りたーんず

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昨日の一件で『真面目にやっても報われるとは限らない』という事を学んだボクは、今日のジャッジの練習はお休みすることにして…シェフの反応を見に来ました。

さて…うまくいくかな?






…悪夢再び…。

そんなフレーズが頭の中をよぎる。

朝食の支度をするべくキッチンに来たはいいが…まさかまた、謎の包みが置いてあるとは思わなかった…。

デン!と調理台の上に置かれた包みにはメッセージが添えてある。

『シェフへ ごめんなさい。プレゼントです。受け取ってください』

この時点でシェフは頭を抱えた。

「…誰からだ…!?」

思い当たる節がありすぎる。

昨日、水鉄砲で自分を脅した審判小僧…はたぶん違う。反省とは無縁な気がする。悪い事をした実感すらないだろう…。

料理を残したクロックマスター…は、謝るくらいなら、時を巻き戻して無かった事にする方を選ぶだろう…。

…とすると………。

一番嫌な相手を想像をしたシェフは、ピンク色と注射器が記憶の中から甦る前に包みを開いた。

…とりあえず中身を確認しておかないと…もしキャサリンからだった場合…また吸われる…!!

とある事件がきっかけで、シェフの中で注射器は今や…風と水の次に恐いモノとして認識されている。

バリバリと乱暴に包み紙を剥がす。すると意外な事に、中からは十数冊の本が出てきた。…表紙を見ると料理人が出てくる本のようだが、ホテルの図書館では見たことがない本だ。

そこでようやくシェフはもう一つの心当たりを思い出した。

「…あいつらか…」

最近このホテルに戻ってきたらしい二人組の宿泊者。少女の方は以前、鍋にイタズラを仕掛け、タマシイを盗っていった…これはその詫びの品なのだろう。

捨てようかと思ったが…昨日の騒動を思い出し、受け取っておくことにした。

これを捨てたら第二第三の得体のしれないプレゼントが、またやってくるだけだ…と気がついたからである。

「…火を消す鍋じゃないなら…いい…」

それなら本の方がまだマシだ…。

料理人も出てくるようだし…退屈しのぎにはなるだろう。最悪、料理の材料にすればいい。

しかし変わった奴らだ。何故、謝るのだろうか…後で謝るくらいなら、最初からやらなければいいのに。

…自分だったら謝る事などしない。自分が決めてやった事ならば…自分が好きでやった事ならば、後悔する必要も、謝る理由もない。

…欲望のままに生きているのなら…。


シェフはそんな事を思いながら本の束を横目で見た。

その時、ふと積み上げられたタイトルに違和感を感じる。

「…なんだ…?」

一冊だけ、料理に関係のなさそうな本が入っている。

…紛れ込んでしまったのか…何か意味でもあるのか?

気になったシェフは、本を手に取ってパラパラとページをめくり、やはり料理のシーンが出てこない事を確認する。

終わりくらいまで眺め、もう本を閉じようかと思った時、シェフの手はあるページで止まった。

顔をあげ、本の束から植物図鑑を引っ張りだす。

こちらはグレゴリーハウスにもあるのと同じような内容だった…迷わず毒キノコのページを開き、自分の記憶を確かめる。

そしてシェフは静かに笑った。…見るものが凍りつきそうな笑顔で。



シェフは食堂のドアを開き、まだ誰もいない食卓テーブルに向かって言った。

「…審判…出てこい…」
「あれ〜…なんでボクが居るって分かったの〜?」

テーブルの下から審判小僧が顔を出す。シェフは無言で自分の横に垂れ下がってる吊り椅子を一瞥したが、特に何も言わない事にした。

「…本当に何でも出せるのか…あいつらは…?」
「あぁ、ボーイ達?うん、そーみたいだねぇ〜」

テーブルの下から出した顔だけで頷く審判。

「………食材もか?」
「…あー…前に食べた事があるモノだったら出せるんじゃないかな?」
「…そうか…」

審判の言葉を聞くと、シェフは頷き、朝食の支度のためにキッチンに戻っていった。


その夜…シェフはある人物の部屋を訪ねた。

ノックした部屋の主が扉を開け、蒼い顔でこちらを眺めて固まっているのを無視し、勝手に本題に入る。

「…これを出せるか…?」

「…え…ちょ、審判じゃなくてなんでシェフが…っていうか…これって一応毒キノコだよね!?」

鼻先に植物図鑑を突き付けられ、ボーイの顔を冷や汗が伝う。どうやらノックしたのを審判小僧と思い込み、シェフだと知らずに開けたようだ。


ハッキリしない答えにシェフは苛立った…。
思わず握りしめた手の中で植物図鑑がグシャッと音を立てて、歪んで潰れそうになる。

「…出せるのか…出せないのかぁああ…?」

「出ます!出します!!ただ食べた事が一度もないので五日…いや三日ください!お願いします!!」

ボーイが何度も頭を下げる。その様子に、グレゴリーママを相手にした時のグレゴリーみたいだな…と思い、少し愉快だった。

「ならいい…出せるのなら…タマシイの事も、鍋にイタズラしたのも許してやる…ただし」

シェフの抱えた包丁がギラリと光る。

「…もし出せないのなら、三日後の夕食はハンバーグにするだけだ…」





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長くなったんで分割しました。クライマックスはラストじゃないのかナンダコレです。次回でシェフ編もラストです。

シェフ編はシェフ関係なくなんだかボーイが不憫ですね…

次回で一応審判小僧視点が終了します。

さて、シェフが欲しいあるモノとは…?

お楽しみに。


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