リターンズ2

□53
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「そういえばアンタ達、誰かあの子のホラーショー受けたことある?」

審判がロストドールを尾行しているちょうど同時刻…またもボーイの部屋に集まって作戦の首尾について話をしていた時、突然エンジェルドッグが口にした言葉に一同は首を横に振った。

「ん〜…私達がされたことあるのはキャサリンとミイラ親子だけね!シェフやルーレット小僧にもギリギリでされかかったけど…」
「うーむ…ロストドールはいつも泣いてばかりだからな」
「わたしもあの子が怒った姿は見たことがないわ」
「ロストドールもホラーショーを?審判大丈夫かな…」

部屋の中の誰もがロストドールのホラーショーを体験したことがないと知りエンジェルドッグはニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。

「うふふ☆なぁんだ皆知らないのね〜?あのね♪あの子のホラーショーはぁ…」




夜更けのグレゴリーハウス。
二階にあるロストドールの部屋の前で張り込みを続けている審判のもとへ、サンドイッチとスープを持ったシェフが首尾はどうだと訪ねてきた。

「差し入れ…食え〜…」
「わぁ、ありがとうシェフ!でも次からはあんパンと牛乳がいいな!」
「…次があるのか…?」
「もちろん!犯人が現れるまでやるからね!」

とはいえ、朝から尾行をしていた審判もさすがに疲れたのだろう。
モニターになっているレプリカのハートを閉じ、天秤籠にしまうと肩をバキボキと鳴らしてため息をつく。

「ロストドールも寝ちゃったし…ドアには鍵も怨念もしっかりかかってる。おまけにお人形はぐっすり眠っているロストドールの腕の中。これじゃあ人形を盗むなんて誰にも出来ないよね」

まったく動きがなくてふて腐れる審判にシェフは尋ねた。

「審判…まだ寝ないのか〜…?」
「うん。刑事は忍耐だってヤマさんも言ってたから!」
「…そうか…」

『ヤマさん』とは誰だろうかとぼんやり思いながらも料理に関係ないモノならどうでもいいと思考を切り捨てる。シェフにはそれよりも気になっていたことがあった。

「なぁ審判…」
「大丈夫!ロストドールのためにもボク絶対真犯人を見つけてやるんだ!」

力強い笑みを浮かべて宣言する審判小僧に、シェフは言いかけた言葉を飲み込んでわずかに目を見張る。

「…意外だ〜」
「え?」
「いつもジャッジ以外は手助けも邪魔もしない…中立のはずの審判小僧が誰かのために動くなんて…珍しい〜…」
「そうかなぁ?ボク結構ジャッジ以外でもみんなのお手伝いしてると思うんだけど」

審判のいう『手伝い』が実際に役に立った試しがあっただろうか…と考えこんだシェフは思い出すうちになんだかどっと疲れた気がしてそろそろ休むことにした。

「先に寝る〜…食器、片付けていいか〜…」
「うん、ごちそうさま!ありがとうシェフ!おやすみ!」
「おやすみ〜…」

食器を持って階下に向かうシェフを階段まで見送った審判が戻ってくると…なぜかロストドールが部屋から出てきていた。

「…なんだろう?起こしちゃったかな」

咄嗟に曲がり角の壁に隠れて様子をうかがっているとロストドールはふらふらとした足取りで廊下を奥へと進んで行く。その手にはお人形が握られている。

審判は籠からレプリカハートを取り出してモニターを開いた。お人形についたカメラからの映像を頼りに尾行を再開する。

その時、前を歩くロストドールの様子に何か違和感を感じた。昼間はあんなに大事そうに胸に抱き締めていた人形を今は片手で持ってぶら下げている。それに歩き方もなんだか覚束ない足取りで…さながら夢遊病者のようだ。

カメラの角度の問題で人形のカメラからはロストドールの顔は写らない。だが彼女の行き先をきちんと示してくれた。

「中庭…?」

月明かりに照らされたロストドールはまっすぐに中庭の一角へと進んでいく。

充分距離を取ってからこっそりと扉を開けて中庭へと出ると、ロストドールは審判の目の前でお人形を焼却炉に放り込んだ。

「あッ!」

思わず声をあげてしまった。静寂に包まれた中庭でロストドールはこちらに背を向けたまま…静かに呟いた。

「昼間から尾けてきてたわね…いったい何の用かしら?審判小僧」

…バレていたのなら仕方ないと審判小僧はロストドールの近くへ駆け寄り、問い詰める。

「お人形が無くなったのは全部、君の自作自演だったのかい!?何故こんなことをするんだロストドールッ!!」

非難の言葉を浴びせられても振り向きもせずロストドールは肩を震わせて首を横に振った。

「ロストドール?ちがうわ。アタシは『ケイティ』…ロストドールの探している本物の『お人形』よ」

そういってロストドールの後ろ髪をかき分けて現れたもうひとつの顔が審判を嘲るような笑みを浮かべる。

審判小僧は今まで知り得なかった『もう一人の少女の存在』に驚愕した。

「な…なんで…」
「ねぇ約束したはずよ審判小僧?アタシ『達』のことは、放っておいてくれるんじゃなかったの?アンタ達が先に約束を破るのなら仕方ないわよね…」

明確な敵意を向けてケイティが指先を閃かすと、審判の足元…柔らかい土の中から壊れた無数の人形達が姿を表した。

「アンタもお人形にしてあげるわ」


月明かりの下、ロストドール…ケイティのホラーショーが始まる…。




―――――――
お待たせしました53!
前回から伏線強化期間なのでずれ込んでしまいましたが今回こそはケイティさん出番です!
ゲームとやや矛盾しますが、諸事情により今現在ケイティの存在に気がついているのは一部の住人のみという設定になっています。真犯人につきましては本当にもう皆さんも予測通りかと思います。
それにしてもさすが審判、「真犯人に逆に追い詰められる」という推理モノの王道を行ってくれましたね!ゲームオーバーの文字が脳裏をちらついているよ!

次回、ケイティのホラーショー!〜これ無傷で生還できるやろうか?〜
お楽しみにね!


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