きるまで絶対に目を覚まさないらしい。そのため、ここのところ寝不足気味だったキャサリンはガールに部屋を代わってくれるように頼んだらしい。

「おかげで助かったけど…僕達の眠りが深いのは特別な体質のおかげだから、部屋を代わっても眠れないと思うよ」
「あらでも、私も自分の部屋じゃないと思うとなかなか眠れなかったわ。壁の模様が血の染みに見えたりして」
「ああ、それはそうよ〜?あれ血だもの。落ちないのよねぇ〜…グレゴリーにバレたら面倒だから内緒よ?」

一瞬恐ろしいことを言ったあと、キャサリンはため息をついて肩をすくめた。

「そうじゃなくて…貴方達の眠りが深いから代わって貰ったのよ〜?じゃないと夜中、可哀想じゃない?」
「夜中?」
「貴方達は眠ったあとだろうから知らないでしょうけど…隣がうるさいんだもの。今日は早ければもうそろそろ聞こえるかしらねぇ〜?」
「…隣?」

首を傾げた僕達の前でキャサリンが指差したのは、キャサリンと僕の部屋に挟まれた、真ん中に位置する鉄の扉だった。

その時、不意に廊下にまで響き渡る…痛ましい絶叫が上がった。

キャサリンが眉をひそめる。

「眠れないのよねぇ〜…悲鳴がうるさくて」



どんなホラーショーよりも恐ろしいことを、僕達は知らなかった。
僕らの…大切な友人の危機を。



―――――――――――
兄ちゃん、それ迷惑行為防止条例違反(と書いてストーカーと読む)や!
西部の男の生き様にはしびれて憧れても真似してはいけません。タイーホされるよ!

しかしようやく出てきましたね、全てのフラグが!!そしてようやくサブイベント突入です!

次回は二本立てです。

姉さん、それ事件です。
猫のデレ返し。
ボーイとガールとホラーショー。の三本の内容をもしかしたら三本になるかもしれない二本立てでお送りいたします。
次回もお楽しみに!


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