りたーんず
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どうしようもない事態に陥った時、助け舟はとても意外なところから出てくるものだ。
…たとえそれが、まったく救いになってなかったとしても…。
真夜中の廊下で、僕は完全に弱り切っていた。
ガールがほぼ条件反射でキャサリンを倒してしまったおかげで、ホラーショーの危険は無くなった…無くなったが、事態は更に悪化してしまった。
もともと話し合いで解決するような相手ではないが、こうなってしまった以上はもう、話し合いに応じる可能性はないと考えていいだろう…。
…しかしこれから先、グレゴリーハウスで暮らしていかなくてはならない以上、キャサリンとはいずれ仲直りしなくてはいけない。
…いや、それよりもまず、怒ったキャサリンがホテルの住人達に僕達が帰ってきた事を触れ回ったりしたら………考えるだけで身の毛がよだつ…。
…ともかく気絶したキャサリンをこのまま床に放置するわけにもいかないし…とりあえず場所を移そうという結論に到った。…まぁ、やっちゃったモノは仕方ないし。
「…ガール…とりあえずはどこか別の場所に…」
キャサリンを運ぼうと言いかけた時、背後から独特のメロディーと滑車の滑る音が聞こえてきた。
「…僕の名前を知ってるか〜い♪」
…一度耳にしたら夜眠る時まで頭から離れなくなりそうな…聞き覚えがすごくあるノー天気なメロディー…。
振り返ると廊下の向こうから、縦に割った鳥かごのような形をした吊り下げ椅子に腰掛けた青年がやってきた。
…相変わらず、目に悪そうなカラーのボーダーシャツ姿を見て、誰かと見間違える事はまずないが…いつも通りのご機嫌な様子で彼は自分の正体を歌った。
「…審判小僧というんだよ〜♪ジャッジメーント!!…おや?ボーイにガールじゃないか…久しぶりだね君達!また僕にジャッジして欲しくて戻ってきたのかい?」
…そして相変わらずハイテンションかつ、マイペースきわまりない。
僕達が呆気にとられてフリーズしている間に、審判小僧が吊り椅子から飛び降り、廊下に着地する。
「懐かしいね〜。いったいいつ戻ってきたんだい?帰ってきたんなら教えてくれればよかったのに!」
へらへらと笑っている彼を見て、そういえば彼はホテルの住人で唯一、ホラーショーを起こさない人物であることを思い出した。
「やぁ…久しぶりだね、審判小僧」
「ごめんね…戻ってくるなんて私たちも思わなかったから…」
「うんうん!じゃあ再会を記念にジャッジしようか?」
「「それは遠慮しとく」」
…相変わらず人の話をまったく聞いていない。
…しかし、ホテル内を自由に移動できる彼がもし味方になってくれたなら…これから先、何かと心強いのではないだろうか?
僕がそんな事を考えていると、ジャッジを断られてもなおハイテンションだった審判小僧が、不意に笑顔を引っ込めて首を捻った。
「…ところで、今日はキャサリンが倒れているけど…これはどういう事だい?」
その瞬間、真夜中本来の沈黙が廊下を満たした。
…まずい…忘れていた!
…いくら審判小僧がキング・オブ・マイペースでも同じホテルの住人であるキャサリンを倒した現場を見られては、警戒されてしまってもおかしくない。それに…審判小僧にこれ以上騒がれて、キャサリンや他の住人達が起きてしまったら大変な事になる…!!
「…審判小僧、実は!」
「いや、いい!僕には全て分かっているよ…」
キャサリンに襲われて仕方なく返り討ちにしてしまった…という僕の言葉を遮り、審判小僧が言った言葉に安堵が生まれたのは一瞬。…ほんの一瞬だった…。
…そこから先の彼の言葉に、僕は唖然とした…。
「なぜなら僕には真実の天秤がある!…親分の名にかけて…この謎は全てとけた!犯人は…ガール!君だ!!」
どこかで聞いたようなセリフを言って審判小僧は、ずびしッと自信満々にガールを指した。
「な、なんですって…何を根拠にそんなデタラメを…!?」
「…デタラメじゃない…証拠なら揃ってる…キャサリンの足元に転がっている死因と思われるバナナの皮…それと同じモノを君はその手に持っているじゃないか!!」
正直、それは証拠になるだろうか…?と僕は思った…にもかかわらず、ガールはよろよろとその場に崩れ落ちる。
「主人が…!あの人がいけないのよ…!!」
相変わらずノリがいい彼女に、主人って誰ですか?とかは…聞ける雰囲気ではなかった…。
審判小僧が何故かこちらに背を向け、打ち付けられた戸板の隙間から外を眺める。暗闇以外の何が見えるのか知らないが…哀愁漂う口調で言う。
「悲しい事件だったが…真実の天秤にかかれば、簡単な推理だったよ…これが真実、はいオシマイ…」
ベタベタな二時間サスペンスのようなやり取りをする彼らを見て、僕は思う。
…彼はジャッジならなんでもいいんだろうか…?
僕のなかに…先ほどとは何か違ったベクトルの、どうしようもない気持ちがわきあがってきたが…僕にはどうする事も出来なかった。
呆然と眺めていたら、二人の視線がチラチラと何かを訴えかけてきた。
…意図を理解してしまった僕は、内心でため息をつきながらツッコむ。
「…てゆーか…キャサリン死んでないから…」
その瞬間、二人がむくれた顔で逆ツッコミをいれてきた。
「遅い!遅いわよボーイ!!」
「他の部分は全部スルーかい!?渾身の名ジャッジも!?」
…正直、ついていくのにやっとでした…という言葉を飲み込んで僕はため息をついた。
「えーとじゃあ…キャサリンを倒しちゃったことは…いいの?」
恐る恐る尋ねると、審判小僧が法律とか正義とかに矛盾した事を言いながら笑った。
「ああ、大丈夫大丈夫。気絶してるだけでしょ?キャサリンがそう簡単に死ぬわけないからね〜」
「…あ、そう…」
その時、廊下の扉が開いてグレゴリーさんが顔をだした。心なしかワクワクした顔で僕に問いかけてくる。
「おやおや、お客様…何やらこちらからカオスを感じて参りましたが…何かおありでしたか?」
僕は再度ため息をついて、首を振った。
グレゴリーハウスに戻ってきて一時間…。
前途が…多難すぎる気がする…。
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はい、こんばんは!パーマネント!!ナンダコレです。
バイトったりパーマをかけに行ったりと忙しく、前の更新から大分開きました。スイマセ…!!
そして審判小僧のキャラがいきなり崩壊していますダブルですいません!!予告通りジャッジとなるとアグレッシブな彼が初登場…他サイト様では可愛い皆の嫁も当サイトではこんな感じです。
お察しの通り…管理人はベッタベタの二時間サスペンスとか大好きです。そんな管理人の脳で審判→ジャッジ→裁判→公判→お白州。になったための暴挙です。
…後悔はしていませんが反省はしているので今後はやらないと思います。…推理とジャッジって似てませんかそうですか。
さて次回は審判が大活躍(暴走)です。お楽しみに…!(嫌な予感しかしない)