りたーんず

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仲直りのお手伝いをするはずが…頑張れば頑張るほど努力は空しく空回り…。

さぁ…君ならどうする?





その夜…結果報告のためにボーイの部屋に行き、ドアを開けた瞬間に土下座したボクを冷めた目で見下ろしながらキャサリンが言った。

「………やっぱりねぇ〜…審判小僧に頼んだ辺りから嫌な予感はしてたけど…まさか、仲直りどころか火に油を注いで来るとは思わなかったわ…よくノコノコ帰って来れたわねぇ…」

爬虫類って事を差し引いても冷たいキャサリンの眼差しにボクは内心で冷や汗を流す。
…土下座と採血、秤に掛けりゃー、心が揺れるまでもない!…だけどボクは顔を上げてキッパリと否定しておく。

「…それは違うよキャサリン…火に油を注いだんじゃなくて、完全に鎮火したんだ!!」
「…そういう意味じゃない上に、余計タチが悪いわよ」

ちゃんと真実を言ったのにもかかわらず、何故かキャサリンに呆れられてしまった…。
ボーイが苦笑というより何かを悟ったかのような表情で首を横に振る。

「もういいよキャサリン…不可抗力だったみたいだし…仕方ないよ…」
「それで…シェフはまた怒っちゃったの?」

ガールがやや青ざめた顔で恐る恐る問い掛けてきたが、ボクは笑顔で首を振った。

「それがね!不思議な事に、シェフったら中華鍋のこと全然怒んなかったんだよ!!」

首を傾げる皆に、ボクはグレゴリーを呼んでシェフの火を点けなおしてもらった後の事を説明し始めた。




「全く…また面倒を起こしおって…この厄介者め!」
「ハイハイ…しょうがないじゃないか…あのまま止めなかったら晩御飯がクロックマスターのスープになるところだったんだからさー!」

ボクの言い訳に、そうだよ!とマイサンが強く頷いた。

「審判小僧は父ちゃんを助けてくれたんだよ!だからわざとやったんじゃないんだ!!」
「わかったわかった…別に責めとるワケじゃないぞマイサン………ただ、あまりにも奴が厄介事を連れて来るものだからな…」

グレゴリーがマイサンをなだめる。このホテルの住人は見かけと違い、意外にも子供好きが多い。…グレゴリーもそんな一人だ。マイサンが一緒に頼んでくれなかったら、こんなにすぐ来てくれなかっただろう…。

ちなみになぜマイサンも食堂に残っているかというと、シェフの点灯式に参加すると命に関わるため先に帰った父親の代わりに、シェフに謝りたいんだとか。
…なんでクロックマスターの息子がこんなにいい子なんだろう…残念ながら、この謎も以前、迷宮入りしてしまった。

グレゴリーの持つ蝋燭から、シェフの蝋燭に火が移る。…一応、安全性の問題から巨大包丁は取り上げて黒子達に預けておいたから大丈夫だと思う。…多分。

蝋燭の炎とともに、シェフの瞳にも光が蘇る。…怒りが静まっていればいいなぁー…なんて思いながらボクはシェフに声をかけた。

「やぁ、大丈夫かいシェフ?覚えてないかもしれないけど…君、クロックマスターを…」
「…クロックマスター…残した残した残した残した残した残した残した残した残したオレの料理残した残した残した許さない許さない許さない………捌く……?…むぅ…包丁がない…」

…どうやら蝋燭と一緒に怒りの炎も再燃してしまっていたようだ。聞いた途端に呪われそうな単語を繰り返しながらしきりに包丁を探すシェフ。…うん、予想通り。ナイスジャッジ自分。
包丁取り上げといてよかったなぁー…。

ボクが何も言えずにいると、隣にいたマイサンが勢いよく頭を下げた。

「シェフごめんよ!父ちゃんもシェフの料理を残すつもりはなかったんだ!!…けど最近父ちゃん飲み過ぎで、毎日二日酔いみたいになってるから…朝ごはんを食べるのも辛いみたいで…」

マイサンがシェフの目をじっと見つめる。その目は今にも泣きそうだった。シェフも黙って、その目をじっと見つめていた。長い沈黙の中、気がつくと全員の視線がシェフの顔に注がれている。

「………晩飯は二倍喰わせる………そう伝えておけ…」
「…!!ありがとうシェフ!!」
「さっすが…いい奴だねシェフ!」
「…審判、うるさい…」

父ちゃんに伝えておくよー!と駆け出していったマイサンの後ろ姿にシェフが小さくため息をついた。

なんだかんだ言って、やっぱりシェフはいい奴なんだ。

「…夕飯は一人一鍋だから…クロックマスターは二鍋だな…」

よくわからないけど楽しそうにそう笑うシェフ。
これは…チャンス…!?
もしボクの手伝いでシェフとボーイ達の仲直りが出来れば、キャサリンやグレゴリーもボクの事を見直すかもしれない!

俄然やる気が出てきたボクは、改めて「中華鍋プレゼント大作戦」を実行する事にした。

「シェフ!見て見て!これボーイ達からのプレゼントだよー!!って…おびえた!?」

中華鍋を食卓の上に乗せた途端に、シェフが後ずさり、グレゴリーの背後に隠れてしまった(隠れてるつもり…なんだろうな…すごいはみ出してるけど)。
蒼い顔をして必死に両手で頭を守る姿になんだか面白…いや、悪い事しちゃったなぁ…と思った。

「大丈夫だよシェフ!これは君の大好きな料理のための道具なんだ!中華鍋っていうお鍋なんだよ!!」
「………鍋?」
「うん、お鍋。大丈夫、ちっとも怖くないよー」

シェフは怯えつつも、ボクが食卓の上に置いた中華鍋を手に取った。
しげしげと眺め回し安全な物である、安全な鍋であると確認したシェフは…真顔でボクにこう言った。

「…審判小僧、いいか?…鍋は火の上に置くものであって…火に被せるモノじゃあ…ない…」
「…いや、知ってるからね!?なんでそんな真剣な顔して言うのさ!?」
「いや…お前なら…間違えて覚えていてもおかしくない…」

無表情ながらも真面目な顔で言うシェフに思わず肩の力が抜けそうになってしまった。

「シェフ…君、もしかしてボクの事すごいバカだと思ってないかい!?」
「………………思ってない…ぞ?」
「ちょっとシェフなんで目をそらすんだい!?」

ひどい言い掛かりだよ!とシェフに詰め寄ると、またシェフによって盾にされたグレゴリーが大声で笑った。

「ヒヒヒヒヒッ!確かに、鍋を火消しに使うなんて奴はお前ぐらいしかおらんじゃろうからなぁ…」
「だからアレはわざとじゃないんだってば!!」

ボクの怒りがグレゴリーに向かいそうになった時、突然シェフが中華鍋に鼻を寄せて眉をしかめた。

「…土の臭いがする…」
「あぁ、花壇から掘り出したから」

八割方、天敵であるタバコの殲滅に使用されているだけだが…やっぱりシェフの料理人としての嗅覚はスゴイ。
しっかり洗ったんだけどなぁ…とボクが呟くと、シェフが無言のまま首を傾げる。

「あー…最初から説明すると…その鍋ねー…ボーイが庭の花壇に空き缶を埋めて鍋を作って取り出したんだ」
「ワシが説明しよう」
「…助かる…」

グレゴリーがシェフにボーイ達の能力の説明をするのを、ボクは黙って聞いていた。…悔しくなんか、ないよ!



「そういえばグレゴリー…よくボーイ達が能力使うの許したよねー?一体何でだい?」

グレゴリーがシェフへの説明を終え、そろそろ仕事に戻ろうと扉に手をかけた時、ボクは思い出した疑問をぶつけてみた。

グレゴリーが不機嫌そうにこちらを振り返り、吐き捨てる。

「ふん…許すも何も…始めから交渉相手は『奴ら』ではないからな…奴らに言ったところで無駄な話だ…お前にも関係ない」

結局、よくわからないまま…グレゴリーはよくわからない事を言って、出ていってしまった。

「…変わらぬよ…その程度で、この世界はな…」

そういって、この世界の『主』は去っていった。




…ボクはウッカリしていた。

「あ!あーあ…グレゴリーに『ジェームスに返しといて』って渡すの忘れてた〜!!」

ウッカリして、グレゴリーに渡そうと思っていた物を渡せなかった。正確にはジェームスに返す物だけど。

そう呟いてボクは…昨日中庭で拾って、ポケットに入れっぱなしにしていたジェームスの『水鉄砲』を取り出した。完璧に後の祭だけど…まぁいいや…後で自分で渡そう。

とりあえず、まずは自分の任務を果たさなきゃ。
ボクはシェフとボーイ達の仲直りのお手伝いに来たんだから。

ボクはシェフに向かってニッコリと笑った。

「…ねぇシェフ?さっきはゴメンね?怒ってない?…その鍋、ボクとボーイ達のプレゼントだから遠慮しないで使ってね!もし他に何か欲しい物があったら遠慮なく言ってくれってさ!シェフ…許してくれる…?」

シェフは何も言わず、何度も頷いてくれた。なんていい奴なんだろう!
何度も何度も…それこそ蝋燭の火が消えそうなくらい何度も…ぎこちない笑顔で。
気のせいか、ちょっと青ざめて見えたけど…きっと水鉄砲の容器の色が写ったんだろうな!

とにかく、ボクは彼らの仲直りのお手伝いをやり遂げた!!



ボクが自信満々で胸を張ると、キャサリンはまだ冷めた目でこちらを見ていた。

「審判小僧…アンタ…それ完璧、脅しだと思われてるわよ?」
「え、なんで!?」



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はい…長いわ!!ってね…しかも内容がない…まさにナンダコレです!!

うちのシェフと審判は互いに相手を「いい奴だけど頭悪いんだなぁ…」と思っています。実際中身はどっこいどっこいです。料理ジャンキーとジャッジフリークですから。まぁこのシリーズで頭いい人探す方が大変な気もしますが。

唯一ツン期のキャサリンのみが常時安定したツッコミですね。セクシーツッコミナース!

ちなみに夕飯の一人一鍋は無理があったようで、皆から大量に残されてしまいクロックマスターは余計シェフに恨まれました。マイサンも大変です。

さて今回もいらんことしい(≒審判)の影響でさらに迷走していく仲直り大作戦…打つ手はあるのか!?実はあと二、三話だったりするシェフ編…待て次号!!


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