りたーんず

□09
1ページ/1ページ



…状況がどんどん悪化していっても…僕にはどうすることも出来ない。
…始まりを告げる鐘がなるのを…僕には止める術などなかった。





カンカンカンカンと鐘がなる音に瞼を開くとそこは異次元だった…いや異次元というか異次元というには見慣れたモノが視界いっぱいに広がった。

白いマットの四隅に黄色いポールが立ち、マットを囲うように三本のロープが伸びている…それはどこからどうみてもアレだった。

大晦日とかにテレビでよく見るアレ…アレはどうみても…


「…コーナーリング…?」

ツッコミを入れた事で、ぼんやりとした意識が次第にはっきりとしてきた。

僕は状況を理解するために辺りを見回した。
…この奥行きが分からない広さからして…どうやらここは審判小僧の部屋らしい…だが今やあのガランとした部屋の面影は一切無くなっていた。

目の前にはコーナーリング。キッチリと並べられたパイプ椅子。まばゆいライトがリングを照らしている。
審判小僧の部屋と分かっていても…どこのプロレス会場に迷い込んだのかと思ってしまった…。

そういえば僕以外の姿が見えない。ガールや審判小僧はどこに行ったのだろう…?

「ガール?審判小僧ー?…皆ーどこに行ったんだー!」
「呼ばれて飛び出てジャッジメーーーーーーントッ!!」
「うわぁッ!!」

突然、ライトの中をハイテンションな審判小僧が降りてきた。…心臓に悪い!

審判小僧はいつもの服装とは違って、縦縞のラインシャツに黒いズボン姿だった。…その首元の蝶ネクタイに嫌な予感がどんどん増す。まさか…


僕の思いをよそに審判小僧がマイクを取り出した。

「さぁ始まりました…第一回特別ジャッジ…J−1グランプリ!!司会とジャッジは審判小僧がお送りいたします。現在のチャンピオンは恋するデンジャラスナース…キャサリン!!対して挑戦者はキャサリンを二回も転ばせた少女…バナナマスターガールです!!」

カシャッとライトがコーナーの両端を照らし出すと、そこには二人の女性が立っていた。

一人はガール。
…だけどもう一人は…

「…ちょっと〜審判小僧…何よこの状況は…?」

キャサリンが髪をかき上げながら審判小僧を軽く睨む。その瞬間、審判小僧が上空に逃げる。さすがに審判…判断の早さは素晴らしい。

「おはようキャサリン!調子はどうだい?」
「…調子はともかく…気分は最悪だわ〜…アタシの注射器…さっさと返しなさい?」

キャサリンがさらに目を細めて注射器を小脇に抱えた審判小僧を睨みつけるが、さすがマイペース…動じない。

「ダメだよ!コレは賞品なんだから!」
「…賞品?何よそれ」
「君がガールと戦って!勝ったら注射器は君のモノ!」

朗らかな笑顔で審判小僧が言う…いつの間にそんなルールになったんだ…というよりッ!

「話が違うじゃないか!僕らは話合いに同席してくれって頼んだはずだぞ!」

怒りをこめて叫ぶが、審判小僧はなぜか首を傾げる。

「…一対一の話し合い…ジャッジが必要で…凶器は認められない…つまり『拳での話し合い』って事だよね?」

どこをどうしたらそう聞こえるんだ…本当に人の話を聞いていない…。僕は思わずパイプ椅子を投げつけてやりたくなった…。

「…アタシはいいわよ…アタシが勝てば注射器返してくれるのね…」

キャサリンの瞳がギラリと光る。…注射器が彼女の手に戻った瞬間、間違いなく全員が干からびるまで採血されるだろう。

「だったらせめて僕が…なんでガールなんだ!?」
「相手が女の子だからでしょ…一応」

ガールが呟く。
その顔はなぜか…笑っていた。

「…ガ、ガール…なんか目が怖いよ?」
「…ボーイ…私がキャサリンなんかに負けると思ってるの?」

その言葉にキャサリンがピクリと反応する。

「あら…ずいぶんと強気ねぇ〜?さっきみたいな卑怯な真似はもう出来ないわよ?」
「あら、ごめんなさいね?あんなバナナの皮で二回も転ぶようなドジなナースがいるなんて思わなかったから…ああ…ジェームスの時を含めて三回だったかしら?」

「アンタと違って胸があるから足元が見えないだけよ」
「そうなんだー…トカゲっぽく壁でも歩いたらいいのにー」
「………寸胴」
「………爬虫類」


ただの悪口のはずなのにリングの上ではすでに火花が散っている。なんだか逃げ出したくなってきた…。

「ボーイとグレゴリーはセコンドね!はい」

審判小僧の指示で黒子からタオルが渡される。
グレゴリーさんはどうやらキャサリン側のセコンドとして反対側にいるらしい。…道理で姿が見えなかったわけだ…。

「それじゃあルールのおさらいだよ!凶器の使用はダメ絶対!以上!!」

「………まな板」
「………主食昆虫」

「二人とも聞いてないよね?まぁいーか!それじゃあ運命の第一ラウンド…ジャッジメーーーーーーント!!」

カーーーンッ!!と鐘がなり、ぐだぐだなまま、戦いの火蓋が切って落とされる。

僕は冷や汗をタオルで拭った。
…これから…どうなっちゃうんだろう…。



−−−−−−−−−−−
はい、ぐだぐだですね。ナンダコレです。

ようやくここまでたどり着きました。キャサリン対ガールの一騎打ち。
今回一番苦労したのはキャサリンへの悪口の部分です。キャサリン大好きなんですが…トカゲの悪い部分を挙げようとしても難しいという。
「採血マニア」は悪口じゃなくて特徴になってしまいますからね…

さて次回は終わる終わる詐欺と化したキャサリン編もフィナーレです!

それではまた次回。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ