リターンズ2

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午前8時12分。
手分けして探しているうちに不意に目に止まったマイサンの工具箱に、僕はようやく前回にも存在した『謎』の事を思い出した。

複雑な思いでドライバーを手に取ると、タイミング良く審判がそういえばさーと雑談めいた口調で口にした言葉に前回のトラウマがよみがえる。

「あの時は凄かったね!ほら、ボーイがマイサンのドライバーを取っちゃった時!カンカンになったクロックマスターに追い回されてさー」
「…あれか。あれはちょっと事情があってね。まぁそれで結果的にマイサンの持ってたタマシイと交換出来たけど…その事で審判、君に聞きたい事が」
「何だい?…うわっ!!」

うっかりすきま風の吹くあの板壁に手をついて寄りかかってしまい、審判が板壁に大穴を開けて向こう側へと倒れ込んでしまったことで会話が途切れた。

相変わらずこっちの話を聞かない…。
まぁ今のはこちらの切り出すタイミングも悪かったのかもしれないが。
小さくいてて…と聞こえてきた声からして、とりあえず大きな怪我はないらしい。

「大丈夫かい?審判」
「大丈夫大丈夫…それよりボーイ!見てよこれ!すごいの見つけた!」

興奮した審判に呼ばれて僕が穴を通り抜けると、そこにはほんの少しの広さの庭のような場所に枯れた一本の木と…古びた大きな機械があった。

「これは…一体なんだい?」
「さぁ…大きな機械だなぁ!」

謎の空間に謎の機械。興味をひかれた僕は機械をよく観察した。

機械には大小様々なメーターやレバーがひしめいている。左側には直径一メートルくらいのパネルの敷かれた円形の台のようなモノが併設されていた。低い柵で囲まれたその台は以前地下で見た審判小僧の吊り椅子の発着乗り場に近い見た目だが、空を仰いでも濁った色の分厚い雲が覆っているだけでレールのようなモノはない。保存状態も良くない。

「錆びてる…あまり手入れされてないね、雨晒しになってたみたいだ」

裏に回っても製造年月日や機械の名称すらない。恐らくは誰かの手製だろう。用途は不明だが、こんなに立派な機械なのに勿体ない。

「それにしても物置の奥にこんな裏庭があったなんて…地図にも載ってないよ」

僕がそう言えば審判は目をキラキラと輝かせて辺りを見回す。

「もしかして秘密基地かな!?」
「誰の?グレゴリーさんの?」
「うーん…」

僕達が首を傾げていると背後から怯えと警戒の混じった声がした。

「誰っ!?そこで何をしてるの!?」

振り返るとそこにはマイサンが訝しげな目をして立っている。

「あっ!そのドライバーは…!」
「あっ」

僕の右手にはうっかり持ってきてしまったマイサンのドライバー…。
青ざめる僕に審判が呑気に状況を分析する。

「なんだか…まずいことになっちゃったねぇ…」



ボーイがドライバーを持ってると気づいてからのマイサンの行動は早かった。

「返して!それはオイラのだよ!オイラが父ちゃんからもらったドライバーなんだ!!」
「ちょっとマイサン落ち着いて!!うわッ!」

なだめようとして近寄ったところ興奮したマイサンに突き飛ばされボクは背中から機械にぶつかった。下敷きにされたレバーが下がった拍子にボキリと折れる。
バチバチと音をたてて火花が飛び出しはじめたのを見てボクは慌てた。

「うわぁまずい…今もまずいけどますますまずいよ!二人とも逃げなきゃ!」

二人を避難させようにもボーイは乗り場みたいな台の上までマイサンに追い詰められてしまっている。

「違うよ取ったりなんかしない!ただこのドライバーについて君のお父さんに聞きたいことがあったんだよ!!」
「あっ!よく見たら君…ボーイだ!変装までして…またオイラのドライバーを盗む気だね!?」
「ちがう!!…いいからこれを見てくれ!」

ボクが乗り場(仮)まで駆け寄った時、業を煮やしたのかボーイが何故かマイサンのドライバーを赤いグリップから引き抜いた。

「あっ!何するんだい!!」

マイサンが抗議の叫びをあげる。ボーイがグリップを外した下には細身の持ち手があった。そこには引っかき傷でつけられた図形…いや、文字のようなモノが彫られている。

「ここに彫ってある文字…なんて書いてあるか読めるかい?私には読める。これは『ひらがな』なんだよ。日本語だ。ここに書いてあるのはね、私の…現実での名前だ。これは…現実で私が子供の頃に使っていた物だ」
「そんなの知らないよ!父ちゃんが特注で作ってくれたんだ!傷をつけたの!?もう許さないぞ…」

マイサンの怒りとシンクロするみたいに乗り場(?)のパネルが青く光り始めた。本格的にまずいったらないよ!

「ホラーショーなんか後にして!!二人とも逃げなきゃ!」

仕方なく乗り場(たぶん違う)の上に上り、ボクは二人の腕を掴んだ。

「傷の位置も同じ…君のお父さんは…クロックマスターはこれをいったいどこで手にいれたんだ!?」
「あーもーッ!二人とも話を聞いてよーーーッ!!」

午前8時29分。

「タイム・イズ・マネーーーッ!!」

マイサンが叫んだ時、ホラーショーよりも先に恐ろしい爆発音がしてボク達は白煙と爆風に巻かれた。

「「「うわあああーーーッッッ!!」」」」


乗り場(恐らく違う)ごと吹っ飛ばされるんじゃないかという激しい振動のわりに、破片ひとつ当たることはなかった。…皆その場にへたりこんだせいで乗り場(なんと無傷!)の手すりに頭をぶつけたけれど。

「あいててて…だから早く逃げようっていったのに!」
「ごめんよ審判…マイサンも大丈夫かい?」
「…変だ…何かおかしいよ…」

マイサンはまだ座り込んでいた。ホラーショーをしようとした途中で爆発なんかしたものだからビックリしたのか目を回している。

その時、白煙の中で人影が動いた。

「なんじゃ、余分なモノが三つもくっついてきおった」
「どなたですか?怪我は…」

ボク等の他にも人がいたようだ。もしかして爆発に巻き込まれたかと思ったのかボーイが緊張した声で安否を尋ねるが、相手は余裕たっぷりに答えた。声からしてたぶんシェフくらいの歳の人だと思う…けれど何故かどこかで聞いたような声だ。

だけどその正体はすぐにわかった。

「わしか?わしは偉大な発明家であり、時の魔術師!クロックマスター!!」
「「「…え?」」」

白煙の中から現れた自称クロックマスターには髭がなかった。酒に酔ってもなかった。二日酔いでもなかった。しかも…その姿はシェフと同じくらい若かった。

「クロックマスター?え、どうしたのそのアンチエイジングっぷり…」
「ん?なんじゃお前ら『未来の』わしの知り合いか!!」

豪快に笑うクロックヤングマスター。
何が起こったのか理解できず…いや、理解したくなくて呆然としているとボーイが突然慌て出した。

「し、審判。あの木ッ!」

振り返ると枯れた木があった場所には青々と緑の葉を繁らせて若い木立が植わっている。見上げれば気が遠くなりそうなほど澄んだ青空。爆発したはずの機械は錆ひとつ無く、真新しい。

…開いた口が塞がらない。
その時、ようやく呆気に取られていたマイサンが口を開いた。

「…と、父ちゃん?」

その言葉にクロックヤングマスターが眉を潜めて心底嫌そうに、決定打となる台詞を吐く。

「父ちゃんだと?何を言っとる。わしはまだ『独身』じゃッ!!」

マイサンが目を丸くしている。的中した嫌な予感にボーイとボクは声を揃えて絶叫した。

「「な、なんだってーーーーーーッッッッッッ!!?」」
「おいら達…過去に来ちゃった…」

どうしよう…というマイサンの声が小さく聞こえた気がした。



何かをやり直したいと願い、たとえ過去へ行くことが叶ったとして…過去という別世界での選択の結果から都合のいい現在を選び出すなど、不可能に等しい。


――――――――
お待たせしました3章…時計親子編スタートです。

携帯ゲームの方のタイムマシンからずっとやりたいと思ってましたバックトゥザフューチャーでヤングマスター登場。

しばらくガールと引き離されしかも連れはマイサンと審判。果たして現在に帰れるのか…頑張れボーイ。




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