りたーんず

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現実の自分の部屋で、昨日よりも強い覚悟を決め、僕は瞼を閉じた。

…あちらで目覚めたら、すぐそばに地獄のシェフが立っているかもしれない…そんな想像を振り払いながら…僕の意識は眠りに落ちてゆく。

夢の暗闇の中、ぼんやりと人影が見えてくる。
僕は思わず身構えた。

「…まさか…シェフが!?」

「や!兄さん、調子はどないでっか?いやぁ〜ワイとしたことが、またしてもウッカリと兄さん達に伝え忘れとったことが………あれ、どないしたん?」

陽気に笑いながら現れた死神さんの目の前で見事にコケた僕は…苦笑いを浮かべながら…なんでもありません、と言うしかなかった…。






…ボクの名前を知ってるかい?
審判小僧というんだよ!
ジャッジに困った時はいつでもご存知このボクにお任せ!!ボクはまだ見習いだけど…どんな問題でも、たちどころに解決しちゃうよ!!

さぁ今日も元気にジャッジメント!………といきたいところなんだけど、今日はボーイとガールの事をシェフに口止めするのと、シェフと彼らの仲直りのきっかけを探ってくるという重要な任務があるんだ!!

…失敗したらキャサリンに採血されるかもしれないから、結構…命懸けなんだ!!

そんなわけで今日はシェフの様子を観察しています。単にジャッジの練習をサボってるわけじゃなく、これもちゃんとした任務の一つなんだ………だって、こないだテレビで見た名探偵もジャッジの前によくアリバイを調べたりしているからね!


「…審判…少しウルサイ…」
「あぁゴメンねシェフ!君のアリバイを調べてるだけだから料理の邪魔はしないよ!!」
「………審判お前…全部口に出して…いや、いい…料理の邪魔をしないなら…いい」

ボクの言葉にシェフはまだ何か言いたそうな顔をしたけれど、面倒になったのか何も言わなかった。


「ところで、それは何を作ってるんだい?」

ボクはキッチンのドアに寄り掛かりながらシェフに尋ねた。
シェフは勝手にキッチンに入ると…それがたとえ一歩だけでも、ものすごく機嫌が悪くなるけど、ドアを開けて中を覗いても怒らない。
どうやらドアはセーフで、身を乗り出しても怒らないから、空中も大丈夫らしい。…でも着地はアウト。なかなか難しい。

ホテルの中にはシェフを怖がる人もいるけれど、ボクはシェフとは友達で、結構いい奴だと思う。

優しいし、面白いし、自分の仕事に真剣だし…何よりボクにジャッジを頼んでくれるし。

シェフは普段無口だけど、何も考えていないんじゃなくて逆に考えすぎて無口になっちゃうタイプなんだ。…だからたまにボクがジャッジをして決めるのを手伝っている。
今日もそうだった。

「グレゴリーに出す茶菓子…味が決まらない………審判…お前が決めてくれ…」

頭を抱えるシェフの目の前には美味しそうなエクレアの皮と、真っ白な綺麗な生クリームと………からしとワサビのチューブ。

うん…今日も相変わらず面白い悩み事を抱えているみたいだ…。

しかしボクも審判小僧!どんな悩みも真実の天秤に聞けば速効解決!!

「君はオヤツを焼き上げた料理人!エクレアの中味はワサビにするべきか、からしにするべきか…しかーし!グレゴリーは昨日キャサリンに採血されていました!!さて、君ならどうする!?」

シェフがハッとした表情で顔を上げる。

「…そうか!!」
「…そうだよシェフ…答えはレバニラ炒めさ!!レバニラのエクレアを無理矢理食べたグレゴリーは味の向こう岸を見る羽目になりましたが、なんと貧血が治りました!これが真実…はいオシマイ!!」

シェフがなるほどと頷きながら刻んだレバーを生クリームに投入する。…いい事をするって気持ちいいなぁ…。

シェフが上機嫌で赤黒い生クリームを泡立てている…聞くなら今しかないかな…と、ボクは本題をぶつけてみる事にした。

「ねぇねぇシェフ…どうしたらボーイ達はシェフと仲直りできるのかな?」

シェフの動きがピタリと止まる。たっぷり3秒程考えてから、シェフはまた腕を動かした。

「…料理の邪魔さえしないなら、いい。…ただ、審判…もう二度とあんな時間に電話をかけてくるな…」

ボーイ達の存在より、ボクが真夜中に電話した方が嫌だったらしい。…せっかく特別ジャッジについて教えてあげようと思ったのに…。

「わかったよ、ゴメンねシェフ………ところで、もし廊下でボーイ達にすれ違ったらシェフはどうする…?」

ボクが尋ねるとシェフはまな板の上に置いてある鯨包丁を見ながらボソッと呟いた。

「…ミンチ…」
「わかった!道のりは遠いね!とりあえず、他の皆には黙っててくれたらいいから!じゃないと君もボクもキャサリンの注射器の餌食だよ!それじゃあまたジャッジが必要になったら呼んでね!じゃあね〜!!」

ボクはそういってその場から離れた。ボクとシェフは友達だけど…自分の事ながらよく食材にされないもんだと思う…。本当に。



「とりあえず今日の捜査からシェフの情報をまとめると…シェフは『茶目っ気のある、料理を食べた人の笑顔と苦しむ顔が好きな、面白い悩み事をよくする、グレゴリーなんかの体調管理にも気を遣える優しい料理人で、いい奴』ってところかな?長いから…『いい奴』でいっか!」

僕はそうまとめてボーイの部屋をノックした。…昨日二人に会った時間よりはちょっと早いけど、もう二人とも起きて集まっているはずだ。

「ただいま〜…口止めはしてきたけど、前途多難っぽかったよ〜!!」

そういいながらドアを開けるとそこには、ものすごく喜んでいる二人とキャサリンの姿があった。

「…あれどうしたの?なんだかボーイまでテンション高いよ?」
「あぁ審判小僧!実はスゴイ事が分かってさ!!…シェフとの仲直り、なんとかなるかもしれないんだ!!」

ボーイが珍しく興奮した様子で言う。ボクは首を傾げて呟いた。

「前途多難だって言ったのに…まったく人の話を聞いてないなぁボーイは…」


…その後…ボクは30分ボーイに叱られた。理由はよくわからない。あんなに上機嫌だったのに、なんでいきなりものすごく機嫌が悪くなったんだろうか…。
そして残念なことに、この謎は迷宮入りしてしまった…。




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レバニラとエクレアって似てませんか…響きが。ナンダコレです!
グレゴリーさんが毎度毎度酷い目にあうのは仕様です。

そしてはじまりましたシェフ編。ウチの審判小僧にさえ面白い悩みとか言われるシェフってどうなんだろう…。すいません…我が家のシェフはこんなです。

さて死神さんも再登場。
ボーイのハイテンションの理由は…何より…審判小僧視点でどこまでやれるのか?

次回も…お楽しみに。


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