リターンズ2

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あなたが叶えたいのはどんな望み?
その望みを叶えた結果、何が起きたとしても構わないという強い覚悟が…あなたにはあるのかしら?



なんとかパブリックフォンを追い出した後、喜びを分かち合うのもつかのま牢屋の前を通りかかったグレゴリーによって一同は解散させられてしまった。

追いかけ回されたり深い穴に落下したりホラーショーを受けたりと…一日中酷い目にあっていたことや、そろそろ夜も遅い時刻になっていたことからボーイとガールはあくびまじりにそれぞれの部屋へと帰っていく。

グレゴリーは閉じ込められたミイラパパの救出へ…審判小僧はシェフとキャサリンに事情を説明してくるよ!とそれぞれ向かったが…ボーイとガールの二人は審判小僧を心配そうな目で見送っていた。気持ちはよく分かったので、エンジェルは審判小僧がうまく説明出来るように祈っておくことにする。後は奇跡でなんとかなるはず…たぶん。


そして一連の事件の真犯人エンジェルドッグは…今、カクタスガールと一緒に地下を歩いている。

それというのも、エンジェルドッグが久しぶりにホテルにも存在する自分の部屋に帰ろうと地下に向かった時、何故か後ろをついてきたカクタスガールが先程エンジェルドッグにバラを突きつけてきた時とはうって変わって哀れなほどパニックになっていたからだ…。

「兄ちゃんが…ガールさん達を探しに地下に行ったまま帰ってこないの…きっと地下迷路で迷ってるんだわーーーッ!!」

蝋燭の灯りを頼りに涙目で震えながらも気丈に真っ暗な地下迷路へとガンマンの救出へ向かおうとするカクタスガールの姿にエンジェルドッグは繭の中で『ネコゾンビをまた悲しませないために戻りたい、またネコゾンビに会いたい』と願った気持ちを思い出し…仕方なく助けてやることにした。

「エンジェル…ここに住んでるのよね!こ、こわくないのッ!?」
「ぜーんぜん?何よ…アンタ、暗いの怖いの〜★」
「怖…くないわ!兄ちゃんがいるもん!それにエンジェルもいてくれるし…」

チラチラとこちらの顔を窺うような視線を横顔に感じながら、エンジェルドッグは前を向いたまま肩をすくめた。

「考えてみたら…アンタも、アタシと一緒なのよね☆あの二人に嫉妬してて…帰ってきて欲しくなかった…。それなのにアンタったら…バカ正直よねー?バラが暴走した理由なんて黙ってればよかったのに…なんで自分からバラしちゃったわけ?」

その途端、カクタスガールの顔から強がるように浮かべられていた笑顔が消え失せる。寂しげな目で、暗闇に満たされた道の先を見つめカクタスガールはぽつりぽつりと答えた。

「わたしは…自分の中にこんなに嫌な感情を抱えたまま、兄ちゃんやガールさん達の隣には立てないと思ったから…。心から笑顔で一緒にいられないなら、どんなに一緒にいても苦しいだけだって気がついたから………そう思ったから、貴女にも話したのよ。貴女にわたしと同じ『卑怯者』になってほしくなかったから…」
「…ふぅん?そうね。確かに…あのままだったらアタシはずっとあの二人に負けたままだったわ。それなら、一回くらいちゃんと負けてあげた方が良いわね☆あの二人が戻ってきたのなら…どうせすぐにまた見返してやれるチャンスはいくらでもあるんだもの!」
「すごいわエンジェル!ものすごい強気ね!」

そう言ってエンジェルドッグは天使のような笑顔を浮かべて見せた。それにつられて、カクタスガールも笑う。


「ふーん…アンタ、結構いい子じゃない☆なかなかルックスも悪くなさそーだし♪ねぇ…よかったらアンタもアタシの友達にしてあげても…」

そっぽを向きながらゴニョゴニョと呟くエンジェルドッグの言葉は残念ながらカクタスガールの耳には入らなかった。

「あっ!兄ちゃん!!!兄ちゃんが居たわーーーッ!こんなに早く見つけられるなんて…!すごいわ!貴女のおかげよエンジェル!!どうもありがとう!」

満開のひまわりのような笑顔で礼を言った後、兄ちゃーーーん!大丈夫ーーーッ!?とガンマンに駆け寄っていくカクタスガールの背を見送り、エンジェルドッグは肩を落とした。

「…欠点があるとしたら…あのブラコンっぷりね…」



二人だけで帰らせると絶対に途中で迷うだろうと判断したエンジェルドッグはそのまま二人を地上まで送っていくことにした。ボンサイカブキのせいで半ばバレていたが、エンジェルドッグはガンマンにも一連の事件の真相を説明しなければならなかったからだ。

しかし真実を聞かされたガンマンはただ呆れたように肩をすくめてみせるだけだった。

「やーっぱりお前の仕業か…相変わらずしょうがないイタズラッ子だなぁお前は」
「…怒らないの?」

ボーイだけでなくガールも酷い目をあわせたことで怒られるとばかり思っていたエンジェルドッグは、ガンマンのその態度に肩透かしをくらって逆に尋ねた。

「被害にあったアミーゴ達本人が許したんだ。それなのにオレが怒る筋はねぇさ。それで、イタズラしてお前の望みは叶ったのか?」

優しい態度でニヤリと意地悪な笑みを浮かべるガンマン。カクタスガールの手前、理由については『二人が現実に戻り、ネコゾンビのそばにいてやらなかったことに対する復讐』ということにしたのだが…きっとガンマンには本当の理由がわかっているのだろう。

自分を分かってくれているのはネコゾンビだけだと思っていたのに…目を開いて周りを見渡せばこんなにも自分を理解してくれている人がいる。
そんな簡単なことにも自分だけでは気がつけなかった。…まさしく、自分の負け。

エンジェルドッグはどこか清々しい気分で首を横に振った。

「いーえ!悔しいけどアタシだけの力じゃ叶えられなかった…。それで存在が消えかけて…ガールのおかげで助かったようなモンよ★」
「そりゃあそうだ!セニョリータは強い!だがそれ以上に…優しい女だからな!自分を陥れたお前さんの力になりたいと思っちまうくらいに」

ガンマンがでれッとしながら、ガールの美点を挙げ連ねる。その様子に何故かだんだんムカついてきた時ガンマンは、けどな…と付け加えた。

「以前迷いこんできた時のセニョリータは、明るく振る舞っちゃいたが…どっか寂しげだった。誰かと一緒にいても心は孤独みたいにな。でも今は違う。自分の寂しさも他人の辛さも分かってやれる…ますますいい女になった!」

ガールの迷いこんできた理由を知っているエンジェルドッグは唇を尖らせ憮然としながらも頷く。
確かにガールは精神的にもすごく強いだろう。だけど目の前で他の女のことを手放しで誉めそやされるのはなんとなく面白くない。

「そうかもしれないけど…アンタねぇ…さすがに誉めすぎじゃないの?ガンマン!」
「なぁに…自分だけじゃ叶えられない望みを知ったのなら、お前さんもいつかそういう女に成れるさ…それこそ本物の天使みたいな女にな!」

ガンマンの言葉は、すとんとエンジェルドッグの胸に落ちてきた。
永遠を繰り返す世界で、なんの魔法も使えないただのガンマンのその言葉はそれでもエンジェルドッグに進むべき『未来』を示してくれる。

…いつか…成れるだろうか。
今よりもより多くの望みを叶えられる自分に。自分自身の望みすらも叶えられる成長した自分に。

「………こういう時だけは外さないのね〜…まぁいいわ!それならいつか成ってやろうじゃない?ガールよりもずっとずーっといい女に☆」
「おう!頑張れよエンジェル!セニョリータを超えられるかは分からないが…応援してるぜ!」
「あら!そんなのすぐよ♪いまに見てなさい☆」

狙うと外すのに外さなかったということは、本当に純粋な気持ちで言っているのだろう。屈託のないガンマンの笑顔にエンジェルドッグは不敵な笑みを浮かべて見せた。
その時、ずっと黙って二人の後を歩いていたカクタスガールが意を決したようにガンマンへと話しかける。

「ね…ねぇ、兄ちゃん!あの…あのね…」

決闘の時の真実を言う勇気をなかなか出せずにいたカクタスガールを振り返り、ガンマンがにかッと笑った。

「妹よ。お前もいつも気丈に振る舞ってるが…本当は辛いこともあるだろう?そういう時は遠慮せずにオレを頼っていいんだぞ!何せ…オレはお前の兄ちゃんだからな!」

しばらくぽかんとした顔で兄の顔を眺めていたカクタスガールは、笑顔で頷いた。

「うん!あたし…兄ちゃんに聞いてほしい事、いっぱいあるわ!」

花が咲いたかのようにほとばしる嬉しそうなオーラを出している妹と全く気がついていない兄。その微笑ましい光景に…エンジェルドッグは思わず半目になるという迷界のアイドルにあるまじき顔をしてしまった。


「アタシ、そろそろ帰ってもいいかしら…ん?」

ようやく中庭へと出たところで、三人は月の明かりに照らされて泣いている小さな人影を見つけた。

「アタシの…お人形…」

しくしく…しくしく…と小さな両手で顔を覆って泣いていたその少女は、三人の存在に気がつくとゆっくりと顔をあげた。頬を伝った涙の跡が痛々しい。

「アタシのお人形…アタシのお人形が…無くなっちゃったの…目が覚めたらね、どこにも…いなくなっちゃったの…」

もうすぐ真夜中になるのにこんなところにいるということは、きっと今までずっと探していたのだろう。その少女にガンマンが優しく声をかける。

「大丈夫だ!泣くんじゃねぇよロストドール。人形は絶対どこかにあるさ!」
「ガンマンのおじちゃん………ううん。きっと…」

両の瞳に涙を浮かべて首を横に振り、ロストドールが断言した言葉に三人は途方にくれる。

「きっと…あのボーイって人が…アタシの、お人形…取ったんだわ!だって、ホテルの皆にイジワルしてるんだもの…!」

どうにかこうにかロストドールを宥めながらガンマンとカクタスガールがちらりと視線をやると、エンジェルドッグはバツが悪そうに目をそらした。

どうやらかなり厄介な『後始末』がまだ残っていたらしい…。



翌日。
三人は朝食のすぐ後からロストドールについて忠告すべく、ガールの部屋を訪れた。ロストドール自身は今はキャサリンと一緒に食堂で朝食を食べている。相変わらず人形は見つからないままだ。

ボーイはパブリックフォンに壊されてしまった審判小僧の籠を直すために朝から部屋に籠っている。彼らが訪ねていった時も、何かを深く考え込んでいる様子だった。話しかけてもうわの空で…ぼーっとした表情のままマイナスドライバーでパスタを食べていた。

あまりの魂の脱け殻状態にそちらは審判小僧に任せることにしてガンマン達はガールだけにでも『ロストドールという危険』を知らせておくことにした。

話を聞き終えたガールがむずかしい顔でうーんとうなる。

「お人形ねぇ…エンジェル、知ってたら返してあげてちょうだい。さすがにあんな小さな子からお人形を取り上げるなんて可哀想だわ」

その言葉に、エンジェルドッグは心外だとばかりに肩をすくめてみせた。

「あら!アタシはそんな事させてないわよ?あの子は近寄るだけでとーっても危ないもの☆そんなすぐにバレるようなことしないわ」
「そうなの?昨日のパブリックフォンのせいじゃないのなら、どうしてお人形は無くなったのかしら?」

エンジェルドッグの言い分を素直に信じて首を傾げるガールに、ガンマン達は言いにくそうに『ロストドールの人形』について説明することにした。

「セニョリータ…こう言っちゃなんだが…ロストドールが人形を無くすのはいつもの事なんだ」
「わたし達もロストドールにお人形をあげた事があるんだけど…その時もいつのまにかどこかに無くしてしまったのよ」

ガンマンがロストドールが人形を無くした回数を指折り数えながら、首を横に振る。カクタスガールも悲しげな声で断言した。

「ジェームスやグレゴリー、ミイラ親子にキャサリン…このホテルにいる奴ならほとんどがあの子に人形をやった事があるんだが…その度にあの子はどこかに無くしちまうんだ」
「可哀想だけど…あの子が無くした人形は絶対に見つからないの」

それを聞いていたガールはにっこり笑って明るく提案した。

「それじゃあ、私達でロストドールの無くしたお人形を探してあげましょう!皆で探せばきっと見つかるわ!そうしたらロストドールとも仲良くなれるかも!」
「おお!そりゃあいい!さすがはセニョリータだぜ!」

盛り上がる三人を尻目に、エンジェルドッグがニヤリと意味ありげな笑みを浮かべる。

「ふーん…そんなに上手くいくかしら★…ねぇ?」


小声で呟かれた言葉は誰の耳にも届かなかった。



―――――――
区切りがいい!50話です!

この回からガンマン←カクタスガール←エンジェルドッグという好意の一方通行の図式が出来上がりました。
同年代の女友達獲得のためにがんばれエンジェルドッグ!!

さていまいち味方なのか分からないエンジェルドッグの謎の笑みとともに、今回からようやく新しい攻略が始まります。二章最後の攻略キャラ、ロストドール編!とりあえず次回からは三章への導入も兼ねてボーイや審判小僧にも頑張ってもらいましょう。

次回!マイナスドライバーパスタの謎とボーイの闇がちょっとだけ解明。
お楽しみにね!


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