りたーんず

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なんだかんだあっても、地獄のシェフと無事に仲直り出来たことに安堵していた僕は…その日、現実で眠りにつく前…希望に満ちていた。

あちらの世界で…長い長い一日が始まろうとしているとも…知らないまま…。




グレゴリーハウスの自室で目を覚ました僕の瞳に、別の瞳が映る。

「ようやく起きたね〜ニヒヒッ!ネボウしすぎじゃないの〜?」

寝ている僕の顔を覗き込むように顔を近づけてジェームスが笑っていた。

ジェームスの前髪が僕の目の前に垂れている。…いちいち顔が近すぎるのは遺伝だろうか…?

どうでもいいことを考えながらその色彩をボンヤリと眺めていた僕は…次第にハッキリしてきた頭が状況を理解した途端、叫び声を上げた。

「うわぁーーーっ!ジェームスッ!?君がなんでここに!?」

昨日は皆が帰った後、確かに部屋の鍵を閉めたはずだ…なのになんで僕の部屋の中にジェームスが居るんだ!?

「ニヒヒッ!びっくりしたでしょ!?おじいちゃんからマスターキー借りちゃったんだぁ!」

愉快そうに鍵の束をジャラジャラと鳴らしているジェームスに、僕はベッドの上で未だ静まらない心臓を押さえていた。

寝起きドッキリとはこんなにも心臓に悪い事なんだと、僕は初めて知った…出来れば一生知りたくなかったが。

…しかし…マスターキーはグレゴリーさんしか持っていないはずだ…どうやってジェームスが手にいれたのだろうか?

その時、廊下からズル…ズル…と何かが這っているような音が聞こえた。

「…ジェームス…おおいジェームス…どこに行きおったのだ!子供が火薬を使うなとあれほど…ジェームス!ジェームス!!」

グレゴリーさんの声と、焦げ臭い臭いが僕の部屋の前を通りすぎていく。
…聞かなかったことにしよう…。

それよりも、もっと問題なのは…

「どうして僕が帰ってきた事を知ってるんだい?ジェームス」
「だってテレビフィッシュに写ってたもん!大人ってずるいよねぇーボクを仲間ハズレにしてパーティーするなんてさ!!」

…うかつだった…。

審判小僧に情報収集のためにと持たせた小型カメラは、電波を飛ばして僕の部屋のモニターに映すようになっていた。

映像がテレビフィッシュにも写ってたという事は、恐らく混線したという事だろう…ああ…あの時、審判小僧が電源をオフにさえしてくれていたら!!

有り得ないファインプレーだと分かっていても、そう思わざるを得ない。
よりによってそれをジェームスに見られるなんて…!!

朝一番に希望を失いそうになっている僕の横で、楽しそうに笑ってジェームスが言う。

「ボクね…ぜったい君達は帰ってくるんじゃないかと思ってたんだぁ…ニヒヒッ!」

僕は帰ってくるなんてちっとも思わなかったよ…という言葉を飲み込んで曖昧に頷いた。

「ねぇねぇ!お土産は?お土産!シェフのオジちゃんにあげたんだからボクにもあるんでしょ!?ニヒヒッ」

キラキラした目で差し出されるジェームスの手。
この感じ…相変わらずだ…。

「…いやゴメン…あれはお土産じゃなくて…」
「もしかして無いの?ずるいよそんなのヒイキだヒイキだー!おばーちゃんに言い付けてやるー!」
「どうぞお土産の高級チョコレートです」

僕は徹夜で作ったモニターを引っつかんでシーツに突っ込むと高級チョコレートに変えた。

「わー!高そうなチョコレートがいっぱい入ってるー!!」
「あっはっは好きなだけお持ち下さいお坊ちゃん!!だからおばーちゃんと皆には内緒だよ…?」
「うん!いいよー!」

笑顔で頷き、チョコレートを口に入れるジェームスを見ながら僕は胸を撫で下ろした。

…危うく一番危険な人にバレるところだった…!!
とにかく…このことは皆と相談しなくては…。

僕が悩んでいるとチョコレートの箱を持って出ていこうとしたジェームスが振り返った。

「じゃあまた夜のパーティーでね!!」
「パーティー?」

首を傾げて聞くと、ジェームスが当然のことのように言う。

「歓迎パーティーだよ!だってボクまだパーティーしてないもん!」
「ああ…純粋にパーティーがしたいんだね…?」
「うん!じゃあまた後でねー!」

バイバーイと明るく部屋を出ていくジェームスに手を振って、ボクはグッタリとうなだれた。

…疲れた…。
…ものすごく…疲れた。

その時、ノックも無しにドアが開いてガールが部屋に入ってきた。

「大変よボーイ!私の本棚から最終巻だけが全部無くなってるの!」

その顔には、油性ペンで三本ヒゲと額に三つ目の目がかかれていた。

思わず僕が指を指したら、ガールが人の顔を見るなりお腹を抱えて笑い出した。

「あははははは!どうしたのボーイ…その顔!?筋肉バカボン!?」

そっくりそのまま返したかったガールの言葉に…とても嫌な予感がした。

…その後…ガールに借りて生まれてはじめてクレンジングというものをやった。
…それでも全部落とすのに1時間かかった。


子供は本当に楽しい事が好きだ…。
楽しい事なら…なんでも…。



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ジェームスは最強と信じて疑わない!ナンダコレです!!

小さな頃は平気で出来たたちの悪いイタズラも大人になると道徳心とかの芽生えで出来なくなりますねぇ…。

さてジェームスの寝起きドッキリから長い一日が始まります…嫌な予感しかしない。
次回は対策とパーティーですね!お楽しみに


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