りたーんず
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ふと気がついたら、見知った場所に立っている夢をみることがある。
今夜の夢もそうだった…
気がついた時には、僕は深い霧の中を…大きな建物の前で立ち尽くしているのだ。
ただ一つ問題があるのは…その場所が、僕らが命懸けで脱出した「あのホテル」であるという事だ。
しかし、あのホテルは燃え落ちたはずだ。
…僕はどうも悪夢を見ているようだ。あの時のトラウマという奴だろうか。
夢は記憶の整理という…つまり、この夢は以前、ホテルを脱出するために度々体験したホラーショーを見せ付けてくるという事だ。こんな夢…早く目覚めなくては。
僕のとなりにはガールの姿があった。同じ時期にホテルに泊まった宿泊客だ。
彼女も僕と同じく死神にかりそめの体を貰い、ともにホテルを脱出をした仲間である。
あの時の記憶にしては鮮明に覚えていたようだ。数度しか見ていない彼女の姿が鮮明にソコにあった。
みると、自分もかりそめの体になっていた。
ホテルも、背後にあるだろう薄気味悪い森も、何もかもがあの時のままだ。
僕はホテルの扉を開いた。
そこには僕の予想通り、老いた一匹のネズミがいた。
やはり、ホラーショーは一番の見せ場まで繰り返して見なければならないようだ…
…僕が己の悲鳴で飛び起きるまで…
老ネズミがこちらに視線を向けた。
…続きは覚えている。
『…これはこれは…こんな夜更けにお客様とは珍しい…』
「…これはこれは…お客様…一体何時お戻りになられたのですか?」
「…え?」
突如聞こえた声は、僕の口から発せられていた。
「やはり現実はお辛かったでしょう?いえいえ…わかっております…お部屋はご用意しておきましたのでご安心を…」
そう言って老ネズミが僕たちにホテルに入るよう促すが、それどころではなかった。
「帰ってなんか来ないわよ!だって今私眠ってるだけよ!?ちゃんと現実で生きてるわ!!」
ガールが老ネズミに怒鳴る。
…そうだ。これは夢だ。
今僕は眠っているのだ。
ホテルの主がヒッヒッヒッと愉快そうに笑う。
「…夢も何も…現にお客様はお帰り下さったではありませんか…?」
違う!僕はもう現実に絶望なんかしていない!!
「…何かの…間違いだ!!」
そう叫んだ瞬間。
僕は暗闇で目を開いた。
そこは紛れも無く、現実の、自分の部屋だった。
「…なんだったんだ…今の…?」
全身が汗でビッショリと濡れていた。気持ち悪さに眉をしかめてベッドを下りる。
僕の足はバスルームに向かったが…汗を流して着替えたところで、今夜はこれ以上眠れたりはしないだろう…。
シャワーコックを捻る。
冷たい水が心地好かった。
老ネズミの笑い声がまだ耳に残っている。
グレゴリー…グレゴリーハウス…
僕はまた、あの場所に戻ってしまうのだろうか…?
その時…まだ僕は、自分の運命がどのように変わってしまったのか、気がついてはいなかった。
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初書きですが…ものすごく自分設定まくりで申し訳がなくなってきた…。
ボーイとガールがグレゴリーハウスに帰還編。
次からボーイ:ガール:グレゴリーの苦悩(1:1:8)が始まります。