リターンズ2

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本当かどうかは知らないけどねと前置きをしてエンジェルドッグは語りだす。ロストドールの物語を…。

「ロストドールはね…アタシと似たような経緯で迷いこんできたらしいわ♪あの子も生まれながらにして現実でも魔法使いだった。魂が前世で魔法使いだったのか、先祖から遺伝的に魔法使いの素質があったのかは知らないわ♪でも事実、ロストドールは『魔法使い』だった…」

優秀な人形師の家系に生まれ朝から晩まで精巧な人形を作っていた少女。天才的な技術とその身に眠っていた魔法使いとしての素質。

その二つがやがて幼い彼女の人生に悲劇を引き起こした。

「あの子は…とうとうただの人形に命を宿らせてしまった。それが『ケイティ』よ。フツー、魂を持った人形なんて気味が悪いと思うでしょ?それでやっぱり人形は父親の手によって捨てられてしまったの★そしてロストドールは人形を追いかけて…この世界に迷い込んだんですって」

すごいわね!感動よね!執念の勝利よね!とまるでアスリートの活躍を誉め称えるかのような口振りで突如興奮したエンジェルはピタリと口を閉ざし哀れむような声で続ける。

「でも人形を探すうちにあの子は肝心の『自分自身』を見失ってしまった。人形があの子を見つけた時にはもう…あの子はただのさまよう魂になりかかっていた…このままだと魂を食べられてしまう!」

そうしてデビルドッグは子供のように嬉しそうに物語の結末を叫んだ。

「だ・か・ら合体したのよォ〜☆人形は怨念の力で女の子の魂を自らの体に縛り付けた!それが『ロストドール』…自分が探し求める人形自身になったことも分からず…永遠に見つからない人形を探す女の子」

クスクスと小悪魔が笑い声を漏らす。話に聞き入っていた誰もが青ざめていた。

精巧な一体の人形の体に二人分の魂…。

「そうか…頭の後ろにもう一つ顔があったから審判の尾行にも気づいたんだな!?」
「そういうこと☆ついでにいうならケイティはロストドールにずっと体の主導権を任せてるけど元々ケイティの体だからね。ロストドールが眠ったりロストドールに危害を加えようとしたりすると交代するの★交代してる間の記憶はロストドールにはないみたいよ〜♪」

種明かしをするエンジェルにガールがはいはい!と手を挙げて質問する。

「よく知ってるわねエンジェル!」
「そりゃあそうよ…だって本人からそう聞かされたんですもの!『人形を探す女の子に起きる奇跡!感動の再会♪』なーんて素敵デショ?だけど奇跡の力で探してあげようとした途端ケイティが現れて…余計な手出しをするなー!ってね…★あとは審判と同じような展開よ☆」

ガンマンが呆れたように肩をすくめた。

「本人から聞いたのか…なるほどそりゃあ詳しいわけだ!」
「エンジェルドッグは奇跡を起こすのが本当に好きなんだねー。相手の都合とか気持ちはいっさい考えないで!」
「はぁッ!?アンタが言うんじゃないわよ審判小僧!」

ケンカになりそうな気配を感じたボーイが話題を反らすように軌道修正しようと残りの疑問点を口にする。

「でもケイティはどうして審判を攻撃をしてきたんだろうね?親しくない審判小僧といったいどんな約束をしたんだろう。それにロストドールを守ってるわりには彼女が大切にしてる人形を盗んだり…いったい何故そんなことを?」

その言葉にエンジェルドッグが吹き出した。心の底から可笑しくてたまらないという風に空中を笑い転げる。

「あら!なんだアンタ達全然分かってないのねぇ〜☆たぶんケイティは審判小僧は審判小僧でも…ゴールド辺りと約束したんじゃない?『ロストドールと接触しない。ロストドールのお人形の行方をジャッジしようとしない』…とかね?ケイティにしてみたら住人達の中でも審判小僧ほど怖い存在なんてないもの★」

まさかの人物の名前に審判小僧が驚いて声をあげる。審判小僧ゴールドは彼の師匠と言える存在だ。

「えっ!?どうして親分がケイティとそんな約束を…」
「バカねぇ!ロストドールの欲望は『ケイティを見つけたい』って事よ?この世界の住人は満たされない欲望を抱えて生きてるの。だからこそ『存在できてる』んじゃない☆ロストドールは永遠にお人形を探し続けなきゃいけない。そのためには代わりの人形なんて邪魔なだけよ★」
「それは…いったいどういう意味だい?」

皆が感じていた嫌な予感をエンジェルドッグは見事に的中させた。

「アタシ達は皆グレゴリーの能力でこの世界の『住人』として認められているから、たとえどんな目にあっても満たされない欲望があり続ける限り…生きるための『存在意義』がある限りは何度でもやり直しがきくの☆その代わりに欲望が叶って満足しちゃったり、自分の存在意義を見失ったりしたらただの迷界の一部に混沌に戻っちゃうのよ★そしたらさまよう魂になってこの世界に食べられて…二度と『自分』として蘇らない」

知らず知らずのうちに顔から血の気が引いていく。審判が青い顔で愕然としている。

「………それじゃあ、ロストドールは…」
「だからケイティは『審判小僧』に攻撃をしてきたのか…」

それきり皆が何も言えないでいるとガールが首をひねる。

「えっ、どうして皆今の説明で全部分かってるの!?」
「ガール…アンタは目の前で実際にアタシが消えかけたの見てたじゃないの!まったくもぅ★」


つまりねぇ、と天使はニッコリ微笑んで改めて衝撃的な事実を告げた。


「お人形を見つけたら、ロストドールは消えちゃうのよ」



―――――――
お待たせしました!長くなったので分割しました…さまざまな人物の思惑入り乱れるロストドール編。

ロストドールが他の子と一緒に遊んだりしないのは、キャサリンやグレゴリーが他の住人に深入りしないように忠告したのはこんなわけです。再会はそのまま終わりを表す。
さてこのシリアスムードにボーイとガールはいったいどうするのか!すでにもう嫌な予感しかない!

次回!奇跡(物理)も魔法(物理)もあるんだよ!お楽しみに!



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