りたーんず

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一度やってしまったことは決してなかったことにはできない…。
僕に出来ることは…無事に嵐が過ぎ去るようにと、ただひたすら耐えて祈って待つしかないのだ…。


「それは終わったね!」
「あらぁ…残念ねぇ〜」
「…諦めろ…」

僕達が帰ってきた事が、ジェームスにバレた。
…それを告げた時の彼らの反応はだいたいそんな感じだった。

「あの子に知られちゃったんなら、すぐにホテル全体に広まるわよ〜?」
「信頼と実績と経験があるからねぇ〜…真実の天秤に聞かなくても分かるよ!」
「…時間の問題だ…」

苦い笑いとともに彼らが遠い目をして語る言葉は、とてもリアルだった…。
過去に何があったのだろうかと一瞬気になったが、自分の末路を知るようで…怖すぎて聞きたいとは思わなかった。

「…やっぱり…そうだよねぇ…?」

乾いた笑いが自分の唇からこぼれる。

…ものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになった僕は、ガールに向かって勢いよく頭を下げた。

「うぅ…ごめん!ガール…僕が余計なモノを作らなければ…」
「ん〜?仕方ないんじゃない?いつかはバレることだし…ボーイのせいじゃないわよ!」

こうなってしまった原因は全て僕にあるのに、ガールは一言も僕を責めず、あっけらかんと笑う。…その明るい態度に、僕は慰められた。


「…ごめん…ありがとうガール…」
「それに二日も連続でパーティーできるなんて、とってもラッキーだわ!楽しみね〜!!」

ガールの笑顔は…『明るい』を通り越して、なぜかとってもイキイキと輝いていた。

「ねぇシェフ、ケーキって今から間に合うかしら!?」
「………ああ、任せろ…」
「あらあら、ガールったら大物ねぇ〜?」

本当に状況を理解した上でなのだろうか…ポジティブすぎる会話の横で…僕は審判小僧に肩を叩かれた。
…気休めだろうけど…ジャッジするかい?と問われた僕は、無言で首を横に振った…。

彼女が純粋に楽しんでいることなど…僕にだって分かってる…。




胃痛を起こしそうな程憂鬱だったが、もはや誰のためなのか分からない『二度目の歓迎パーティー』の準備をしていたら、あっという間に夕方になってしまった。

「わー!すっごーい!パーティーだぁー!!」

料理が並んだテーブルの周りをジェームスが走り回る。

「ジェームス〜あんまり走り回ったら転ぶわよ〜」
「はーい!!」

キャサリンの言葉に元気な返事だけを返して、ジェームスは広い部屋の中を駆け回っていた。

パーティーにジェームスしか現れないところを見ると、他の住人にはまだ『僕達が帰ってきたこと』を言ってないみたいだ。

なんとか今日一日は平穏に過ぎそうだと胸を撫で下ろし、僕は部屋の主に礼を言った。

「…ごめんよ審判…君の部屋を貸してもらった上に、ジェームスの迎えまで頼んじゃって…」
「いいよいいよ!ボクの部屋ならジャッジの練習用に、防音もバッチリだしね!多少騒いでも外には聞こえないんだよ!」

隣の席に腰を下ろした審判が、オレンジジュースのストローから口を離して胸を張る。

「へぇ…この部屋、特別製なんだ?」

グレゴリーさんが審判小僧のために特別製の部屋を用意するとは、ものすごく意外だ。

「うん、訓練のためにも頑丈な方がいいからって親分が頼んだんだ!床もハートやダラーに負けないくらい厚いし…ちょっとくらいの爆発までなら耐えられるんだよ!!」

笑顔で胸をはる審判に、僕は頷いた。

「うん、すごいね…でもたぶん…部屋の中にいる僕らは爆発に耐えられないからね?」
「………あれッ?…ホントだ!ひどいッ!こんな重大な欠陥を隠しとくなんて…グレゴリーめ!!」

憤慨している審判小僧に、気づかない方が重大な欠陥だと思うなとは言えず…そういう事態が起きない事を祈りながら僕は乾杯した。

…ジュースで。


ワインボトルを持ったシェフが首を傾げる。

「…酒…飲まないのか…?…バーから持ってきた…年代物だ…」

美味いぞ…と差し出されたグラスを、僕は丁重に断った。

「ありがとうシェフ…でもね…さすがに昨日、自分が何を口にしたかくらいは覚えてるからね?」
「…そうか…」

小さく舌打ちが聞こえた気がした。仲直りしたというのに…まったく油断ならない…!!

悪戯にしてもひどい…と、ため息をつこうとした時、現役の悪戯っ子がガールに問いかけるのが聞こえた。

「ねぇねぇ!ガールからのお土産は!?」
「お土産?」

うん!とジェームスが元気よく頷く。

「ボーイおじちゃんはすっごい高級チョコレートをいっぱいくれたんだよ!!ニヒヒッ!!」
「あらぁ〜…食べ物のお土産なんて…ボーイちゃんも大物ねぇ〜?」
「…え?」

キャサリンの言葉に、僕は首を傾げた。

「…食べ物のお土産って、何か問題でもー…」

そう聞き返した時、真っ赤な怒りのオーラが背後に見えた気がした。
僕の足元に大きな影が伸びる。…なんだか…とても嫌な予感がした。

…ゆっくりと後ろを振り返るとそこには…怒りを含んだ笑顔でシェフがワインを掴んでいた。

僕は直感で理解した。
いつのまにか…きっちりと地雷を踏んでいたようだ…と。

「シシシ…シェフ!あの時はとっさにああするしかなくって…!悪気はなかったんだッだから落ち着いてむがッ!!」
「…気にするな…土産なら仕方ないからな…土産なら…」

気にするなという言葉とは裏腹に、シェフのアイアンクローによって僕は弁解していた口を閉じられないよう、顎を固定されてしまった。
近づいてくるワインボトル…なによりシェフの怒りに満ちた笑顔が怖い!

「だから…ウェルカムドリンクを…飲め。」
「止めてくれそれはシャレにならなぁあああ!!」

無情にもボトルが傾けられ、僕は年代物のワインでうがいをする羽目になった。

勢いよく注がれるワイン。
パニックになった僕は溺れるように飲んでしまった。…ガバゴボと嫌な水音と共に、意識が遠くなっていく。

空になったボトルとともにパッと手を放された僕は、テーブルの上のサラダに顔を突っ込むことになった。

大丈夫〜?と審判小僧が僕を起き上がらせる。

「シェフは自分の作った物以外の料理を皆が食べるのも嫌いなんだよー」

呑気に語る審判に、そういう事は先に言って欲しい…というだけの元気は僕に残っていなかった。

キノコとワインのせいでぐらつく頭で…僕は理解した。

やってしまったことと…口にダイレクトに注がれたワインは…元には戻らない。



−−−−−−−−−−−
はい!久しぶりの本編いかがでしたでしょうか?
まだまだジェームスがおとなしいですね…。…代わりにシェフがやってくれましたが。

ちなみにジェームスは、分かっててわざと言っています。

さて次回かその次くらいから、また本格的に攻略が始まります。

それでは次回もお楽しみに…。


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