リターンズ2
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タイムトラベルする話にはタイムパラドックスや歴史への干渉をしてはいけないなど困難な課題が多い。
だが一番厄介な物はいつだって変わらない。
「今…思い出した。…マイサン達三人は過去にタイムスリップしてしまったんじゃ…!!」
あの鼠耳しか見てなくて気がつかなかった…ッ!!と錯乱しているのか何やらよく分からないこと叫ぶクロックマスターにキャサリンが肩をすくめて眉を寄せる。
「呆れた人ねぇ〜!そんな大事な事、なんで今の今まで忘れてたわけ〜!?」
「でもタイムスリップって…まずいんじゃないの?パラドックスがどうのこうの…テレビだとろくなことが起きないわよねー♪」
エンジェルドッグが口にした言葉に映画好きな何人かが頷く。
「言われんでも分かっとるわ!こうしちゃおれん…はやく機械を作り直さなくては!」
袖をまくって意気込むクロックマスターにガンマン他有志数人が工具を手に賛同した。
「よっしゃ!オレ達も手伝うぜ!設計図とかあるのか?」
「………無い。あーッ!今から思い出しながら書いても無理じゃ!3日以内に出来上がらん!」
頭を掻きむしり床にうずくまって嘆くクロックマスターの鬼気迫る様子に全員が自然後ろに歩を下げる。そんな中、逆にクロックマスターへと近づいていった猛者が一人…。ガールだ。
鼠耳でからかってしまったことを謝ろうとボーイを探していたのだが姿が見当たらず、爆発音がしたため彼女も他の住人とともに様子を見にきていたのだ。
最初は鍵穴から覗いていたのだがルーレット小僧がここにはおらず、どうやら大変なことが起こっているようなので部屋に入ることにしたのだ。
クロックマスターも自分の息子の一大事ではホラーショーどころではないようで、ガールを一瞥しても眉をひそめるくらいである。それをいい事にガールはうずくまるクロックマスターの近くまで寄ってしゃがみ込んだ。
「ねぇ!なんで3日以内なの?」
「…あの時空転移装置はたとえタイムパラドックスが起きてもそれが次元のずれの範囲内に収まる期間にしか往き来が出来んのじゃ。それが3日間なのだ」
「次元のずれ?」
首を傾げるガール。そして同様に
まだ事態を完全には把握していなそうな周りの視線にようやく気がついたクロックマスターは咳払いをひとつして落ちていた枯れ木の枝で地面に図を書き始める。
「…本のようなモノを想像して、その一頁づつがひとつの次元だと思えばよい。隣り合う次元はこことほぼ同じだがほんの少しばかり内容が違う。離れた頁に飛ぶごとに中身は大きくずれる。あの装置はそのずれを利用して、タイムパラドックスを防いでおるのだ」
「どうやって?」
ガールの度重なる質問にもめげずにクロックマスターは地面にさらに二本の下向きの矢印を書いた。
「あみだくじと同じじゃな。縦が元々の流れ、この棒の太さがこの三日間じゃ」
そのまま二本の線の間に右斜め上へ向かって横棒を引く。
「この横に引かれた線がタイムスリップ…時間軸のある特定の地点同士ならどういった移動も可能じゃ。この線の太さならば自由にどの軸とも横棒が結べる…タイムトラベルが出来る。しかし特定の期間…この線の太さの期間が過ぎてしまえば…縦軸の流れに逆らえない。時間の流れに押し流されその運命に取り込まれる」
クロックマスターの声が震えた。彼の掌の中で木の枝がばきりと折れる。
「3日以内の歴史への干渉であれば…本来なら壊れていない時計が壊れてしまって未来でタイムトラベルをする時点までに存在しなくなる、といったように…タイムトラベルでの矛盾や改竄が次元のずれの範囲内に収まる。つまり全部無かったことになる…のだが…自分の元いた時間の縦軸に戻るには、またこの装置でタイムトラベルするしかない」
「つまり…どういうことなの?」
まだよく分かっていないガール達の後ろで、黙って聞いていたミイラパパが専門用語をとばして要点を抜き出す。
「設計図も無しに…たった3日でタイムマシンを作らなければいけないのですか…」
「うぅ〜ん…せめてボーイちゃんがいればどうにかなったかもしれないけど…」
「うわぁああマイサーーーンッッッ!!!」
キャサリンの言葉に再び恐慌状態に陥ったクロックマスターの両手を掴み、ガールが力強く訴える。
「諦めないで!ボーイが過去に行ってるならきっと何か手がかりがあるはずよ!探しましょう!皆を助けるのよ!!」
「…お、おお!!」
いつのまにか少女が中心となり、その場が一致団結した。
「でも〜どうやって探す気ィ〜?」
エンジェルドッグの言葉にガールが振り返り、サムズアップしながら片目をつぶって見せる。
「大丈夫!心強い『味方』がいるもの!!」
同時刻。
カエル占い師の部屋。
ドアを開くこともなく一人の男が音もなく煙の中に姿を現した。
「…久しぶりだな、占い師」
「久しぶりゲロねぇミラーマン。私に何の用ゲロ?」
やはりミラーマンが突然目の前に姿を見せたことにもなんの反応も見せない。カエル占い師…いったいどこまで見通していたというのだろう。
「………用件は分かっているだろう。あの二人の新しい住人のことだ」
ミラーマンはそう言い、ボーイから聞いた話をカエル占い師に聞かせる。占い師の眠たげな目には何も変化がない。ミラーマンは苛立たしげに本題をぶつけた。
「あいつらには実体があった。だが死神に人体を作る能力はない。そんな力があれば今までのゲストを実体のないままで居させるはずがないからな」
それこそどんな邪魔だって出来るだろう。だが死神はそうはしなかった。いや…出来なかったのだろう。
「つまり死神にあの二人のかりそめの体を渡した『協力者』がいるということだ。それは…『アイツ』じゃないのか?」
カエル占い師は何も言わない。
「もし裏にいるのがアイツならば、あのガールとかいうのがオレを自由にする訳がない。…だとすればあの娘達は死神の協力者が誰なのか知らないはずだ。いや、協力者がいることすら知らないかもしれん」
部屋の中に濃く渦巻く煙に巻かれないように真っ直ぐに睨み付けるとようやくカエル占い師が口を開く。
「憶測ばかりゲロねぇ…根拠はどうしたゲロ?」
億劫そうな口調で痛いところをついてくる。ミラーマンは拳を固く握りしめて静かに首を横に振った。
「…根拠はまだ無い。だがグレゴリーの能力を媒介にしているとはいえ混沌から特定の物質を生み出すなんて高等魔術、並みの魔術師には出来ない。そんな事が出来る魔術師の肉体を作り出すことも」
「それはそうゲロ。でなければお前にヒトガタを与えることに苦労はしなかった」
自分の創造主たるカエル占い師。
彼女とグレゴリー達が協力したならば混沌から肉体を作り出せるかもしれない。…だがそれだけはありえない。あの二人の真実の姿を見たからこそ確実に言える。グレゴリーママはあの二人の正体を知らない。
…だとすると、あとはもう『一人』しかいない。
「あの鼠の魔女がぶっ倒れているということは、迷界にゲスト以外の侵入者の出入りがあった証拠だ。だが…それならオレをあの審判小僧と接触させるはずがない。アイツなら絶対にそれを避けるはずなのに…狙いはなんなんだ?」
カエル占い師の細い目がさらに細められる。まるで自分こそが蛇に睨まれた蛙のようにミラーマンは凍りついた。
今まで見たことのない、魔女の笑顔。その恍惚とした表情にゾッとする。そして、ミラーマンはようやく…自分が踏み込んではいけない部分に踏み込んでしまった事に気がついた。
「今はまだ…誰も知らないゲロ。その理由が知りたければ水晶をのぞけばいい…」
おぞましき魔女の囁き。
だが怯むわけにはいかない。
魔女と魔法使い達の支配するこの国で、この魂と肉体を生き永らえさせるためにも…あの二人を上手く利用しなくては…。
覚悟を決めたミラーマンは意を決してその水晶玉を覗きこんだ。
水晶の中に映る煙が揺らぎ、その中の人物が叫ぶ。
「「「助けて!ミラクル☆ミラーマーンッ!!」」」
「だからッその呼び方は止めろーーーッ!!」
ミラーマンのツッコミにかき消されたカエル占い師の呟きは静かに煙に溶けて消える。
「もう…誰も運命には逆らえない…」
過去であれ現在であれ…運命という途方もない困難には誰も逆らえない…。
そう、そしてそれは…未来でさえも…。
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長らくお待たせしました65!
何回か練り直してたらこんなに時間が開いてしまいました。いったいいつからかと考えると怖いものがあります…本当すいません。
あと一回で説明パートが終わるのでそうしたら過去探索と微妙にボーイにスポットが当たってきます。伏線ばかりで分かりづらい部分は読み飛ばして是非フィーリングでお楽しみください!