りたーんず

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子供の頃は簡単に出来た気がするのに、大人になってしまうと難しくなる。
…仲直りも…信じて待つことも…




試合開始のゴングが鳴り、最初に動いたのはキャサリンだった。
黒いヒールを履いた脚が頭上から一直線にガールを襲う。ギリギリで横に移動し踵落としをやり過ごしたガールを待ち構えていたのは…真横からの衝撃だった。

「ガール危ない!!」
「!?きゃあッ!!」

悲鳴をあげてロープ付近まで吹っ飛ぶガール。キャサリンがニヤリと笑った。

「あらぁ〜…ごめんなさいねぇ?まさか尻尾が当たったくらいで倒れるなんて思わなかったんですもの…口ほどにもないわねぇ?」

そういいながら尻尾を左右に振るキャサリン…振るスピードの余りの早さにブゥンブゥンと空気が切れる音がしている…。

僕はたまらず審判に叫んだ。

「審判!審判小僧!尻尾で攻撃するのは反則じゃないのか!?」
「んー…尻尾は体の一部なので…セーフです!!」

そのジャッジは明らかにフェアじゃないだろう!と僕がまだ審判に文句を言おうとした時、横から伸ばされた手によって止められた。

「…お客様…失礼ながら、申し上げます…これ以上は進行の妨げとなりますかと…」
「…グレゴリーさん…でもこれじゃあ…!!」
「…お客様…お客様は今、あちらのお客様のセコンドでございましょう?ならば、何故彼女を信じる事が出来ないのでしょうか…?」
「………」

この時、グレゴリーさんは両手にポップコーンとビールを手にしていた。…完全に楽しむ気満々だった。

しかし、言っている事は確かに真実だ。ガールは絶対に負けないと言った。…僕が信じないで…誰が彼女を信じてあげられるんだ…?

「…がんばれ…がんばれガール!!」

その言葉に、ガールが少しだけ笑みを返した気がした。


しかし状況が厳しい事は変わらない。…第二ラウンドまでなんとか持ちこたえたが、ガールはすでに満身創痍だった。対して、キャサリンはほとんど無傷。

「…大丈夫かい、ガール…?」
「…平気平気。絶対負けないからボーイは安心してていいよ」
「…そんなこと…」

…出来るわけがない。状況もそうだが…彼女が酷い目にあっているのに自分だけ安心して見ていることなど…僕には出来ない。

…だけど…彼女が言うのなら。

「…先に言っておくけど、僕はタオルは投げない。…君を信じてるよ」
「…ありがとう、ボーイ」

ガールが満足そうな笑みを浮かべる。
第三ラウンドが幕を開けた。

ここまで見てきて、注射器を取り上げたことで、一つ誤算があったことがわかった。…注射器を持っていないキャサリンは意外と動きが素早いのだ。さらに両手が自由になったことで、手刀の恐怖が増えてしまった。これは、かなり厳しい状況だった…。


手刀を左腕で防ぎ、鋭い蹴りを身を捻って避け、襲い掛かってくる尻尾を右腕で防ぐ。尻尾はまるで鞭のようにガールの腕に真っ赤な跡を残した。怯む間もなく、脚払いをかけられてガールが床に倒れる。もう何度目になるかわからないカウントが始まる。

「…うぅ…」
「…もういい加減にしなさいな?アナタ、自分が勝てるとでも思っているの?」

キャサリンの言うとおり、ガールは満身創痍を通り越して、ボロボロだった。誰がみてもガールが勝てるとは思えないだろう。…だけどガールはいまだ笑っていた。

「…何が可笑しいのかしら?」

「…本当…キャサリンてばドジねぇ…私は勝つなんて一言も言ってないわよ?絶対に負けないだけ。…だってまだ…キャサリン怒ってるでしょ…?」

「…は?」

あまりに予想外の答えに、キャサリンが首を傾げる。

「…私達…キャサリンのタマシイを勝手に盗ったことは謝らないわ…だってそうしなきゃ、帰れなかったもの。だから私達は謝らない。…その代わり…キャサリンの気が済むまで殴られるわよ…」

そういって、ガールはまた立ち上がる。

「絶対負けないって…まさかそのために…!?」

僕が呆然としていると、ガールが胸を張った。

「そうよ!だって…これしか思いつかなかったんだもん!!」

だもんって…と思いながらも、僕が色々とツッコまなくてはいけない事に気を取られているうちに、静観していたキャサリンが動いた。

「…わかったわ…アンタがそう言うならお望み通りそうしてあげる…」

そういってガールの頬に手を添えたキャサリン。ガールが反射的に目をつぶる。

「…こンの馬鹿娘ッ!」
「痛い!痛い!痛い!痛い!」

ギュ〜〜〜ッと、思い切りほっぺをつねられたガールが、驚いてのたうちまわる。キャサリンはさらにガールの頬をつねりあげながら怒鳴った。

「アンタねぇ…いい年して『ごめんなさい』も言えないワケ!?ホント『代わりに気が済むまで殴られる』とか…馬鹿じゃないの?そんな理由で…こんなにボロボロになるなんて…嫁入り前の娘が何してるのよ!馬鹿よ!アンタ馬鹿すぎ!…ちょっとアンタ達…後でアタシの部屋に来なさい!まとめてお説教してあげるわ!!無駄に増えた怪我人の治療のついでにね…!!」

「…キャサリン、許してくれるの?」

脚がふらついているガールに手を貸しながら、キャサリンがそっぽを向く。

「ふん………ちゃんと『ごめんなさい』出来たらね!!」

「「「お母さ…キャサリン!!」」」


皆のトキメキを代理するかのようにカンカンカンカンと試合終了のゴングがなった。

こうして、J−1グランプリ…もとい、キャサリンとの仲直り特別試合は幕を閉じたのだ。
お母さ…キャサリンによる2時間35分後のお説教の後に。




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当初の方向とは出来上がりが大分違った…なんてことはよくあることですナンダコレです!
ホントにナンダコレ…。うちのガールは発想が男前です。キャサリンはその点女性的というか皆のお母さ…!!

予定と違って…ガールに恐ろしい保護者が誕生いたしました。最強度合いがあがっている…だと…!?とりあえずキャサリンの教育を受けた今後のガールの成長が楽しみです。

さてキャサリン編も終わり(?)ました。
次回からはキャサリン編の後始末と新しいエピソードに入ります。

頑張って書きます…とりあえず、昨日届いた御本家DVD×3を見てから!!ひゃっほーう!!


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