りたーんず

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その夜…シェフやキャサリン、審判小僧によって…僕達を歓迎するためのささやかなパーティが開かれた。

…嵐が近づいていることを…誰も知らぬまま…。





バーの悲劇から一時間程後…僕の部屋ではシェフ特製の温かな料理が振る舞われていた。

「わーい!久しぶりのご飯よー!!」

満面の笑顔で喜ぶガールに、キャサリンと審判小僧が満足そうに頷く。

「うんうん、本当ハーブとバナナとジュースだけでよく一週間暮らせたよねー」
「アナタ達、帰ってきてから全然まともな食事とってないでしょ〜?だから歓迎会も兼ねて、特別に作ってもらったのよぉ〜」

キャサリンの言葉にシェフが頷く。
審判につけた小型カメラで見てはいたが…彼が鍋を抱えて戻ってきた時は本当にビックリした。

「…お前達のおかげでいい料理ができた…礼だ…」

「…シェフ…」

僕達のために料理を作ってくれた彼は…もう僕達を怒ってはいないようだった。

一度はタマシイを巡って対立した僕達なのに…彼らの心遣いはとても優しく…ありがたかった。

…だけど…

「このスープ真っ黒なんだけど…何が入っ」
「ん〜ッ!でーりしゃーす!!スッゴくおいしーいわぁーッ!!」

僕が疑問を口にするより先にガールがスプーンを何度も口に運んでいた。

「「「スープが…どうかした?」」」
「…いや…イタダキマス」

皆の笑顔からくる…無言の圧力に押し負けて、僕もスープを(おそるおそる)口にした。
…イカスミ的なモノでありますように…と祈りながら。

…意外にも味はまともだった。どこかで感じた味がする。なんだっけ…コレ…。

「…それから…コレを返す…」

僕がスープを飲んだ事を確認した後で、シェフがもう一つの荷物を取り出した。
…ガールの出した料理漫画の束だった。

「あれ!?プレゼント気に入らなかった!?」
「…いや…なかなか面白かったぞ。…面白い…モノが見れた…」

プレゼントを返されてガッカリしかけたガールにシェフが首を横に振る。
薄く笑うシェフに…『面白いモノ』とは何なのかは詳しく聞かない方がいいだろう…。
聞かなくても十中八九…クロックマスターに関係していそうだが…。


「…面白いが、こんなにたくさんは受け取れん…だから返す…また今度読ませてくれ」
「…そっかぁ…でも私の本棚もいっぱいだから…図書館にでも置いておこうかしら?」
「ボクにも後で続き貸してねーガール!てゆーかシーザーがあんな事になるなんて聞いてないよ!?」

「うーん…たしか小学生の頃…体育の時とかに感じた味のような…」

絶好のツッコミ所をスルーして、僕はずっとスープを啜っていた。

「でも気に入って貰えたんならよかったじゃない〜?…てっきりボーイちゃんのお鍋の二の舞かと思ったわぁ〜」
「大丈夫よキャサリンたら〜!中華鍋はあっても、さすがにコレはこの世界にはないモノよ!!」

だけどガールの爆弾発言は、さすがにスルー出来なかった。

「ガールちょっと待って…何それ!?」

気のせいじゃなければ…今…この世界には中華鍋あったって言ってなかっただろうか…?

「あらぁ〜?気にしても仕方ない事よ〜ボーイちゃん…過去は消せないんだから〜」とキャサリンが優しく微笑み…
「しょうがないよ…ボーイはキッチンに入ったことあんまりなかったもんね!?」とガールが励ますように僕の肩を叩く…。
「あんな…どや顔をした人に真実を告げるのはやめた方がいいって…真実の天秤が言うからさー…『どや顔』って何なのかはよく分からないんだけどねー?」

あの審判小僧にまで気を使われていた事にようやく気づかされた僕は…穴があったら入りたいくらいの心境だった…。
恥ずかしいを通り越して憂鬱になってきた…。

思わず膝を抱えた僕の背を、シェフが軽く叩く。

「…気にするな…オレは嬉しかったぞ…」
「頼むからシェフまで気を使わないでよ…」

さらに情けなくなってきて、うなだれる僕にシェフは真剣な表情で語る。

「…嘘じゃない…最初は妙な火消しかと思ったが…懐かしい…オレの故郷の鍋そっくりだった…以前、試しに幾つも作ってみたが…自分では上手く作れなかった…」
「あぁ!それで前に中華鍋がいっぱいキッチンに吊してあったのね!!」

ガールが納得、というように手を叩く。僕は顔を上げてシェフの話を聞いていた。

「…結局…一つも上手く出来なかった…だけど…アレで作った料理は美味かった…」
「…あぁ…それで前に鉄の固まりがいっぱい食卓に並んだわけだね?」

審判が納得、というように手を叩く。僕は胃を押さえながらシェフの話を聞いていた。

「…その点…お前の作ったモノは故郷のモノによく似ていた…あともう少し大きければ本物だった…」
「…シェフ…」

遠い過去を思い出すように目を細めるシェフ。

「…あとは…そこに油を塗った鉄の丸太を渡して、罪人を歩かせ…」
「…シェフ。…それはたとえ記憶通りに作っても…完成するものは料理用具じゃないよ…?」
「な…鍋に油は敷くのにか!?」

本気で驚いているシェフに僕は耐え切れず叫んだ。

「むしろ…当時の宰相も躊躇うレベルの拷問の歴史だよッ!!」

…途中まで相手がメイド・イン・ヘルの地獄の料理人である事を忘れていました…。



…長年作ろうとしたモノが料理と関係のないモノだったと判明し、両手と膝を地についてガッカリしているシェフを放っておく事にして、僕は半ばやけ食いの勢いでスープを頬張った。

「…まったく…皆ツッコミ所がギリギリすぎるんだよ!!」

文句を言う僕を見て、ガールが笑う。

「ふふっ…でもよかった…ボーイが元気になって!シェフとも仲直り出来たし…やっぱりお祝いは皆で笑ってしなきゃ!」

本当に嬉しそうに笑うガールに、僕はため息をついて苦笑した。

「…そうだね。」

この調子で、住人達皆と仲直り出来ればいい。
そしたらいつか本当に、皆で…お祝いをしよう。


ガリッ…!!

口の中に感じた異物によって僕の思考は遮られた。

手の中に吐き出すと、それはどこかで見た事のある…取っ手の破片だった…。


「…シェフ…このスープの材料ってもしかして…」
「ああ…鉄分たっぷりだろう?」

まさかと思ったが…しれっと答えるシェフ。

この時初めて、シェフと仲直りしたという事は…これから先ずっと…シェフの作る料理を食べていかなくてはならないという事だという事実に気がついた僕は、再び地に両手をついた。

…すごく…早まった事をしてしまった!!…かもしれない…。





一方、その頃グレゴリーハウスの庭に一つの人影があった。

「…キャサリンおばちゃんも…シェフのオジちゃんも審判小僧も…皆、酷いよね〜?ぼくをパーティーの仲間ハズレにするなんてさ〜?」

小さな人影は今しがた捕まえたテレビフィッシュを抱き抱えるように映像を覗き込んだ。

暗闇の中…テレビフィッシュに写るボーイの部屋の映像を眺め…ジェームスは笑った。

「…混線のエイキョーで面白いモノ見ちゃったなぁ…あぁ〜ぼくも久しぶりあの二人と…また遊びたいなぁ…ニヒヒッ!!」


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終る終る詐欺の次は書く書く詐欺か!と怒られそう!!一応今日のうちに更新出来てよかったよかったナンダコレです。

地獄コンビの故郷は地獄だと主張します。違います断じて中の国ではありません。断じて!!

中華鍋出した後、ゲームでキッチンに中華鍋があるのを確認してしばらくボーイ状態でorzしました。(これが本編内最大の矛盾です)そんなわけで…ボーイが代わりに可哀相な目にあいました。完全に管理人のせいです。サーセン!
〜この中華鍋はシェフに闇に葬られました〜

中華鍋スープになったのはナンダコレがこの話をウミガメスープを聞きながら書いているからです。この曲、好きなんだがリピートで聞きながら話書いてるとすげーSAN値削れてくね…(※このサイトに書かれるあらゆる謎単語…ググってトラウマになってもナンダコレは責任を負いませんから悪しからず)

さて最強の悪童登場。
どうなる…(まだ決まってない)次回!!


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