りたーんず

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嵐が過ぎ、風が弱くなっても決して油断してはいけない。そこは…大きな嵐の目に過ぎないかもしれないのだから…。




僕が倒れたあとも…歓迎会はまるで悪魔の儀式のようだった。

「それじゃあお土産の代わりに…一番ガール!一発芸やります!シェフ!そこのテキーラ取ってくれる?」
「…お前も…飲むのか?」

シェフがガールにテキーラの瓶を渡すとガールはニッコリと微笑んで瓶を煽り…一気にそれを吹きだした。
シェフの頭上の炎をかすめて引火したそれは、火柱となって天井を焦がす。

「…どう!?ガールファイヤーよ!!」
「すごいやガール!火吹き芸なんてサーカスでしか見たことないよ!!」
「わぁーッ!ねぇねぇガールおばちゃん!もういっかいやってよ!もういっかいーーー!!」
「天井が…!!」

意外にもほどがある一発芸を披露し胸を張るガールに、部屋の持ち主である審判小僧とジェームスは目を輝かせ尊敬の眼差しで彼女を見ていた。
…天井が炎上し始めた事に動揺しているのは、火元であるシェフだけだ。

「あらあら、火吹き芸なんてすごいわねぇ〜…それじゃあアタシも…とっておきの技を見せてあげるわぁ〜♪」

すると…キャサリンが笑顔で注射器を横なぎに振るった。針は天井を呆然と見上げていたシェフの背中にクリーンヒットし…象が倒れるような音がしてシェフが倒れる。

ぢゅうううう…と音がして、真っ赤な液体が注射器に吸い上げられる。
すぽん!と針を引き抜くとキャサリンは注射器を上に向けた。

「はい、水芸よ〜」

ぴゅーっと飛び出した液体によって室内に真っ赤な雨が降り、天井が消火される。火事にならずに済んで良かった!…と素直に言い切れないのが恐ろしい。

「ワーイワーイ!真っ赤な噴水だぁ〜!ニャハハハハッ!!」

もちろん、悪魔っ子は大喜びしていたが…僕としては新たなトラウマしか生まれていない。
審判小僧達も拍手はしているものの、顔色が悪い…。

「楽しいな〜♪ねぇねぇ、次は審判小僧の番だよ!アレやって!アレ!」
「そうかい?じゃあ…ガール、すまないけどシェフにそこのケーキ食べさせておいてあげて!」

倒れたシェフを引きずって僕の横の席に無理矢理座らせたところで、ジェームスからのリクエストを受けた審判は、シェフの介抱をガールに頼んだ。

「いいけど、ケーキで貧血が治るかしら…?」

ガールが首を傾げる。
いつにもまして白い色をしたシェフの蝋燭は文字通り、風前のともしび状態だったのだから当然だ。
しかし審判は大丈夫!と親指を立てて言った。

「こんなこともあろうかと…今日のケーキは生肉とラードのデコレーションケーキだから!!」
「そう、それなら大丈夫ね!!」

…何がどう大丈夫なのかは僕にはわからなかったが、ガールの疑問は解消したようだ。

「じゃあいくよジェームス!しっかり捕まってね〜…スーパーローリングジャッジメーーーント!!」

よくわからないかけ声とともに、ジェームスを抱き抱えた審判小僧を乗せた吊り椅子がものすごいスピードで回転する。

「わーーーい!もっと早く!もっと早く回してーーー!!」
「いいとも!そーれッ…いつもより多く回しておりまーす!」

…ジャッジには全く関係なさそうだが、たしかにアレは子供にはウケるだろう…しかしずっと見ていると気持ちが悪くなってきそうだったので、僕は静かに目をそらした。

そんな僕に…生肉を挟んだスポンジにラードが塗りたくられた超高カロリーの塊をシェフの口にねじこみながら、ガールが心配そうに声をかけてくる。

「ボーイも大丈夫?早くお酒抜けるといいわね…。…私、気がついたんだけど…ボーイがいないと誰もツッコミしないから…ボケが流されっぱなしなのよ!!」
「うんありがとうガール…心配してくれて…る…んだよね?それは…」

僕の事であって…ツッコミの心配じゃないよね?と言外に問うと、当たり前じゃない!とガールが笑った。
…彼女の眩しい笑顔を疑う僕は心の汚れた人間なんだろうか…。


僕が自分の存在意義について思いを巡らせていると、キャサリンが大丈夫よぉ〜とフォローしてくれた。

「ボーイちゃんは機械に強いんだから…どっかのガンマンみたいにツッコミだけの男なんかじゃないわよ〜?もっと自信持ちなさ〜い」
「ああ、ありがとう…キャサリン」
「うふふ…どういたしまして〜…あらぁ?そういえば…」

キャサリンが細い顎に指をあてて首を傾げる。

「アナタ達…この先どんなお仕事をするつもりなの〜?」
「…仕事?」
「そう、仕事よ〜…悪いけどアナタ達、見たところそんなにお金を持って来てるようには見えないし…これから先このホテルに長く居るつもりなら、グレゴリーに家賃払わなきゃ追い出されるわよ〜?」
「え!そうなの?キャサリン、グレゴリーさんにお金払ってるの!?」

ガールの驚きの声に、ないないと手をヒラヒラ振ってキャサリンが笑う。

「嫌ねぇ…払うわけないじゃないグレゴリーなんかに。まぁでもアタシはその分、出張看護婦としてちゃんと働いてるもの〜…そっちの倒れてる人もそうよ〜?雇われコックさんよその人…」
「ボク達は親分がまとめて家賃を払ってるよー?だいたいは皆『ホテルで仕事をするかわりに家賃免除』の方を選んじゃうけどねー…ボクには留守番と訓練があるから!」

訓練もしないでジェームスと遊んでいた審判が頷く。

「まぁボーイは器用だし、そういう機械の仕事を探してみたらどうかな?」
「ガールおばちゃんは何のお仕事するのー?」
「お仕事ねぇ…うーん…何屋になろうかしら?」
「…その前に仲直りが先じゃないかな?」

ジェームスの問いに真剣に悩んでいたガールにはそう言ったものの、この世界でのお金について僕も考えていた。

この世界にもお金というモノが存在するのか…物々交換だけじゃないんだ…。もし仮に、仕事をしてお金を稼ぐ事が出来たなら、仲直りのためにも何かと便利かもしれない。

しかし…仕事をすると言っても僕達が帰って来た事がバレるのは大変危険なのだ…いったいどうすればいいんだ!!

「「うーん…」」

二人して悩んでいると、不意に部屋の扉がノックされた。どうやらグレゴリーさんのようだ。

「おい!審判小僧ここを開けろ!なかにキャサリンはおらんか!?キャサリン仕事じゃ!!」
「うるさいわねぇ〜今開けるわよ!」

イライラした様子で一番近くにいたキャサリンが扉を開けると…そこにはグレゴリーさんが立っていた。

それだけなら問題はなかったのだが…問題は…グレゴリーさんの後から、ミイラ坊やが顔をのぞかせている事だった…。

青ざめる僕達を振り返り、キャサリンが笑った。

「ごめんなさいねぇ〜?なんだか…やっちゃったみたい?」


すっかり油断をしていた僕の脳裏にふと、竜巻の近づく音が聞こえた気がする。


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お待たせいたしました第24夜!
火吹きのコツは火が回ってくる前に勢いよく吹き切ることだそうです。危険ですので良い子は真似しないでね☆

まさかの伏兵ですグレゴリーさん。そりゃないですよグレゴリーさん。そしていよいよ始まりますミイラ親子編!〜回る遊具ってはしゃぐと気持ち悪くなりますよね…〜サブタイトル嘘ですがこれからまた攻略がスタートです。どうぞお付き合い下さい。

こんなにあっさり見つかっちゃって…二人はホラーショーを回避出来るのか…以下次回!


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