リターンズ2

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「それなら吊り椅子ごと落としてるよ。5トン錘を着け直するのは面倒だから玄関マットにするのは勘弁してあげるけど君には酷い目に遭わされたからね」
「貴様…!!」

ミラーマンがボク達に向かって声を荒げている。目を疑う光景の連続にグレゴリーが焦り声でミラーマンに問いただした。

「ミラーマン…これはどういうことじゃ!何故お前が彼奴等を知っておるッ!?」
「あーもーうるさいわねぇ!ちょっと黙ってなさい★」

エンジェルドッグがステッキを振った途端、ぼわんと煙に包まれたグレゴリーが簀巻きにされる。気のせいか鼻まで塞がれていたような気がした。…静かに青冷めていくグレゴリーの姿にワイヤーが切れて全く動けないケイティが怯えている。

そんな事はお構い無しに満面の笑みを咲かせたガールがミラーマンの前に立った。

「こんにちはミラーマン!4日ぶりね!それはそうと貴方確かここから出たがってたわね?」
「それと今のこの事態と一体どう関係が…ぐえッ!」

ガールが笑顔のままミラーマンの襟首を掴む。そのまま絞め落としちゃえばいいのに…と呟いた途端ボーイとエンジェルドッグが一歩後ずさった気がした。多分これも気のせいだろう。

ガールは住人も真っ青な冷たい声で質問を繰り返した。

「…質問に質問で返さない。疑問文には疑問文で答えない。学校で習わなかったのかしら…?出たいの?出たくないの?」
「で…出たい!出たい出たい痛い!」

悲鳴のような声で答えたミラーマンの肯定にガールがパッと殺気を放つのを止めてミラーマンの襟首から手を離す。

「じゃあ協力してね!魔法の鏡さん」
「…協力?」

ガールがミラーマンに事のあらましと作戦内容を説明している。

「協力しなければ良かったのに…あんな奴割っちゃえばいいのに…」

ガールの指示通りに鏡を運びながら独り言を呟いたら、また一歩ボーイ達が後ずさった気がした。




指先ひとつ動かせない状態でケイティは覚悟を決めていた。なんとなく漠然と、いつかこんな日が来ると感じていた。思ったよりも早いなとは感じたがそれでもロストドールと一緒に消滅出来るならば幸せな死かもしれない。

「思い残す事はあるかしら♪」

エンジェルドッグが面白そうにこちらをのぞき込んで来るがワイヤーの切れた状態ではどうすることも出来ない。ケイティは全てを諦めて暗い声で答えた。

「そうね………ロストドールに、人形探しばっかりさせていたわ。こんな事なら…もっと幸せな欲望を持たせてやれればよかったわね…」
「あら、それは無理ね!アンタはケイティでロストドールじゃないもの。他人が何を一番幸せに感じるかなんて変えようがないわ★」
「ふん…正論過ぎて言い返す言葉もないわ。これだからアンタ達は嫌いなのよ」

準備を終えたガールがやってきてケイティに語りかける。

「ケイティ。もう一度聞くわよ…ロストドールに会いたい?」

最後の望みは最初から決まっていた。





ロストドールが目を覚ますとそこは食堂ではなく不思議な場所だった。

曇りひとつなく磨かれたキラキラ輝く鏡達。ロストドール自身はふかふかした丸椅子の上に座っていた。なぜか体が動かない。

目の前にはエンジェルドッグと審判小僧、それに見知らぬ男女がいた。絵本で見た魔女みたいな格好をしている女の子は前に人形をくれた少女…ガールに似ている。絵本の魔女とは違って全身がピンク色だったけど。
その隣にはネズミの耳が生えた…ボーイによく似た人がいた。ジェームスのおじさんかしら…?

そして…二人の奥の椅子には絵本で見た王子様のような格好をした男の人が座っている。なんだか不安になって彼女は尋ねた。

「だれ?ここは…どこ?」

すると奥の椅子に座っていた男の人が立ち上がり、ロストドールの手を取る。

「オレか?オレはこのホテルの家宝。ミラーマン…真実の姿を写す真実の鏡だ。だが写せるのは真実だけじゃない。望んだ場所ならどこでも、どんなに遠く離れていようとも…そこに鏡がある限りオレの目は届く」

手の甲にキスをされてロストドールが内心モジモジと焦っているとピンク色の魔女がロストドールに話しかけてきた。

「ロストドール…ケイティに会いたい?魔法使いミラクル☆ガールちゃんが叶えてあげるわよっ!」

ロストドールは力強く頷いた。
以前エンジェルドッグに頼んだ時は急に眠くなってしまい、結局ケイティとは会えないまま…なぜかその後エンジェルドッグにも全然会えなくなってしまった。
だがそのエンジェルドッグも今日はいる。なかなかすれ違ってばかりで会えない審判小僧もいる。

「今日は魔法使いの集まりなのよ☆それでアンタの話をしたらこのミラーマンがケイティに会える魔法をかけてくれるって♪」
「本当に!?」
「ええ!だからまずはとびっきりのオシャレしなくちゃ!」

エンジェルドッグがロストドールに向かって杖を一振りすると、いつものお洋服が綺麗な緑のドレスに変わる。三つ編みに使っているリボンも可愛い真っ赤なリボンになった。

「それじゃあ魔法をかけるぞ!目を閉じて3数えるんだ。1…2…3!さぁ目を開けろ!」

目を開けた途端、そこには大きな鏡台があった。ビックリしたロストドールはその鏡の中の自分の後ろに会いたい人がいることに気がつき、大きく目を見開いた。

「オレは真実の鏡。鏡のある場所ならばどんな時代、どんな世界だって写し出せる。…世界で一番遠い場所でもな」

ミラーマンの言葉に鏡の中のケイティが苦笑を浮かべて口を開いた。

「…久しぶりね、ロストドール」
「ケイティー、ケイティ!!」

鏡にすがりつきたいのに、体は動かない。頬に流れる涙も拭えず俯くことも出来ずにロストドールはただ涙した。

「バカね、泣くんじゃないわよ…」
「ケイティ、元気だった?今どこにいるの?」
「アンタに世界一近くて、世界で一番遠いところよ…。ロストドール…アンタが無くしたお人形はね、皆アタシのところにいるわ。だからね、もう探さなくてもいいのよ」

ケイティが微笑んで言った台詞にロストドールは叫んだ。

「いや、いやよ!ケイティに会いたい!あたしもケイティと一緒にいたいの!どんなに遠いところでもかまわない!絶対に探しにいくわ!」
「!ロストドール………焦らないで。アタシの心は…魂はずっとずっとアンタと一緒にある。アンタはまだ子供よ。皆といっぱい遊びなさい。好きなことをして、色んなことをして…そして大きくなったらいつの日かまた会う時が来るわ…だからそれまで、笑っていて。ロストドール」

滲む視界に目を凝らすとケイティの瞳にも涙が光っていることに気がつきロストドールは泣きそうになるのをこらえて無理矢理に笑顔を作った。

遠く離れた愛する者に向けて、最大級の愛を込めて。

「…うん!ケイティ、いつか絶対見つけてあげる…待っててねケイティ!」
「ええ。待ってるわ。ずっと…ずっとここで…ロストドール…大好きよ…」
「あたしも、ケイティが大好きよ…!」


涙に滲む視界にケイティの笑顔が写ったのを最後にロストドールは眠りの中に落ちていった。


「…ありがとう。もういいわよ…髪型と服、元に戻して貰えるかしら?」

ピタリと泣くのを止めてぶっきらぼうに言うケイティの目元をハンカチで拭いてからエンジェルドッグが笑う。

「あら、気に入らないの?せっかくあげようと思ったのに。夜中の12時にはまだ早いわよ♪」
「分からないの?両面前身ごろの服じゃ脱いだらバレるでしょ」
「あらら、まぁでもそれなら髪型は戻さなくていいわよね?」
「…勝手にしてちょうだい」

素直じゃない二人が素直じゃない会話を繰り広げている横でミラーマンがふて腐れている。

「魔法でただの二枚の鏡を前と後ろに置くなんて…ギリギリ真実だぞこんな方法!」
「合わせ鏡ならぬ会わせ鏡だね!」
「上手いこと言ってんじゃねーよ腹立つ」
「まぁ人助けだと思って我慢してくれただけでありがたいよ」

不機嫌なミラーマンをなだめながら、ボーイがグレゴリーを縛りあげていたロープを回収する。

「とはいえ…ミラーマンは自分の欲望を制御して『ロストドールの真実の姿について口出し』しなかった。これでもうミラーマンが会ってはいけないような人物はホテルにはいないと思うんですが…どうですかグレゴリーさん?」
「ミラーマンの鏡でロストドールはいつでもケイティに会える。勿論、ロストドールがあれを魔法の鏡と信じている限りはケイティを見つけることは出来ないから二人は安全。そのためには魔法使いミラクル☆ミラーマンの存在を皆が知ってる必要があるけどね!」
「!…いや、その呼び方だけはやめろ!!」

二人の言葉に彼らの行動の真意に気がついたミラーマンが驚愕する。グレゴリーは渋い顔で忌々しそうに全員を眺め…深い深いため息をついた。

「もしも彼奴が欲望を抑えきれなかった時には責任をとるためにここにいる全員の魂を頂戴いたしますよ?それでもよろし…」
「外に出られるわよ!やったねミラーマン!」

話も終わらないうちに歓声を上げるガールにグレゴリーがまた大きなため息をついた。そのあと何か言っていたようだが喜んだガールがミラーマンを絞め落としたことや隣の金庫室から番人達がやってきた騒ぎで何も聞こえなかった。


グレゴリーは喧騒を眺めて呟いた。重々しい気分がのしかかってくる。

「確かに。もうすでに…出会ってしまったのならば彼奴を幽閉する意味などない………審判小僧ゴールドにバレなければよいが…」


ミラーマンが『審判小僧』に出会ってしまったことに…


_______
お待たせしました57………58話!(分割が多くて自分で何話目か忘れていた奴)

審判にも段々とミラーマンに対して辛辣な部分が出来てきました。彼らの関係はジョニィとディエゴです。そのこころは馬が合わない。
何やら物騒な予感がしつつもロストドール編、ミラーマン編攻略クリアー!

さて次回はなんでガールピンクなの?とミラーマンは何をしたの?の二本です。ちなみにミラクル☆ガールちゃんの衣装はまんまおじゃ〇じょを想定しています。世代なんだ諦めてくれ。

あともうひとつ残念なお知らせがあります。説明が終わると三章に入ります。なのでおふざけ回は当分控えめです(当社比)
テンションのジェットコースターに注意してください。


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