りたーんず
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結論から言うと、三日後の夕食はハンバーグとキノコのスープだった。
久しぶりのマトモなメニューに、皆おいしそうに食べている。
…しかし決して見かけ通りのマトモな料理ではない事を知っているボクは、ドキドキしながら口に運んだ。
…さて…これでどうなる?
「毒キノコを三日で調達するですって〜?…そんな事できるのかしら〜?」
「だから困ってるんだよ〜!ああ…一体どうしよう…なんで僕は三日なんて言っちゃったんだ…!!」
キャサリンの言葉にボーイが頭を抱えた。
…話によるとどうやら、ボク達が来るより前にシェフがやって来て、一方的に食材の調達を頼んでいったらしい。
「そもそも…記憶の中に存在するモノ…ってことは、食べた事のあるものしか出せないって事でしょ?それって毒キノコを食べなきゃいけないんじゃない?」
…つまりものすごく危険(≒ほぼ自殺行為)って事だよね?とボクが尋ねると意外にもボーイは首を横に振った。
「…いや…ただ食べるんなら大丈夫なんだ『アレ』は…問題は…そんなものが簡単に手に入るわけないって事だけさ…!!」
「あらそんなの大丈夫よ!調達は私に任せて!!」
またも頭を抱えるボーイをよそに、ガールが胸を張った。
「こうみえて私、色々ツテがあるから…三日以内ならなんとかなるわ!!」
それじゃあ私ちょっと行ってくるわね!!とガールは、何故か歪んで閉じられなくなっている植物図鑑を掴むと、さっさと自分の部屋に戻っていった。
調達の件もどうにかなりそうだし、ボク達も自室に帰ることにした。
その時、キャサリンが珍しく感心した様子でガールを褒める。
「あの子、頼もしいわねぇ〜…それに比べて…お使いも出来ないなんて、男の子ってずいぶん情けないのねぇ〜?」
キャサリンがぽつりと呟いたセリフに、背後でズシャッ!!と音がした。
振り返るとボーイがまた膝と両手を地につけている。…肘までついているあたり、昨日より深い傷のようだ…。
声をかけるべきか、ボクは少し迷ったが…ボクの頭の中の天秤のダラーが落ちてハートが残った。
静かに扉を閉める。
「…見なかった事にしよう…」
何となく、その方がボーイのためにもいい気がした。
…それから三日目の朝。
…ボーイの姿を一回も見ていない。
「おーいボーイー…生きてるかーい?ガールがキノコ持って来たよ〜…ボーイ…そろそろ出ておいでよ〜」
ノックをしながら問いかける…けど返事は無し。
…本当に生きてるか不安になってきた。
「…可哀相に…キャサリンがヒドいこと言うから…また一つ若い命が」
「あらぁ〜?あんな事で死ぬわけないじゃな〜い…むしろ、アンタの想像してる内容の方がよっぽどヒドいと思うわよ〜?」
平然と言うキャサリンにボクは人差し指を突き付ける。
「何言ってるんだいキャサリン…いや、密室ボーイ殺人事件の真犯人…!」
「審判…アナタ…完璧楽しんでるわね?」
「…勝手に殺さないでくれるかい…」
一人分多いツッコミに振り返ると、ボーイが三日ぶりに部屋から顔を出した。うん、やっぱり死んでなかった…けど…。
「やぁボーイ三日ぶり!君…死相出てない?」
「あらぁ〜?ものすごいクマねぇ〜…寝不足なんて可哀相に…採血してあげましょうかぁ〜?」
すかさず注射器を取り出すキャサリンにボーイが明後日の方を向いたまま頷く。
「ありがとうキャサリンは優しいなぁ」
「ヤバいこれ重症だ!?」
死んだ魚みたいな目をしたボーイに促されるまま、不安を残しつつとりあえず部屋の中に入ると…部屋の中はさらにすごかった。
机や床だけではなく、ベッドの上にまで…様々な種類の工具や何かの設計図らしい紙、そして見たこともない機械の部品が散らばっている。
「ちょっと見ない間にボーイの部屋が秘密基地みたいになってる!すごいなぁ…部屋から一歩も出なかったのに、どうやって出したんだい!?」
ボクが尋ねるとボーイはぼんやりしたまま、呪文のように長いセリフを吐き出した。
「この世界を構成するモノの中で交換するなら土だけでなく空気中での置き換えは理論上可能…一度作成した物から新たに作り変える事もまた同様に…」
「「ゴメン、一言で」」
「………いらない料理本にシーツ被せて取ったら作り変える事ができた」
黒子達に取ってきて貰った栄養ドリンクを飲んで、ようやくいつものボーイの顔に戻った。
かなり分かりやすくなった説明に納得して頷くボク達。だけどすぐにガールが首を傾げた。
「でも…複雑な機械って出せないんじゃないっけ?」
「…出せないよ。ただ…部品と工具は出せたからね。…向こうで分解して覚えた部品を、こっちで作って組み立て直したんだ」
「…組み立てたって…これ全部!?」
ボーイが頷く。
「…お使いは出来なくても…僕なりに三日あればできる事をしてみた」
やり遂げた職人の顔をしているボーイに、ガールがすごいすごいとはしゃいでいる。
…やっぱりかなり気にしてたんだ…意外とプライド高いんだなぁ…ボーイ。
「…男って単純ねぇ…」
「わぁ、もしかしてキャサリン…こうなる事予想してた?」
「あらぁ?だって…ボーイちゃんにも何かしてもらわないと…ガールばっかり不公平でしょ〜?」
「成る程…これが女の子の連帯感ってものかい?」
ボクが全く別の事に感心していると、ボーイに肩を叩かれる。
「審判、突然悪いんだけど…しばらくこれをつけていてくれないかい?」
「何これ?ピンバッジ?」
手渡されたのはドクロの形の黒いピンバッジだった。…裏に何か小さな黒くて四角い物がついている。
「そう、小型カメラと集音マイク入りのね!」
ボーイがいつになく爽やかな笑顔を見せる。
「…ボーイって器用すぎない…?まぁいいや…それでこれどうするの?」
「いや…簡単な話だよ。動作確認をかねて、君にある場所での張り込みをして貰いたいんだ…」
ボーイの口から出た張り込みという単語に、俄然やる気が出てきた。
「張り込みかい!それはあんパンと牛乳がついて来るアレだね!?うん、分かった!どこでやればいいの!?」
「…君には今日の夕飯が済んだら、バーで張り込みをしていて貰いたい。そして『ある人物』がやってきたらシェフにこの箱を渡して欲しい…引き受けてくれるかい?」
ボーイの渡してきた箱はビニール袋で何重にも覆われた見るからに怪しい物だった。しかしボクは全く気にせず、胸にバッジをつけてボーイから荷物を受け取った。
「分かりました!デカ長!!はじめてーのー張り込み〜♪」
キノコと謎の箱を持ってキッチンに行く時、背後で男ってほんと単純…という声が聞こえた気がした。