りたーんず

□05
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ホラーショーはまだ続いている。
グレゴリーさんにそう指摘されるまで、それを忘れていたわけではない。
…ただその時の僕には、そんな事よりも気掛かりな事があったのだ…。


「…大丈夫そうかい、ガール?」
「大丈夫バッチリよ、ボーイ!今なら誰もいない!!」

部屋の鍵穴から廊下の様子を見ていたガールの合図で、僕達は廊下に出た。足音をさせぬようにロビーに向かう。

本当にキャサリンの診察を受けに行ったのだろうか…グレゴリーさんはフロントにいなかった。

二人して顔を見合わせ、互いに頷く。
…今がチャンスだ。

僕が周囲を警戒している間に、ガールが素早く目当ての物を手に入れた。

ふと初めてホテルに来た日を思い出して、懐かしくなる。…あの時も、最初はこの鍵束からだった。

素早く、静かに来た道を引き返してゆく。

ガールの部屋とは反対側の、僕の隣の部屋。
…ホテルの中でも異質な、その分厚い鉄の扉を開けるために…。

あの採血大好きなトカゲ女のナース…キャサリンの部屋が隣にあるため、自然と慎重になる。

南京錠を外し、静かにドアを開くと…中には懐かしい人影があった。

ボサボサに伸びた髪の毛の間に生えた耳、飢えているのだろうか…爪を噛んでいる唇が乾き切れて縫合糸が血で赤くにじんでいる。
痛々しく縫い合わされた瞼の隙間から見える瞳だけが、暗闇の中で虚に光っていた。

再び目にしたその姿はひどく疲れているようだった…だけど紛れも無く、彼は生きていた。

「「…ネコゾンビ!」」

最後に目にした時、炎に包まれていた…だけど、彼は生きていた…生きていてくれた!!

「ッ…近づくんじゃないニャ…!!」

あまりの嬉しさに駆け寄った僕達を、ネコゾンビは突き飛ばした。
彼の予想外の行動に、受け身が間に合わず、僕は尻餅をついた。

「…ネ、ネコゾンビ?なんで…?」

見上げた彼の目は、僕達を冷たく眺めていた。
あまりに予想外すぎて、わけが分からない…。
彼はきっと、僕達との再会を喜んでくれると思っていたのに…なぜ…?

「…なんでまた戻って来たニャ…振り返るなといったハズニャ?なんで…?」

ネコゾンビがよろめくように立ち上がり、低い唸り声をあげた。

「…ネコゾンビ?」
「…早く…早く出ていくニャ…さっさと現実の世界に帰るニャ!!」

ネコゾンビによってドアに向かって背中を押されながらも、ガールが叫ぶ。

「…ネコゾンビ!誤解よ!今回は私達の意思で戻ってきたわけじゃあ…」
「…聞きたくないニャ!さっさと出ていくニャ!!ボクは…二度と君達に会いたくなかったニャ…」

ネコゾンビの悲痛な絶叫にガールが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
…僕は俯いたままガールの腕を引っ張り、外へと向かう。

「…ボーイ…」
「出よう…ガール…今はまだ駄目だ…」

ネコゾンビは、僕達が現実に帰るために必死になってくれた。僕等を逃がすためにホテルに火まで放った…。

…それなのに…僕達は戻ってきてしまったのだ…ネコゾンビが怒るのも、無理もない。

とにかく、落ち着いた頃にまた来ようと決めて僕達は部屋の外に出た。

「…ネコゾンビ…私達の事、嫌いになっちゃったのかな…」
「…分からないよ…」

とにかく一度部屋に戻ろうとした時、背後からドアの開く音が聞こえた。

振り返るとそこには、白衣に身を包んだ女が立っている。
ピンク色の巻き毛が魅力的な美人のナース。
…しかしスカートの裾からのぞくピンク色の尻尾と、その手に持った巨大な注射器が、彼女が人間ではないと明確に示している。

「…ずいぶん騒がしいと思ったら…懐かしい子達がいるじゃない…一体いつ帰ってきたのかしら?」

ニィっ…と細められた瞳はまさしく爬虫類の本性を表していた。

「…キャサリン…」
「あら、嬉しいわぁ〜…覚えててくれたの…」

名前を呼ぶ声が震える。
当たり前だ。彼女はこのホテルで一番最初に恐怖した存在なのだから。
よりによって一番会いたくなかった人間に会うとは…なんてツイてないんだろう。

「…私もアンタ達の事は覚えてるわ…さぁ…」

キャサリンの注射器の針がギラリと輝く。

「…採血のお時間よ?」



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はい、こんばんは。キャサリンになら採血されてもいい!ナンダコレです。
エムブロの仕様で二時間かけて書いたデータが全部吹っ飛んで、少しリフレッシュタイムという名のorz状態期間がありまして、ちょっと時間が開きましたが…どうだったでしょうか…第5夜…。

鬱憤を晴らすかのように詰め込みました。出したくて仕方のなかった二人が出せて幸せです。ええ、幸せです。

頼みの綱のネコゾンビはツン状態。キャサリンに発見されホラーショー突入という…受難が続きますが、次はガールが大活躍(暴走)予定です。お楽しみに(笑)

…その前に…二時間のやり直しなんですがね…。
…逆に考えるんだ…あんな長ったらしいものは消えたほうがいいやと考えるんだ…
それではまた次回。




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