リターンズ2

□52
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もしも誰もが皆、人形劇の人形のように操られているのだとしたら…その糸を引いているのは誰なのだろうか。
そしてその誰かは…どんな意図をもって、僕達を操っているのだろうか…。




医療に携わる者として『朝はちゃんと食事を摂る』という心得を守り食堂を訪れたキャサリンは、先に食卓についていた少女の姿に目を留めた。

昨日とは打って変わった嬉しそうな様子の少女。その腕に抱かれた真新しい人形を見つけ…少し気になって彼女は少女に声をかける。

「あらぁどうしたのロストドール?ずいぶん御機嫌ねぇ〜。お人形さん見つかったの〜?」
「キャサリンおばちゃん…これ見て!」

頬を赤く染めてもじもじとしながらロストドールはポケットから一枚の手紙を差し出した。受け取って開いてみると、彼女もよく知る筆跡でこんなことが書いてあった。

『ロストドールへ 前にプレゼントしたお人形さんは迷子になってしまったとききました。わたしたちが代わりにお人形さんをさがすから、それまでこの子をあずかってください!大切にしてね! 〜ボーイとガールより〜』

「ふぅん…良かったわねぇロストドール!大事にしてあげるのよ?」
「うん!」

朝食を終えバイバーイと元気に手を振って二階へと上がっていくロストドールを見送り、キャサリンは頬に手を当てて苦笑した。

「あの子達…プレゼント作戦はもうこりごりなんじゃなかったのかしら〜…あら?」

視界の端に映る柱の影に特徴的な三色を見つけ、キャサリンは真顔で呆れてしまった。なんとなく想像はついたが一応近づいて声をかける。

「審判…貴方また訓練サボって今度はいったい何してるのよ?」
「しッ!静かにキャサリン!それから、今のボクは審判小僧じゃない…ボーダー刑事さ!だから訓練はおやすみなんだよ!」
「ま〜たアンタは練習サボって変な遊びして…『あの人』が帰ってきたら怒られるわよ〜」

予想通りのよく分からない回答にキャサリンはため息をついて肩をすくめた。

「まぁいいけど…せいぜい見つからないようにするのね〜。あの子人見知り激しいし、見つかったら絶対変質者だと思われるわよ〜」
「大丈夫!ボーダー刑事は尾行のプロなんだよ!」
「…あらそう」

確かに、普通はこんなに派手な格好した子をまさか尾行者だとは思わないでしょうねぇ〜…と小声で呟いた後、キャサリンは思い出したように続けた。

「そうだわ…あの二人に伝えといてちょうだい。『昨日のことはまだママにはバレてないみたいだから心配要らない』ってね」
「えっ?どうしてキャサリンがそんなことを知ってるんだい?」

驚きのあまり声をあげる審判に尾行の自覚があるのかしら…と考えながらキャサリンは静かに説明する。

「昨日アンタ達が地下に落ちた後、グレゴリーに呼ばれてママの部屋まで『往診』に行ってきたのよ〜。ママったら酷い頭痛で寝込んでたの。ちゃんと採血もしたし…一週間くらいすれば良くなるんじゃないかしらぁ〜?」
「さ…採血したんだ…それじゃ確かに治るのに一週間以上はかかりそうだね…」

『採血』という単語に審判小僧の顔から血の気が引いていった。

具合が悪い時にキャサリンに採血されるなんてママも災難だ…。
しかしこうなることも分かりそうなものだが…それでもキャサリンを呼ぶとは本当に酷い頭痛なのだろうか。もしくは、単に日頃の恨みからトドメを刺そうとしただけなのか…ジャッジが出来なくなった今、審判にはグレゴリーの真意はわからない。

「しかしまさかママが病気になる日が来るなんてねー」

ママも一応はヒトなんだねぇ…と審判がしみじみ感想を述べると、キャサリンは唇に指先を当てて考え込んでしまう。

「そうねぇ…でもあれは病気っていうよりも…いいえ、なんでもないわ。それより審判、アンタあの子見失っちゃったけどいいのォ〜?」
「あッ!いけない!じゃあねキャサリン教えてくれてありがとう!!」

慌てて階段を上っていく審判の後ろ姿を見送り、自身も医務室へと行こうと歩き出した時キャサリンは首を傾げた。

「あらぁ〜?そういえば審判…『あの子』のこと、知ってるのかしら」



「ああ良かった。自分の部屋の中にいるみたい」

メイド・イン・ボーイの小型盗聴盗撮機は審判の帽子に着けたドクロバッチ型ともうひとつ…ロストドールにプレゼントしたお人形につけたハートの髪留めについている。今ならなんと発信器つき!というボーイの謳い文句の通り、発信器も兼ねているため見失うリスクは少ない。

「ボーイって本当に器用だよね…器用すぎるくらいだよね…」

腕に下げた天秤籠を見下ろしてため息をついた。実はこの天秤籠の中のハートとダラーは偽物だ。本当はお人形から見える映像の受信機になっている。今度はテレビフィッシュの映像と混線しないように電波の届く範囲が前の物より短いのだそうだ。

だからこそ対象の背後からこっそり尾行し続けなければならないのがデメリットなのだそうだが、その点普段から廊下をうろうろしている審判なら怪しまれずに尾行が出来る、というのがボーイの考えた作戦だ。

他にも映像の暗号化だとか経由基地がどうしたとか記憶媒体がどうだとか…何やらぶつぶつ言っていたが細かいことは分からない。説明されたとしても理解できないだろうし、機械いじりをしている時のボーイに話を聞くのも怖いので止めた。

尾行前、うっかり部屋中の謎の機械について質問しボーイから呪文のような長台詞を聞かされていたガンマンのような勇気は審判にはない。助けを求める視線をしていたような気がするが他の皆のように見なかったことにした。


とにかく今、審判の行うべきことはロストドールのお人形が盗まれる手口と犯人を明らかにすることだ。

ボーイ達のためにも、ロストドールのためにも…なにより『ジャッジが出来なくても自分には見事に事件を解決するだけの力がある』とみんなに証明してみせるためにも、絶対に犯人を捕まえてみせる!と息巻いて審判は張り込みを続けた。

「それにしても…刑事ドラマじゃ見たことないけど、現実の世界には追跡眼鏡なんてものがあるんだね!すごいなぁーこれがカソウケンの技術力なのかぁ…」


やや現実世界の常識をもオーバーしたテクノロジーにそうとは知らない審判が感心していたちょうどその頃…地下ではグレゴリーママがうなされていた。

「うう…ひどい目にあったよ!よりによってキャサリンを呼ぶなんて…どれだけ馬鹿な息子なんだい!」

ガンガンと痛む頭を押さえながらベッドでふせっているママの元へと水と頭痛薬の乗った盆を運びながらグレゴリーは大袈裟に頭を下げる。

「おぉママ…申し訳ございません!ですが万が一、ということもありますので…」
「ふん!このアタシが病気なんかにやられるわけないよ!」
「えぇ…その通りでございます。しかし万が一…万が一…トドメがさせればと…」
「なんか言ったかい?グレゴリー」
「いいえママ空耳でございましょう」

八つ当たりも込めてグレゴリーの頭を愛用の杖で強打し、ママは舌打ちして鼻を鳴らした。

「ふん、まったく…活発に動き回る魂の数が増えたからかねぇ?『祭り』が近いとこれだからイヤになるよ!」

自身の叫びでもって再び痛みが増す額を押さえながらグレゴリーママは眉をしかめて目を細める。

「…あるいは…誰かがアタシの術に干渉をしているのか。どうもおかしいね…新しい魂が迷いこんだ気配はないし…それに、コイツはどうにも『懐かしい感覚』だ」

グレゴリーママはニヤリと口の端を引き上げた。

「どうやらとんでもない『ネズミ』が紛れ込んでいるみたいだねぇ…グレゴリー…分かっているね?」
「ええママ。勿論でございます…」




人形が互いに糸を引く。
交錯した糸は絡まり蜘蛛の巣のように張り巡らされ、知らぬ間に突き進んでしまえばすぐに絡み取られる。
僕達はもう、抜け出せない。



――――――
お待たせしました52!
尾行大作戦の開始と、楽しいグレゴリーさん一家サイドの中継です。
ママ、初登場から頭痛だってよ…。

ここにいたるまでにも色々な人々の思惑やらなんやらが飛び交ってますんで一回くらいちゃんとグレゴリーさんサイドも映しておかないとなぁと。

次回からはロストドールを本格的に攻略!主人公達にも真面目に蜘蛛の巣に突っ込んで貰います。

次回、新連載(嘘)迷界探偵審判!真実はいつも二択!「審判小僧、天秤さ…」
※実際の次回予告とは異なります


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