リターンズ2

□63
1ページ/1ページ



8時29分。
ようやく耐え難い頭痛から復活しマイサンを探し回っていたクロックマスターは物置の方からの爆発音に青ざめた。

「まさか…マイサン!」
「やれやれまた爆発ですか…今度はいったい何が起きたのだ?」

たまたま居合わせた見回り中のグレゴリーとともに中に入ると物置の奥の壁に穴が開いていた。もくもくと白煙を出しているそこを潜ると、裏庭と呼べるようなスペースに通じている。裏庭にはそこら中に何かの機械の破片が散らばっていた。…どうやら爆発の正体はこれらしい。

「おや…誰もいらっしゃいませんねぇ…はて?こんな場所に裏庭などありましたかな」

グレゴリーがホテルの支配人にあるまじき発言をしながら首を傾げているがそれどころではない。

「マイサンは…マイサンはどこじゃ!?マイサンッマイサァーンッッッ!!」
「ちょっと!今度はいったいなんなの〜!?」
「おや、今日はルーレット君の爆発ではなかったのですねぇ〜」
「ですねですねー!」
「ニヒヒッなになに〜?」
「なんだコリャ!なんかの機械が爆発したのか!?」

野次馬が集まってきたがその中にマイサンの姿はない。物置の異変ならばきっと時計を心配して来るはずなのに…。嫌な予感がしてクロックマスターは息子の友人の一人に声をかけた。

「ジェームス、マイサンを知らんか!?」
「知らないよ!マイサンがおとーさんとケンカしたからって物置にイエデするなんてボク知らなーい!!ニャハハハ!!」

その言葉にクロックマスターの顔から音を立てて血の気が引く。

「なんてことじゃ…もしやこの爆発に…!マイサン返事をしてくれ!マイサンーッ!」
「ふむ…見たところ誰もおりませんのでそのような小さな破片なぞひっくり返しても無駄かと」
「やかましい!お前さんは黙っとれグレゴリー!」

クロックマスターがそこら中の機械の破片をひっくり返しているとキャサリンが深刻な面持ちでポツリと呟いた。

「機械の爆発ねぇ…まさかあの子じゃないわよねぇ〜…」
「何か知っておるのかキャサリン!?」

ほんの少しでもマイサンの行方の手がかりになるならばと身を乗り出してすがりついたクロックマスターから少し距離をとりつつ、キャサリンが説明する。

「ほら、あの子よ。戻ってきてるでしょボーイちゃん。あの子機械いじりが好きみたいだから…。さすがに爆発するようなモノを作るとは思えないけど、もしかしたらこっそり何か作ってたところにマイサンと鉢合わせして…追いかけっこになって放っておかれた機械が爆発…とか…思っただけよ〜?」

青ざめたクロックマスターが何か言うより先に話を聞いていたガンマンが横から口を挟んだ。

「でもここ最近アミーゴは審判の天秤を直してたからな!別のモノを作るような時間はなかったと思うぞ?こんなオレ達すら知らないような場所でこっそり何か作れる時間はないだろ」
「それもそうねぇ〜」
「そういえば審判も来てないわね兄ちゃん!自主訓練中かしら?」
「あら♪そんなのどーせまたサボってガール達と一緒とかじゃなーい?」

どの話も憶測ばかりで当てにならない。こうなれば手当たり次第に探し回るしか無さそうだ。

「誰か…マイサンの行方に心当たりのある者は手を挙げてくれんか!!」

その時、クロックマスターの動きがギシリと固まる。まるで『過去のとんでもない大失敗』を思い出したかのように青ざめ脂汗を流しながら叫んで…彼はその場に両膝を折った。

「う…うわぁああああーーーーーッッッ!!!」

そしてクロックマスターは…震えながら右手を高く挙手した。





タイムスリップ(仮)から5分後…ボク達はヤングクロックマスターに引っ張られて屋内に移動していた。裏庭に通じる隠し扉をくぐるとそこは見慣れた物置だった。

…だけどそこにある物達はまだ少しだけ綺麗で新しい。いつもマイサンが直していた古時計がカチカチと時を刻んでいる。周りにグラビアが全く貼られていない机に手をつきヤングクロックマスターがしげしげとこちらを伺った。

「ここでの実験は誰にも知られるわけにはいかないのでな。特に森の奴らに見つかるとすぐに噂になるから厄介でのう。で?お前達は何者じゃ未来人ども」

森の奴らという言葉が少し気になったがヤングクロックマスターは尋ねる隙も与えずこちらを尋問してきた。その尊大な態度になんだか嫌な奴を思い出して無性に鏡を割りたくなってくる。
物置のドア近くに真新しい姿見を見つけたので後で割ろうと心に決めた。

マイサンはいくら言ってもヤングマスターに息子と認めてもらえずにしょげかえってしまっている。そんなボク達を見回し、ボーイがぎこちない笑顔で立てた右手の上に左手を乗せて叫んだ。

「タイム!」
「認めよう」

ヤングマスターの承認を得たボク達は円陣を組むように顔を見合わせ声を潜めて相談しはじめる。

「ねぇボク達本当にタイムスリップしたの?もしかしたらまたパブリックフォンの変装とか…」
「いや、僕達が裏庭を見つけたのもあの爆発に巻き込まれたのも偶然だし…爆発からそんなに時間がたってない。さすがにパブリックフォンが一人でここまで色々変えるのは難しいんじゃないかな?」

ボーイが見せてくれた腕時計は8時35分を指していた…パブリックフォンでもさすがにこの短時間でこんなに色々変えることはできないだろう。またエンジェルが協力していたとしたら話は別だが、この間ひどい目に遇わされたばかりだからその可能性は少ない。つまり…。

「じゃあ、あれ本物のクロックマスター!?ボク達マイサンのホラーショーで過去に来ちゃったの!?」

その言葉にぐったりしていたマイサンが顔を上げ首を横に振った。

「…おいらのホラーショーのせいじゃあないよ。おいら時を止めたり加速したりは出来ても巻き戻しはまだ出来ないんだ。それに父ちゃんのタイム・イズ・マネーだってここまで巻き戻ったことなんかないし…」
「じゃあやっぱりここは過去なんだね?」

緊張した表情でボーイが尋ねる。今は喧嘩している場合じゃないと思ったのかマイサンは素直に頷いた。

「…うん。周りの時間とおいら達の時間がすごくずれて歪んでるから。なんだかずっと見比べてて気持ち悪くなってきた…」
「大変!マイサンがタイムスリップ酔いしちゃった!」
「待って…現実のだけれど酔い止めだ。飲むといい。少しは楽になる」

ボーイがポケットから取り出したハーブを握りしめて手を開くと小さな錠剤の入った箱が出現した。ありがとう、と礼を言ってマイサンが酔い止めを口に放り込む。椅子に掛けて眺めていた感心したような様子で、物質交換…と呟いた。

「へー!その能力過去でも使えるんだね!」
「そうみたいだ。たぶんこの時代のホテルにもグレゴリーさんがいるんじゃないかな。厄介だね…会わなきゃいいけど」
「えっなんでだい?」

ボクが尋ねると三人が呆れたようにこちらを見ながらため息を重ねた。

「タイムパラドックスが起きるからだよ」
「タイムパラドックス…ってなに?」

首を傾げて聞き返すとボーイが肩を大きく落として頭を抱えた。

「…そこからか」
「あのね審判。おいら達、本当はこの世界にいないはずだよね。それなのにいないはずの未来のおいら達が過去で知ってる人に会ったりするとすごくマズいんだ」
「どうして?」
「いないはずのおいら達と出会った影響が過去だけじゃなく歴史も…未来まで書き換えちゃうから、最悪おいら達のいた時代が無くなって帰れなくなっちゃうかもしれないんだ」
「え!?じゃあ…」

嫌な汗が出てきそうな気分でそろりとヤングマスターを伺うと、マイサンとヤングマスターが口を揃えて否定した。

「父ちゃんのことなら心配しなくて大丈夫」
「左様。わしの事は勘定に入れんでいい。理由はこれから説明してやる」

ヤングマスターが困惑しているボク達を見下ろして愉しそうににやりと笑う。

「どうやら何も知らずに来たようじゃな…そろそろ説明をしてやろうか?」
「「「お願いします!」」」



_________
だいぶ長くなったので一旦切りました。タイムスリップものはパラドックスの説明が面倒でしゃーないですね!
次回はヤングマスターのタイムスリップ講座と余裕があればアイツがまた出てきます。
お楽しみに!



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ